第54話 戦場
「ルシェの乗ってる機体は化け物かよ!」
「精霊王が本領を発揮したら、あれだけのことができるってことだろっ!」
「前衛の連中が一気に強制停止した! 壁役が集中的に削られてる! 散開しろ」
「脚部が狙われてるぞ! クッソ、脚がやられた! 動けねぇ!」
「止まったら狙い撃ちされるぞ! 動け! 動け!」
発射レートが上がったエレメントライフルが、上級生たちの機体に向かって、マシンガンのように連続してビームを放ち続ける。
命中した機体は1発では落ちないが、5~6発まとめて胸部に被弾すると、撃破判定がされた。
こちらの攻撃を恐れた上級生たちは、密集をやめて個々に間隔を取り拡がり始める。
「250機撃破、完全停止35機、エレメントライフル、脚部も加熱なし、機関安定」
戦闘開始から30分ほどであるが、今のところ機体に目立った損傷も過熱もない。
長時間になれば、激しい機動を繰り返してる下半身の消耗は増すだろうし、ライフルの振幅器も不安定になってくるはず。
回避しつつ、機体のパラメーターチェックをしていたら、警告音が鳴った。
「エルが来る! そばに従う護衛は手練れだね」
オレンジの高位契約者が護衛か。エルに集中させてもらえないのは、少し面倒だな。先に落としておく方がよさそうだ。
「護衛から落とす」
「待って! これは……」
視界の端でモニターの一部が拡大された。そこには、ザガルバンドの集団に混ざって、剣と馬鹿でかい盾を持つグラディエーターの姿があった。
「くぅ、パンチョにしてやられたわ。ザガルバンドに偽装してたっぽい。こっちの探知の目を欺いてた」
「精霊王と契約した者同士の同型機か……。これは想定外だな」
シアによってエルの機体の脅威判定が、黒に上書きされる。
「妥当な評価だ。俺は格闘戦できないしな」
「どうする?」
「接近戦では無理だ。距離を取る。射撃戦ならたぶん勝ち目はあるさ」
突っ込んでくるエルたちを避けるように、機体を走らせると、周囲の護衛たちを削るように射撃を放つ。
エルから応射もされるが、射撃の腕は剣の腕より高くないので回避に苦労はしなかった。
コラーデは黙ってたらしいな。まぁ、それでもいいデータが取れるだろうし、俺としても実戦に近い戦いをできるからよしとするか。
距離を取り回避しつつ、壁役や護衛の機体を削っていたら、けたたましい警告音が鳴る。
「誘導光感知! 狙われてる!」
「ほぅ、上級生たちもやる気を見せてくるじゃないか」
「脅威判定の時、見落とした? そんなわけ……」
「たぶん、戦闘前に切り札としてどっかに隠してたってところだろ。再確認よろしく」
シアが探知を行い、脅威度の再判定をした。俺を追っている集団から離れた場所にいた数機のザガルバンドの脅威度が上がっていた。
「西方1
「エルとは距離を取りたいし、誘導弾で狙われ続けるのは面倒だ。そっちを先に潰す」
向かってくる誘導弾をエレメントライフルで叩き落としながら、距離を一気に詰めていく。
エルの突進に注意を向けさせておいて、それに合わせた上手い奇襲攻撃だったけど、残念だが俺には通じない。
精霊誘導弾発射筒を持つザガルバンドに追いつくと、護衛のしていた機体とともに胸部を撃ち抜き、強制停止に持ち込んだ。
「300機撃破、完全停止45機」
「他に隠してる武装はないよな――っ」
周囲を警戒しながら動いていたら、足もとの地面が急に崩れてなくなった。穴に落ちる寸前に地面の端を手で掴み、地上に這い上がる。
「落とし穴!? 深いし、ちょっと、やりすぎじゃないの!?」
「他にも怪しそうな場所がいっぱいだ。精霊誘導弾発射筒部隊を餌にして動き回れない場所に、まんまと誘い込まれたってわけか。誰の発案かは知らないけどやるね」
久しぶりにやりがいのある戦闘だ。楽しい。楽しい。アドレナリンが出まくる。
地面から這い上がったところで、引き離していたはずのエルたちに追いつかれた。
通信モニター枠にエルが表示される。その表情は『してやったり』といった感じだった。
「ルシェ君、追いつきましたよ!」
「これはエルの策じゃないだろ?」
「お答えしませんっ! 聞きたかったら勝ってください!」
エルのグラディエーターが地面に剣を刺したかと思うと、そのまま力任せに振り抜いてきた。
小石とは言えないレベルの石がショットガンの弾のように機体に襲いかかってくる。かろうじて石の軌道から機体を外せた。
今のやつ、装甲部分ならほとんどダメージはなさそうだけど、非装甲部分に当たると損傷しかねない。
それに下方から飛び込んでくる相手に有用すぎる技だろ。自らの弱点を塞ぐ技を、俺から学び取ってもう使いこなせるレベルらしい。
「実戦で、その技を使ってる来るとは思わなかった」
