第53話 1000対1
「ルシェ・ドワイドが来たぞ」
「あいつが乗ってるのは最新型霊機だから、気を付けろよ。ザガルバンドの時ですら20機を瞬く間に戦闘不能したんだからな」
「分かってるさ。こっちは5回の撃破判定まで許されたらしいから、さっき話し合ったとおり、二五四期の二〇〇名が総がかりして数で押す」
「誰がルシェを倒しても、恨みっこなしだからな」
「ああ、分かってる。だが、全力で襲い掛からないとあいつは倒せないぞ」
「戦闘の際は、割り振った各班のリーダーの指示に従ってくれ」
「やってやる。やってやるぞ!」
操練場で盛大に通信を垂れ流して騒いでいる上級生たちのもとに到着すると、コラーデから通信が入った。
「みんなやる気でしょ~?」
「ええ、そうみたいですね。多少長引くと思いますよ。さすがに格闘戦なしの1000機の撃破は骨が折れる。でも、その分いいデータは取れるはずです。この新型機の挙動データもね」
「ふぅーん。そういうことね~。おっけー、コラーデからぁ~機体を持ち込んだ霊機工房に恩を売っておく~。おねだりはぁ~試作機の継続使用権とかでいいかなぁ~」
「お任せしときます」
コラーデはああ見えて交渉は得意な人だ。なので、きっとこの試作機のグラディエーターは、提供データの返礼品として俺にもらえると思われる。
メイン機体として乗ることはないが、何か不具合が起きた時の代替機として確保はしておきたい機体だ。
「さて、始めますか」
「では、では、開始~!」
コラーデが開始を告げると、上級生たちがいっせいに俺の機体を取り囲むように広がり始めた。
機体性能、技量ともに劣っていると判断し、教本通りに左右に広がり包囲して一対多数の状況を作り出そうとしている。
「200機か……。多いね。脅威判定終わり!」
「白と緑は除外、オレンジと赤だけ残して」
「りょーかい」
モニターを埋め尽くしていた脅威判定が整理され、高位精霊契約者と精霊王位契約者だけが残る。
エルは参加してるらしい。ソラとアリエスは参加してないか。まぁ、除外されてるし、参加するメリットはないか。
危ないのは赤判定のエルだけだな。格闘戦の領域に踏み込んだらこっちは格闘できないし、けっこうきついだろう。
「まずは、エルを落とす」
最優先で倒す相手を決めると、包囲をするため拡がっていた上級生たちの中に機体をゆっくりと近づけていく。
「ルシェが来るぞ! 格闘戦で唯一対抗できそうな、エルを守れ!」
「壁だ! エルの周りに壁作れ!」
「エレメントライフルでエルが狙われてるぞ! 敵の射程は不明だ! こっちも応戦しろ! 弾幕張れ! 弾幕! 当たらなくてもいい! 近づけないよう撃ちまくれ!」
上級生たちの張った弾幕は、シミュレーションモードだということを示す白色のビームだった。
ただ、俺がいる場所は、まだ向こうの射程距離からは遠く、当たることもないので、焦る必要はなかった。
「モニターが真っ白だね。補正する」
「助かる。さぁ、敵陣に突っ込むぞ」
「おっけー、行こう。行こう」
フットペタルを踏み込み、機体の速度を一気にあげると、弾幕の中に飛びこんでいった。
「はえぇ! 何だあの動き! 霊機なのかよっ!」
「くそ! 当たらない! このポンコツライフルどうにかしてくれ!」
「来たぞ! 来たぞ! ルシェが来たぞ!」
弾幕を少しだけ弱めるため、最前列のザガルバンドたちに狙いを定め、エレメントライフルを数発放つ。
放たれた白いビームは機士席のある胸部を綺麗に通過していった。
「5機撃破」
「照準精度はいいみたいだ。シアの補正も上手く作用してくれてる」
リロード待ちの間も絶えず回避を続け、充填が終わると同じ機体を狙い撃つ。
「10機撃破」
「さすがに5回撃破は盛りすぎたかもな」
「でも、ルシェならやれちゃうんでしょ?」
「まあね。やれないことはない。少し、向こうにも協力してもらうさ」
格闘戦はするなと言われてるけど、格闘戦の距離で戦うなとは言われてないしな。同士討ちで少しでも敵の撃破数を稼がせてもらうさ。
再度充填を終えたエレメントライフルを構えると、密集した敵の中に機体を踊り込ませた。
敵の機体とすれ違いざまに、エレメントライフルを胸部に放ち撃破していく。
「突っ込まれた! 乱戦だ! 射撃やめろ! 味方に当たるぞ!」
「いや、こっちは5回撃破されてもいいわけだし、突っ込んできたルシェを掴まえてしまえばいい。取り押さえろ!」
「当たってるぞ! 俺に! 馬鹿やろうが! ド下手くそ!」
「お前がそんな場所でボーっとしてるから悪いだろうが! 当たらないよう、動け!」
「やばい、やばい、オレあと1回で完全停止だ! 嫌だ! 一番最初に5回撃破で落とされるなんて恥辱でしかないだろっ! 嫌だー!」
「こっちくんな! 邪魔だ!」
「あーーーーーーーっ! 落ちたぁああああああああ! いやだぁあああああああああ!」
乱戦に持ち込んだことで同士討ちも始まり、俺に狙われていた機体もポツポツと強制停止し始めた。
「70機撃破、完全停止5機。まだまだいっぱいいるね。機体は損傷なし、脚部もエレメントライフルも過熱してないよ」
「さすが次世代汎用霊機として作られてるだけのことはある」
「まぁ、まぁ、いい機体にはなりそうかもねー」
「じゃあ、お土産に渡す試験もついでにしとこう。エレメントライフルを連射性能特化に変更してくれ」
「りょーかい。変更にちょっと時間もらうね」
「ああ、その間は回避行動のデータ収集しとく」
シアにエレメントライフルの調整を任せると、襲い掛かってくる上級生たちの攻撃をかわすことに専念する。
「撃って来ないぞ! 今が取り押さえる時だろ!」
「剣を振り回すな! こっちに当たる!」
「オレが一太刀目を入れる!」
「ルシェに群がってる味方ごと撃って落とせ! これならエルの出番もないぞ! 撃て! 撃て!」
「ぎゃああああ! 俺の機体を撃つな! 射線くらい気にしろ! 殺す気かっ!
機動力の差は赤子とオリンピック選手くらいの差があるため、回避するのは余裕だった。
ザガルバンドだと、そろそろ下半身が過熱して破損するくらいの激しい機動をしているが、グラディエーターは何ら警告音を発しないで通常稼働していた。
そんなグラディエーターに格闘戦を挑んできた十数機が、味方同士で剣の接触事故を起こし、機体が破損し行動不能として脱落していく。
俺は格闘戦をしてないので、この破損については整備科から咎められる謂われないはずだ。
「130機撃破、完全停止20機。敵戦力1割喪失。それとエレメントライフルの調整完了したよ。威力は弱いけどワンチャージで250発は撃てるし、発射レートはかなり高くしてある」
「さすがシア。俺のお願い以上のことをしてくれてて助かる」
変更を終えたエレメントライフルを構えると、敵の中に飛び込む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます