第56話 エルの親友
「負けちゃったよぉー! アリエスちゃんの作戦で、今度こそルシェ君に勝てると思ったのにぃ!」
ルシェとの戦いに惨敗したエルが、自室のベッドに顔をうずめてジタバタしていた。
新型霊機の試作機を与えられ、試作中の盾まで与えられ、その上相手を追い詰めてからの惨敗であったため、彼女のショックも大きかった。
「くやしいぃー! くやしい! くやしい! うぅーー!」
「まぁ、まぁ、エルも頑張った結果やし、そう悔しがらんでもええやろ。ほら、練習してた技は実戦に近い形でお披露目できたんや」
「えぐぅ、えぐぅ、だっでえ、だっでぇ! 試作中だったあの盾があれば、格闘戦できないルシェ君を私の得意な接近戦で圧倒できるはずだったんだよぉおお! それなのにっ! ぞれなのにぃいいい!」
「まず、鼻をかめ」
パンチョの差し出した布を手に取ると、泣き顔のエルは思いっきり鼻をかむ。
「うぇえええん。私、機士の才能ないよぉ~!」
「あいつと比べたらあかん。マリリシャと同じ匂いのする化け物や。まともな機士として手本にしたらあかんやつ」
「うあぁああああーーん。マリリシャと同じなんてズルいよぉ! ズルい!」
エルが泣き止まない部屋の中に、頭蓋骨がふよふよと浮かんで現れた。
「カッ、カッ、カッ! エルほどの実力者が新型の霊機に乗っても一蹴されるとは、面白いやつが入ってきたようだな」
「ドクロ! お前、エルの傷口に塩を塗りにきたんか! ちゅーか、なんでお前がおるねん!」
「なんでって、王都に帰ってきてるからだが? うちの主が旧友の顔を見たいってわがまま言うから、わしが使いとして先に参上したわけだ」
泣いていたエルが、空中を漂っている頭蓋骨を見つけると泣き止んだ。ふよふよと浮いているドクロを両手で掴まえると、胸に抱き寄せた。
「ドクロ君だ! お久しぶりだね! マリリシャ来るの本当?」
「ああ、そろそろ来る」
自室の扉がノックされると、エルの返事を待たずに扉が勢いよく開かれた。その場に紅眼と金のオッドアイが特徴的で、赤い髪を左右に束ねた小柄な女性が立っていた。
「年下の機士にいいように、身も心も蹂躙されてしまった親友を慰めに来たわ!」
小柄な女性は、エルの親友であるマリリシャ・トレゾクロッシュだった。
「マリリシャぁあああっ! 聞いてよー!」
「と、その前に『おっぱい大きくてごめん』ってあたしにまず謝って!」
「おっぱい大きくてごめんーー! だから、話を聞いてぇ! ふえーーーん!」
「よし! では、撫でます!」
抱き着いてきたエルを受け止めたマリリシャは優しく頭を撫でる。
エルは、マリリシャの大きな胸に顔をうずめて改めて泣いた。
「あたしの大事な親友のエルを泣かすやつに、ちょっと興味はあるわね。もしかしていい男?」
「まぁ、まぁ、やな。ドワイド家の後継者候補は良物件だと思うぞ」
「へぇ、パンチョの言ってること本当なの? エル」
マリリシャにルシェのことを問われたエルが、頬を赤くしてモジモジし始めた。その様子を見たマリリシャの目が何かを探るような物に変わった。
「何? エル、もしかして……」
「ち、ちちちちちっちちいちちち、違うもん! ルシェ君は、シア様って大事な人がいるから、私なんかが――」
「あれ? あれ? この様子もしかして」
「ちーがーうからー」
「はいはい、エルは出会った時からわかり易いからね。でも、意中の相手は歴史上初の人型精霊にぞっこんなのか。辛いねー」
真っ赤な顔で否定するエルを、マリリシャが頭を撫でてヨシヨシした。
「もう、マリリシャ嫌い!」
「あーあ、せっかく自分の領地が落ち着いてきたから、顔を見に来たのにー。悲しいなぁ」
マリリシャは飛び級で機士認定試験に合格し、機士王リゲルの直臣に取り立てられ、最前線の領地を授けられていた。その領地は長年の
その報告をしに王都にきていたついでに、エルの屋敷に顔を出していた。
「そう言えば、マリリシャはもう領主様だったんだ。忙しいのに会いに来てくれたのにごめん」
「まぁ、あたしくらいの天才なら問題山積の領地も余裕よ。余裕。それにエルの顔を見て元気が出た。それはそうと、しばらくこっちに滞在するんだけど、ここに泊っていい? 王都に屋敷を構えるほど余裕はないからさぁ」
「え? え? ここに泊るの?」
「うん、エルの家。金持ちでしょ。よろしくー。ご飯食べたいなぁー」
「お、お父様にとりあえず許可を取ってくるから待ってて。そこ、私のベッドだから」
「あれ? このぬいぐるみって例の子?」
「だめぇええーー!」
エルは、大事なルシェのぬいぐるみを手に取ったマリリシャをベッドに押し倒した。
「お前の主は相変わらずやな」
「わしの主だからな。まぁ、王都逗留中は世話になる」
ぬいぐるみを巡ってキャッキャと騒ぐ2人を精霊たちが見つめていた。
その後、マリリシャはエルの家に逗留することが正式に決まり、騒がしい日が増えることになった。
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