第27話 兄様との思い出作り



 モニターに映る景色が動くと、連動するように私が座る席がわずかに揺れる。その揺れ具合が心地よく眠気を誘ってくる。



「ふあぁあ……」


「無理に起きてなくてもいいんだぞ。いつも寝てる時間だろ?」



 外はすでに日が暮れており、真っ暗で霊機の肩に備え付けられている投光器からの光が街道を照らし出していた。



「大丈夫。眠くないから。お昼にたっぷりと寝たもん」



 兄様が私の体調を気遣って、日の光が強い日中の移動は控えて、完全遮光されたテント内での休養時間を設けてくれている。おかげで少し眠たかったけれど、体調の方はすこぶる良好だった。



「そうか、なら起きててもいいぞ。ただ、夜だし景色は見えないけどな」


「でも、兄様が霊機を操縦してる姿を見てれば飽きない」


「ん? そんなの普通に飽きるだろ?」


「うーうん、飽きないよ。ずっと見てても飽きない」



 兄様は気付いてないかもしれないけど、霊機を操縦してる姿はとってもかっこいいんだよ。それをこんな近くで見れるのに、寝てるわけにはいかないよ! 



 最近は体調こそよくなってきたけど、視力の回復はしてないため、視野もかなり狭まり物がぼやけて見にくい。けど、兄様の霊装着姿はこの目に焼きつけておきたい。もしかしたら、これが最後の一緒の移動かもしれないし、目もいつまで見えるか分からないんだから……。



「ルカちゃんは、ルシェのことに興味津々だものねー」


「そうなのか? シア?」


「そうだよ。いつも、わたしにルシェが外で何してたのか聞いてくるんだもの。細かくね」


「シ、シアさん!? それは兄様に言わないって――」


「そうだっけ? ごめん、ごめん」



 座席の後ろからにゅっと顔を出したのは、兄様の契約した精霊のシアさんだ。小柄だけど綺麗な顔立ちをした子で、私の世話を色々と焼いてくれるお姉さんみたいな存在だ。もしかしたら年齢的にもっと年上でお母さんっぽいのかもしれない。とにかく頼りになる人。



 そのシアさんにいつも兄様のことを細かく聞いてたことをバラされ、顔が火照っていくのが分かった。



 妹としては、血を分けた兄が外で何をしてるのか知りたいのは当然の権利というか、なんというか。当たり前のことだと思う。外でのことを知りたいのは、恋愛感情とかじゃなくて、自分のことで苦労をかけている兄様には絶対に幸せになってほしいからだ。



 でも、シアさんと契約してからの兄様は以前よりも声が弾んでいる気がする。2人は契約してからまだあまり期間がすぎてないけど、ずっと前から一緒に居たかのように呼吸が合ってると感じる。



 まるで、前から知ってるかのような空気感が兄様から漂っていた。



 自分としてはシアさんはとってもお世話になってるし、頼りになる人なので、兄様の恋人になってもらえると安心して後を任せられる気がする。自分の寿命がどこまであるのかは分からないし、私の存在が消えて兄様が自暴自棄にならないよう支えてくれるのはシアさんかなって思う。



 それに美少女の精霊と、美男な人間が好き合って交際するのって、とっても素敵なことだと思うんだよね。いろいろと問題はあるんだろうけど、私は命が続く限り2人のことを応援したいと思ってる。



「もぅー、シアさんにバラされたら、兄様のこと見てるのが恥ずかしくなっちゃったよ」


「可愛いー! ルカちゃんの怒った顔も好きー!」


「シアさん、ここ狭いからー」



 シアさんがギュッと抱きしめてくれた。



 兄様やローマン以外の人は、世話こそしてくれたものの私の病気のことを怖がってた気配があった。けど、シアさんは怖がる気配もなく抱きしめてくれてくれる。たまに寝起きで寝ぼけている時にシアさんに抱きしめてもらうと、顔も見たことがない『お母さん』って言葉を思わず口に出す時がある。



 その時は本当に恥ずかしくて、顔を真っ赤にして間違えたことをちゃんと謝るんだけど、シアさんはニコニコして笑ってる。



 でも、そのシアさんが、兄様のこと死ぬほど大好きなのは知ってるんだ。兄様の視線がちょっとでも他の女の子に向いてると、露骨に機嫌が悪くなるし、綺麗な年上のメイドさんも近づけさせないようにしてるのも知ってる。



 やきもちを焼いてるシアさんを見てると可愛い。兄様は容貌が優れてるし、基本的にカッコイイからいろんな人に好かれるし、シアさんも大変だぁ。



 最近は、兄様の髪を切った時に手に入れた髪を縫い込んだ兄様のぬいぐるみまで作ってるっぽい。交渉して私にもおなじぬいぐるみを作ってほしいと頼んであるけど、それは次回の髪切りまでお預けになってる。早く兄様の髪が伸びないかなぁ。



 チラリと兄様の髪に目をやると、まだ綺麗に切り揃えられたまま長くなっていなかった。



「ん? 髪の毛に何か付いてるのか?」


「ん? なんでもないよ。なんでもない」


「そうか、もうしばらく進んだら休憩を取る。それまで起きてられるか?」


「はぁーい。起きてるられるよ」


「お夜食は何にしようかなー。ルカちゃん、何か食べたい物ある?」


「シアさんの作ってくれる食事なら何でも食べるー!」


「じゃあ、ニンジンたっぷりの――」


「無理―!」



 私たちの会話を聞いていた兄様が、霊機を操縦しながら笑いを噛み殺していた。それからは眠いながらも楽しい旅が続き、兄様たちとの良い思い出作りができた。

 


 またいつか、兄様たちと一緒に旅に出れるといいなぁ。それまで自分の身体がもってくれるといいけど……。

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