第28話 金色秘話


 1週間の旅程は、特に大きな問題もルカの体調悪化もなくこなし、俺たちは無事に日暮れ前に王都の機族街にあるドワイド家の屋敷に到着したところだ。庭に作られた駐機場にザガルバンドを駐機させ、日暮れとともに降りると、屋敷の玄関に向かった。



「坊ちゃま! ルカお嬢様! よくぞご無事で! このローマン、心配で夜も眠れませんでしたぞ!」



 玄関から飛び出してきたのは目の下に隈を作ったローマンだ。



「ローマン、俺はもう子供じゃないぞ」


「爺が心配してたのは、坊ちゃまではありませんぞ! 坊ちゃまは遠い山野に放り出されても自力で王都までやって来られると思っております。爺が心配していたのはルカお嬢様の方です!」


「むっ! ルカの心配か。そうか、俺の心配はしてないのか……」



 ローマンは実父が付けてくれた守役なのに、俺に対する扱いが雑過ぎるんじゃなかろうか。たしかに遠い山野に放り出されても自力で王都にたどり着くくらいのことは朝飯前にこなせるよう身体を鍛えているわけだが――。多少は心配してくれてもいいんだぞ。



「ローマン、私も兄様とシアさんのおかげで、ほらこの通り元気に旅を終えたの」



 ルカの無事な姿を見たローマンはおいおいと泣きながら、抱き上げて頬ずりをしている。



 彼は実父の方の親戚筋の人であるため、俺もルカも守役というより親戚のおじさん感が強い。なので、わりとフランクに接することもあるし、わがままも言うことが多いのだ。



「ルカお嬢様! 本当にご無事でよかった! シア様、旅の間の世話をありがとうございます!」


「それはわたしが楽しみでやってることだから気にしないで。それよりもルカの部屋の準備は?」


「万全にせよとブロンギ様からも言われておりますので、このローマンが完璧に仕上げてありますぞ! ささ、こちらに!」



 ルカを抱き上げたまま、ローマンが先導し王都の屋敷の中にある妹の部屋へ案内をしてくれた。



「へぇー、ちゃんと光が入らないように遮光してある。けど、暗さは感じないね。魔石エネルギーの明かりがいっぱい設置してあるんだ。お金かかってるー」



 俺が王都で機士学校に通っている間、妹がすごす部屋を見て度肝を抜かれた。領地の屋敷内のあの薄暗い別宅とは比べ物にならないくらい広いうえ、視力の悪いルカが躓かないよう床はフラットにされ、室内も明るく、外の光が一切室内に入り込まないよう窓という窓が板で塞がれている。



 それに外気を循環させる空調も導入してあるらしい。気温も湿度もコントロールされてて快適空間となっていた。調度品も華美ではないないが質のいいものを中心に揃えられており生活の快適さも求めてある様子だった。



 ここでならルカもストレスを感じることなく、生活ができるだろう。



「ローマン、よくやってくれた。これはいい部屋だ」


「ブロンギ様からは金に糸目はつけるなと言われましたので、ルカ様が快適に過ごせるお部屋を全力で作らせてもらいましたぞ!」


「さすが、ローマンだ」


「ありがとう。ローマン」


「坊ちゃまとルカ様にお褒め頂き恐悦至極でございますぞ」



 喜んだ顔を見せたローマンは、抱き上げていたルカをベッドの上に下ろすと、ベッド脇のサイドテーブルの上に置かれた機器を操作するのが見えた。



「ルカ様、こちらが長距離通信機でございます! 到着したらすぐに連絡せよとブロンギ様より言われておりましたので、お疲れでしょうが、まずはご一報を」


「はぁーい。義父上はお食事中かな? 今、通信して大丈夫?」


「到着したらすぐと申されおりましたので、大丈夫です」



 ローマンから端末を受け取ったルカが、呼び出し用のスイッチを押すと、半透明のウィンドウが投影された。呼び出し音みたいな音が続き、通信が繋がる。ウィンドウ上にブロンギの顔が映し出された。



「やっと到着したか! ルカ、体調に変化はないか?」


「はい、兄様とシアさんのおかげで元気に旅を終えられました」


「そうか、そうか。よかった。移動中は連絡手段がないので、わしも気を揉んでおったのだ。ルシェたちも元気そうだな」


「はい、兄様もシアさんも元気です。それと、王都のお屋敷のことありがとうございました。とっても素敵な部屋にしてもらえてて嬉しい」


「娘のためにわしができることをしたまでだ。ルカが住んでて困ったことがあれば随時ローマンに相談せよ。金の心配はせんでよいからな」


「はい、ありがとうございます」



 相変わらずルカには甘い義父上だった。でも、これだけ良い環境を整えてくれたことには感謝しかない。それからしばらくルカと義父上が話していたが、あまりに長く通話をすると魔石も消費するため、適当なところで切り上げてもらうことにした。



 その後、少し遅めの夕食をみんなでとっていると、ルカが何かを思い出したように俺に話しかけてきた。



「そう言えば、兄様の霊機って、あの白色じゃないとダメなのかな?」


「ローマン、機士学校に持ち込む機体に規則はあるのか?」


「持ち込む機体は、ザガルバンド型のみと定められておりますが、色の規則はなかったはずです」


「だそうだ。色がどうした?」


「兄様には金色が絶対に似合うと思うんだよね。金色ってキラキラしてるし、かっこいいし、目立つから視力の悪い私でも見つけやすいし」



 ん? ん? 待てよ。この流れ……。ルシェの金色好きってもしかして……。妹ルカの影響だったのか? 作中にルシェの妹ルカは存在してないキャラだったが……。契約した精霊にルカの名を与えているということもあり、『神霊機大戦』ではルカがゲーム開始前に死んでいる世界線だったのかもしれない。



 けれど、今、俺が生きている世界線ではルカも病弱ではあるが生きている。リンデルもいないということもあり、やり込んだ『神霊機大戦』とは微妙に違う世界を生きているのかも。



 まぁ、違う世界線かどうかは置いておくとして、今は金色問題はどうするべきか……。大事な妹のお願いを無下にするわけにもいかないが――。機体を金色に染める趣味は俺にはない。それに目立つ機体は、敵に発見されたり、目標にされる可能性も高い。デメリットの方が高いんだが。



「兄様、金色とかダメ?」


「わたしもルカちゃんと同じく金色推しかな。目立つし派手だから、ルシェがすごい機士だって周囲に知らしめることもできるだろうし」



 くぅうう! 大事な妹と相棒の精霊からお願いされたら断れねぇ! 金色にするしかないだろう! めでたく金ぴかルシェの爆誕だ!



「ローマン、機体の塗り替えにはどれくらいの期間がかかる?」


「2日間あれば完了できるはずです」


「それだけの期間で済むなら入学式には間に合うな。では、すぐに手配してくれ」


「承知しました」



 ローマンが部下の男に指示を出すと、男が部屋から駆け出していった。晴れて、金色に塗り替えられた機体で機士学校に入学することになることが決まった。



 まぁ、ルシェの抱えていた機士席のトラウマは解消しているし、俺の操縦技術があれば、ネタキャラにならずに済むとは思う。

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