第49話 コラーデ先生
そろそろコラーデとのフラグを立てようかと思っていた矢先、リンデルルートでもあった突発の呼び出し状イベントが始まった。
発動条件は完全にランダムなイベントだ。正直、ここで起きるとは思ってなかったため、エルにコラーデとの仲介を頼もうかと思っていたところだった。
思いもかけない突発イベントではあったが、コラーデのスカウトフラグを立てるため、しょんぼりしているシアを連れて保健室の扉を開いた。
「いらっしゃ~い。お待ちしてたわ~」
相変わらず露出度の激しい衣装を着ている。耐性のなかった初期プレイ時は妹のことを考えて雑念を払っていたが、今ではすっかり見慣れているため動揺はない。
「呼び出された件についてですが、シアには勝手に他人の身体を触らないよう約束を交わしていますので、勝手に触られたというのはコラーデ先生の誤解かと思います」
突発イベントの内容を知ってる俺からすると、コラーデが俺たち2人を呼び出すために、虚偽の内容をでっちあげているのを知ってる。そのため、回りくどい弁明をする気はなかった。
「え~でも、コラーデのおっぱいをシアちゃんが触ったよ~。見てた子もいるしさ~。触られてたコラーデとしては何らかの賠償をしてほしいなぁ~」
「そのことに関しては、シアから聞いた限りだと、コラーデ先生から手を引かれたと聞いてますが?」
「え~、そんなことないよ~」
呼び出し状イベントは、突発イベントだが、その内容は知っている。コラーデがどうしても人型の精霊になったシアの研究をしたくて虚偽の内容で呼び出しているのだ。
ここで、返答を間違えるとコラーデのスカウトフラグが立たないだけでなく、シアのヤンデレ値が上昇し、その後の機士認定試験中に暴走フラグが立ち、機体ごと爆散するENDに入ってしまう。
誰の側に立つかを間違えてはいけないイベントだった。
もちろん、俺がかばうのはシアだ。シア側に立って彼女をかばい続ければ、コラーデが呼び出し状の内容に関しては折れてくれる。シアもかばわれ続けたことでヤンデレ値の上昇を引き起こさずに済む。
その後、素直に研究をしたいと申し出てきたコラーデとの間に、俺の監視下のもとであれば、シアの研究を認めるという約束を取り付ければ、スカウトフラグは成立するはずだ。
「シアは俺との約束を絶対に破りません。そして、俺はシアに対して、他人の身体……特に女性の胸に対しては許可なく勝手に触らないようにと伝えてあります」
隣に立つシアが鼻息荒く、俺の言葉に対して頷いていた。彼女としてもコラーデから冤罪をなすつけられたことで思うことがたくさんある様子だ。
「でも、でも、コラーデの胸が触られたのは事実として残ってる~」
「ですから、それはコラーデ先生自らがシアの手を引いて触らせたということですよね?」
「違うもん、触られたんだもん。そんな態度とっていいのかな? 校長にこの件を報告してもいいんだけどなぁ~」
はっきりと脅迫までしてきた。目的達成のためなら手段を選ばないコラーデの悪い癖だ。
彼女は、精霊を介した回復魔法の発展やポーションの作成に人生を捧げており、そのためなら何でもする女性なのだ。
マッドサイエンティストとも言えるけど、純粋に人を助けられる技術を極め、助けられる人を増やしたいだけの気持ちでやっているので、なかなかの変人である。
容姿と言動と行動と思考がちぐはぐなため、彼女の本質を見誤るプレイヤーも多かったけど、基本は自己犠牲の人だ。ただ、人を助けたい想いが強すぎるため、ヤバい行動をすることが多々発生するため、トラブルも多く発生する。
「別に報告してもらっても構いません。シアは悪くないと俺が断言しますので」
虚偽の内容であることは知っているし、コラーデが候補生との間にトラブルを起こし、校長から何度も注意されているため、訴え出ることはないとも知っている。
つまり、はったりは俺には通じない。
「本気? 処分によっては、退学になるかもしれないんだよ~」
「構いません。退学なら、自力で戦果を挙げて再入学するので問題ないです。それよりもシアを悪者にされる方が耐えられない」
それまでゆるふわだったコラーデの表情が厳しいものに変化した。
「そこまでしても守りたいの?」
「ええ、俺の大事な相棒ですから絶対に守りますよ」
