第25話 うちの妹は最強に可愛い


「兄様、今日のドレスはど、どうかな? 似合ってる?」



『胸元に大きなリボンをあしらったフリル満載の可愛い服』と言ってあげたら、喜んでくれるだろうか? いや、待て可愛いは褒め言葉として受け取ってくれるか? ルカももう10歳だ。子供騙しみたいな薄っぺらい褒め言葉の中身は見透かされてくるはず。



 ここは、『ルカの魅力的な容姿を存分に周囲に見せつけてくれるピッタリな服』と言った方がいい気がするぞ。



 いやいや、待て! 精一杯のおしゃれを楽しんでいるルカに対する返答に、もっと敬意を払った方がいいか? 『世界最高の美少女の着ているドレスが似合いすぎて、俺の目玉は焼き尽くされそうだ』とかの方がいい気がする!



 俺は顎に手を当て、妹の服をどう褒めるべきかに脳内処理能力の100%を割り振っていた。



「兄様、どうなの?」


「ルカちゃん、ちょっと待ってあげてね。今、ルシェは頭の中で猛烈な勢いで言葉を選んでると思うんだよねー。いつものごとく」


「はぁーい。楽しみだなー」



 ニコニコ顔のルカは、病気の影響で視力が衰えており、かなり近い距離でしか物を識別できない。そのおかげで必死に褒める言葉を考えて悩んでいる俺の顔を見られずに済んでいる――はずだ。



 散々悩み抜いた末、俺は今日の服に対しての感想を口にする。



「今日も可愛い妹が見れて、俺は一日ずっと幸せだ」


「また、それー。兄様のその言葉は何回も聞いたよー」



 返答を聞いたルカの頬がぷぅと膨らむ。どうやらもっと他の褒め言葉の方がよかったらしい。



「そうだったか? 毎日、何百通りの言葉を考えているんだが――どうしても最善の言葉を選ぶとコレになってしまう。明日は気を付けるよ」


「ルカちゃん、今日のルシェの言葉を翻訳するとね。『世界最高の美少女の着ているドレスが似合いすぎて、俺の目玉は焼き尽くされそうだ』って言いたいのをグッと我慢してからの『今日も可愛い妹が見れて、俺は一日ずっと幸せだ』って感じだよ」



 さすがシア。俺が考えた末に飲み込んだ言葉を的確に見抜いていたようだ。でもさすがに、飲み込んだ言葉を妹に伝えられるのは恥ずかしいぞ。



 シアの言葉を聞いたルカの表情がふにゃっと緩むのが見えた。



 くっ! 俺の妹は可愛すぎかっ! ルカのそんな顔が見られるなら、恥ずかしさに耐えるのもありだぞ! 翻訳してくれてありがとうシア! 君は最高の相棒だ!



「顔が緩んでるよ。ルシェは本当にルカのことを大事に思っているのね」


「そうだ。俺は妹のためなら何でもするつもりだぞ。ルカが世界を滅ぼせと言うなら、俺は滅ぼす方を選択する」


「兄様……」



 愛おしいルカのはにかむ笑顔は、やる気が漲る特効薬だ。彼女がこの世界でちゃんと生き抜けるようにしてやることこそが、ルシェの魂と溶け合った俺の生きがいとなっている。



 絶対にルカを幸せにしてやる。そのために俺は『神霊機大戦』の知識を使って超難関とされる主人公ハーレムENDルートを歩んでいくつもりだ。



 ジッとルカの笑顔を見ていたら、ニッコリと笑みを浮かべるシアの顔が飛び込んでくる。



「わたしにも、ルカちゃんと同じようにしてくれる?」


「もちろん、シアのためでも俺は何でもするつもりだ。安心してくれ」



 実妹のルカには、シアのヤンデレチェックは機能しないと思われるが油断は禁物。ちゃんと彼女の立場も認めて立ててあげるのが正解ムーブだ。



「だってー。シアさん、今、ものすごく顔が緩んでるよー」


「だって嬉しいんだもの。顔が緩むのは仕方ないよ。ルシェがわたしのために何でもしてくれるのかー。えへへ」



 シアは、ルカとはまた別の意味で可愛いからな。彼女が望むことをしてあげるのは俺の楽しみの一つでもある。



 最近、髪を切らせてほしいと言われたので、長くなってたのを切ってもらったところだ。



 その時、切った俺の髪の毛を誤魔化しながらこっそりとポケットに入れたのは、可愛すぎる行動だったな。



 いつも身の回りの世話をしてもらってるわけだし、髪くらい言ってくれればちゃんとあげるのに。まぁ、そういうシアの奥ゆかしいところが好きなんだがな。



「じゃあ、王都に行ったらルカちゃんの服探しの手伝いしてくれる?」


「ああ、それは大いに手伝わせてもらおう。シアは服選びのセンスがいいからな。きっとルカに似合う新たな服を探してくれるはずだ」


「わぁああ! 楽しみ! シアさんが選んでくれた新しい衣装かー。王都っていろんな新しい衣装もあるんだよね。楽しみすぎる!」



 すでにルカ本人にも王都の屋敷での静養が決まったことは告げてある。最近になって打ち解けてきた義父上と離れるのは寂しいらしいが、義母からの嫌がらせの状況も薄々と察しているらしく、俺たちとの王都行きに難色を示すことはなかった。



「その前に1週間の旅程をこなさないといけないから、出発までにルカは体力をつけるようにな。移動中は霊機に乗りっぱなしになる。霊機内はシアの力で身体にかかる負担を軽減してくれるとはいえ、楽な移動じゃない」


「はぁ~い! ご飯いっぱい食べないといけないね! シアさん、早く食べよう!」


「はいはい、すぐに準備するね」



 俺たちはテーブルに着くと、慌ただしく朝食を食べることにした。

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