第23話 義母パトラの暗躍
「クロード! またルシェが戦果を挙げたらしいわ! ブロンギの後継者が、ルシェだという認識が広がってる! どうするの!」
別荘の室内にパトラの苛立ったキンキン声が響き渡る。ルシェの評価が、この数ヵ月で急上昇していることに、彼女は不安を覚えている様子だった。
そのパトラの慌てた様子を、ソファーに座りながら涼しい顔で眺めている護衛騎士のクロードには焦りの色は全くなかった。
「そのようですな。ただ、ルシェ様はまだ機士学校を卒業していないため、正式な機士ではありません。なので、今はまだ領地相続の権利はもっておりませんよ」
「けど、それも時間の問題でしょ! あの子はもうすぐ機士学校に入るわけだし!」
「まぁ、落ち着いてください、パトラ様」
クロードは、騒ぐパトラを落ち着かせ、隣に座るように勧めると、テーブルの上に一冊の本を置く。
「ルクセン王国機族法典には面白いことが書いてありましてね。『当主死亡時の領地相続に関し、当主直系の子息が対話の儀を終えていない場合、配偶者を仮の領主として扱う』という一文があるわけですよ」
「それはどういうこと?」
「つまり『ブロンギ様の子』がいれば、亡くなった際の領地の相続者は養子のルシェ様ではなく、未成年の直系の子の母親であるパトラ様となるわけです」
「あの種なしが死んでしまえば、この子が成人するまで、わたくしがドワイド家の領主として扱われると?」
ソファーに座り、落ち着きを取り戻したパトラが、自らの腹部に手を当てた。そこには、別荘で逢瀬を重ねたクロードとの子が宿っていることが判明している。
「そういうことです。ただ、そのお腹の子が『ブロンギ様の子』であると、認められねばなりませんがね」
「それなら問題ないわ。最近は、貴方に言われた通り、別荘に籠る日を減らし、あの種なしを酔い潰して寝所を共にしてるから、バレたりはしないわ。ある程度、妊娠したかもしれない様子を匂わせてもいるし」
「ブロンギ様もさぞ困惑しておいででしょうな」
「まだ、半信半疑みたいだけどね」
「さすがに10年以上、子ができなかったパトラ様との間に出来るとは思ってなかったのでしょうな」
「まぁ、あの種なしの子ではないけど。わたくしには妊娠できる能力があったということは判明したわけで、子ができなかったのはあっちの責任だったということよ。それをずっとわたくしの責任みたいな風潮にしてきたあいつを許さないわ!」
「怒るとお腹の子に障るので落ち着いてください。無事、生まれるまでは用心を怠ってはなりませんよ。我々のためにね」
クロードは隣に座るパトラの腹部に優しく手を当てると、妖しい笑みを浮かべた。
「ええ、分かってるわ。あいつへの復讐と、わたくしたちの輝かしい未来のため絶対に信じさせてみせるわ」
「その意気です。『ブロンギ様の子』が生まれれば、ルシェ様になびいている機士たちも大部分がこちらに付くはず。直系の子というのは、能力主義のルクセン王国であっても重要視されるのでね」
「ルシェが後継者候補にならないよう、近々ブロンギにも妊娠を見せつけて釘を刺しておくわ」
「それはよい策です。ブロンギ様も自分の子ができたと信じれば、心変わりされるかもしれませんからな。ルシェ様の後継者指名を保留されるかもしれません」
「そのうちデカく膨らんだ腹を見せて、『自分の子を後継者にと』喚いてみせるわ」
「その様子を私は後ろから見守ることとしましょうか。楽しみでしょうがありませんな」
クロードは笑いを嚙み殺し、パトラの肩を抱き寄せると、耳打ちをした。
「ですが、ここでの密会も今日で終わりです。もう、ここには来ない」
「!?」
「驚かれるな。別にパトラ様が嫌いになったわけではありませんよ。確実に我々の計画を進めるには、この密会が危険だということです。『ブロンギ様の子』だという疑義が生まれないよう、出産までは本宅で過ごしてもらうしかありません」
「そういうことね」
「そして、我々の子が『ブロンギ様の子』と認知されたら――」
「あの種なしが、この世から旅立つ時ね」
「ということです」
2人は自分たちの計画が成功した時のことを想い、ニンマリと笑いながら口づけを交わした。
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