「ちゃんと腕に負担がかからないよう、改良してありますよ。おかわりいりますか?」
「遠慮しとく」
落とし穴に気を付けながら、少しだけ動き、エレメントライフルを連射するが、馬鹿でかい盾によって放たれた光にすべて吸収されてしまった。
タンク役のエルはかてぇ……。機動性を犠牲にして、積載量特化に変更し、あの馬鹿でかい盾を装備できるようにしてるんだろう。
あの盾、精霊力を使って障壁を張るタイプのビームシールドだもんなぁ。それを精霊王と契約してるエルが使うのはチートだろ。チート。
あのエルが持ってるチート盾を破壊判定にまで持っていくのは、今の武装だと至難の業だよな。となると、彼女を倒すには――周囲のものを使うしかない。
「ルシェ君、戦場でよそ見はダメですよ!」
「分かってるさ」
風切り音が聞こえてきそうな鋭い斬撃が機体を掠めていく。近づかせないようエレメントライフルを乱射しながら後退するが、エルは盾を身構えてジリジリトと距離を詰めてきた。
エルの前進に合わせ、他の上級生たちも包囲を狭めてくる。
俺はエルとの距離を測りながら注意深く、上級生たちの機体がいる場所を確認していった。
上級生たちは包囲しながらも自分たちの掘った穴を避けているため、落とし穴の位置はだいたい分かった。
「シア、前に出るぞ!」
「え? でも?」
「大丈夫、俺には秘策があるから信じろ」
「う、うん! 分かった!」
駆け出すと同時に、エレメントライフルを乱射してエルの周囲を固める護衛を撃ち抜く。僅かに開いた包囲の輪を駆け抜けようとした俺に向かって、エルが狙いすましたように上段から剣を振り下ろしてくる。
「それは当たらない」
斬撃を回避し、ほぼゼロ距離でエレメントライフルを撃ち込む。放ったビームは盾の放つ光に吸収されて掻き消された。
「この盾がある限り、簡単にはやらせませんよ!」
攻撃を防いだエルが、逃げようとする俺との距離をさらに詰めてくる。
「ああ、分かってるさ。だが、重すぎるのも問題だ。それと戦う時はちゃんと足元の確認をしておけ」
「へ? 足元?」
勢いよく突っ込んできたエルの機体をスルリとかわすと、彼女の機体が視界から一気に消えた。
「落ちた!? エルが落とし穴に落ちた! ルシェはこれを狙ってたの?」
「ああ、まあな。残念だが、深く掘ってあるみたいだし、機動性を捨てたあの機体じゃ、重い盾を捨てても登って来れないだろうな。さて、上級生たち諸君。君たちが期待した切り札は今、地の底に落ちたわけだが――」
エレメントライフルを構え直し、俺は包囲の輪を縮めていた上級生たちを見据える。
「は、話し合おう。ルシェ」
「我々は切り札を失った。投降する――」
「ま、まだ負けたわけじゃないぞ! こっちには150機近く残って――」
「はぁ、はぁ、はぁ、やられる! このままだとあいつに蹂躙される!」
「あのエルが簡単に無力化されちまったんだぞ! 勝てるわけが――」
「機士を目指す者として、恐怖に打ち勝たねばならん! あの化け物を倒してこそ、誉の機士になれるというものだ!」
「突撃ぃーーーーー!」
エルという切り札を眼前で失った上級生たちの統制が一気に乱れた。
突撃をしてくる者、逃げ出す者、間違って落とし穴に落ちる者、武器を捨て投降する者、誰に従うか困惑する者、口論から同士討ちを始める者と入り乱れ、統制のとれた戦闘集団から、ただの烏合の衆に成り下がった。
「投降は認めません。撃破判定で完全停止するまで戦い抜いてください」
武器を捨て投降してきた上級生たちに外部拡声器を使って、再武装を促す。評価試験でよりいいデータを取るには、上級生たちのお手伝いも必要だった。
「くっ! ルシェめっ! 俺たちをなぶるか!」
「俺らだって最新型の機体に乗ってれば、こんな無様を晒さずにすむのに! クソがよっ!」
「あーーーーーーーーっ! 落ちた! 終わった……」
「逃げ切ってやる! 逃げ切ってやるぞ! オレは最後まで逃げ切るんだ!」
「こんなことなら、一発逆転を狙わずに地道に霊機の操縦訓練しとくんだった!」
烏合の衆になった上級生たちを最後の一機まで殲滅するまでに要した時間は4時間ほどだった。
途中、10分ほどの休憩を挟んだ際、シア水を味わう機会があったわけだが、味についてはシアにだけ伝えることにした。
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ストックなくなっておりますので、本日より18時更新に変更させてもらいます。更新は続ける予定ですので、引き続き転生機族の応援をよろしくお願いします。
シンギョウ ガク
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