第52話 新型機


 大急ぎで精霊石で積み替え作業を終え、起動をしたグラディエーターを格納庫で軽く動かしているとシアが話しかけてきた。



「まぁ、ザガルバンドよりかは悪くないかも。窮屈さはあるけど、取り出せるエネルギーは段違いだよ」


「従霊機じゃなくて、霊機だしね。精霊融合反応炉の容器は強化されてるさ」


「そうみたい。起動チェック完了。機関異常なし」



 起動チェック後にモニター上に表示された数値を確認していく。



 ザガルバンドの15倍くらいの出力が出てるな。量産することを前提として設計されてる霊機とはいえ、従霊機とは比べ物にならない数値だ。



 この数値なら、この前、苦戦したメタスターシスでもこの機体なら余裕で倒せる。



「出力の割り振りはどうする?」


「機動力特化、脚部の冷却能力増しって感じかな」


「おっけー。変更する」



 被弾しない機動力こそ、霊機戦闘で最重要な能力。敵の攻撃が当たらなければ、ずっとこっちの攻撃ターンってわけだ。



 だから攻撃力の向上は、最優先にしなくても問題ない。



 シアによってパラメータが調整され、機動力特化のグラディエーターが爆誕した。



「座席の方はどう?」


「悪くないね。座席の形状が変更されてて、身体が包み込まれる感覚だ」



 ゲームのVRコクピットだと、あんまり座席形状の変化は体感できなかったが、やはりリアルでは座席形状の大切さがよく理解できた。



 ザガルバンドの機士席は、飛んだり跳ねたりする激しい機動を想定してない座席形状であったので、落ちないように踏ん張ることが多かったが、今の座席なら加速Gがかかってもずり落ちないですむ感じだ。



「ルシェが操縦しやすそうでよかった。コラーデの作った装置は……っと。正常に稼働中だね。わたしの精霊力を凝縮したポーションが充填されていってる」



 機士席のモニターには、精製されたポーションの充填率が表示されている。現時点で10%程度だ。



 精霊王から放たれている精霊力を凝縮し、精製された精霊力回復ポーションがどれくらいの効果を発揮するのかが、今回の試験の最重要データ。



「とりあえず、シア水の味の報告はいらないからね~。データはこっちで取ってるからルシェ君たちは暴れてもらえば十分よ」


「分かってますよ」


「あ、あの。わたしは味の報告してほしいかなーって思ったりしてるんだけども。ダメかな? ダメ?」



 シアが通信枠内でチラチラと俺を見てくる。その様子を別枠で見ているコラーデが笑いを噛み殺していた。



「味に関しては後でシアだけにこっそりと伝えるさ。安心してくれ」


「ほんと!?」


「ああ、そのつもりだ」


「じゃあ、頑張って絞り出すね!」



『頑張って絞り出す』か……。うちの相棒の発した言葉が可愛すぎて眩暈がするな……。可愛いかよ。



 満面の笑みを浮かべた相棒を見ていたら、笑いを噛み殺していたコラーデが突如として真剣な表情となり、俺をジッと見てきた。



「ルシェ君、コラーデも頑張って絞り出そうか~?」


「何をですか?」


「もぉ~分かってるくせに~」



 コラーデのセクハラ発言に反応すると、シアが怒るから無視。無視。



 それに、ふざけてる時のコラーデの発言を無視しても、彼女の好感度が下がらないのは経験済みだ。



 彼女の好感度が下がるのは、彼女が提案した研究や実験に対して協力をしなかったり、領内に流行った病気を見て見ぬふりをした時だけだ。



 色恋関係での好感度の変化イベントはほとんどない。



「コラーデ先生のその話。試験に関係なさそうですから、無視しますね」


「ちぇ~、ルシェ君真面目かっ~。じゃあ、そんなかっこいいルシェ君に追加情報ね。上級生たちには、校長から首席機士のルシェ君に一矢報いた人に対し、霊機操縦試験の免除を通達してるから相手はガチよ。ガチ。よろしく~」


「それでもこの機体なら余裕ですよ」


「そこの痴女、チェック作業の邪魔すんな! ルシェ、武装チェック完了。エレメントライフル、シミュレーションモードに変更したよ」


「相手は5回撃破判定したら、システムダウンで脱落にしといてくれ」


「ちょ!? マジぃ?」



 コラーデは驚いている様子だが、5回撃破ルールにすれば、簡単に上級生たちも行動不能にはならないはずだし、それなりにいいデータが取れると思う。



「本気です。頼んだぞシア」


「りょーかい、りょーかい! がんばるぞー!」



 調整を終えた俺たちは、エレメントライフルを携えると、霊機操縦試験免除をかけて目が血走っているであろう上級生たちの待つ操練場へ向かって歩き出した。

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