隣にいるシアが俺の手をギュッと握ってきた。手を通して人と同じぬくもりが伝わってくる。
俺とシアを交互に見ていたコラーデが肩を竦めると、大きく息を吐いて椅子に座った。
「ちぇ~、せっかくシアちゃんの研究ができると思ったのになぁ~。ルシェ君を敵に回すと、こっちが危ないし、今回はやめとくかな~」
「こ、今回はぁ!? ちょっと、あんた! ルシェに迷惑がかからないよう黙って聞いてたけど、謝罪はないの! 謝罪!」
「え? 何? シアちゃんがコラーデのおっぱい触りたい? 触る? いいよ。手を貸して。その代わりシアちゃんにも触るからねぇ~」
「人の話を聞け! この痴女!」
「いやぁ~ん、ルシェ君、シアちゃんが怖い~」
「こらぁ! ルシェに触るなぁ! この変態痴女がぁ~!」
カオス……。コラーデとシアの間に挟まれると、だいたいこんな感じになるんだよなぁ。ああ、懐かしい感覚だ。
でも、今回はコラーデが折れてくれたようなので、スカウトフラグ確立に向けて、第一歩が始まったという感じだ。
「コラーデ先生、シアに許可なく触れると、校長に揉め事を起こしたことを告げ口しますよ。たしか、次に注意を受けると解職でした――」
シアに触れようとしていたコラーデの手が、すぐさま自分の太ももの上に置かれた。
「ルシェ君、酷いよぉ~。コラーデは、シアちゃんのことが知りたいだけなのにぃー」
「ちゃんとシアに認めてもらい、お友達から始めてください。身体に触れるのはその後です」
「ムリムリ、この痴女とお友達になんてなれないからっ!」
俺の後ろに隠れたシアが、コラーデを追い払うように手を振っている。
「シアちゃん~! なんで、そんなこと言うのぉ~」
「自分のしたことを考えれば分かるでしょ! しっ、しっ!」
とりあえずスカウトフラグ確立に向けて一歩は進んだが、コラーデとシアの仲の進展は前途多難だな。
シアのヤンデレ値が上がらないよう、エルを仲介役にしつつ、コラーデの研究を手伝って、俺が卒業する際、スカウトできるようにしておこう。
「おっぱいがダメならちゅーにしとく? ちゅー? ほらほら、ちゅー」
「はぁ!? あんた馬鹿!? 触れるなって言われたの聞いてないの!? 勘弁して!」
「じゃあ、ルシェ君にー」
「はぁ!? ちょっと待って! なんでルシェにするの! 待て! そこの痴女!」
「俺は遠慮しますよ。したら、即座に校長に報告しますからね」
「うわぁ~ん、ルシェ君もシアちゃんもコラーデに酷いことするぅ~。酷いよ~」
「酷くないです。毅然とした対応と言ってください。ただ、コラーデ先生の研究内容に関しては俺も興味があるので、ちゃんと意図を説明したうえでシアが協力してもいいと言うならお手伝いする気ではあります」
俺の言葉にコラーデの表情が真面目なものへ変化した。
「ガチィ?」
「ええ、ガチですよ」
「じゃあ、ガチでちゃんとした研究目的を書いた計画書をルシェ君に出すね。それ見て」
「分かりました。その計画書をシアと確認したうえでお返事しますね。意図が不明だったり、シアが嫌がりそうなものがあれば拒否しますのでお忘れなく」
「おっけー。ガチの時はちゃんとするから大丈夫」
コラーデが親指を立ててニコリと笑った。ガチモードの時は、いたって真面目だから変な要求は入れて来ないと思う。
「ということで、シアには何ら問題ないので、俺たちは帰っていいですよね?」
「あ、うん。コラーデはこれから計画書を書かないといけないから帰っていいよ~。お疲れ~」
俺は、コラーデの態度が急変したことに呆気にとられたシアを連れて保健室を出た。
しばらく無言で廊下を進むと、手をつないだままのシアが話しかけてくる。
「ルシェ……」
「大丈夫、シアが嫌がることが書いてあったら、断固拒否するさ。でも、コラーデ先生の研究している精霊を介した回復魔法やポーション生成技術に関してはルカの病気に効くものあるかもしれないしね」
「ルカの病気に効く!? そうか……。そうか、病気に効くものがあるかもしれないのね! それなら、協力もしていいかも」
シアもルカのことが心配でたまらないので、病気に効くものがあるかもしれないとなれば、相当嫌なもの以外は協力はしてくれると思う。
俺たちはそのまま教室へ戻ることにした。
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