第22話 誘導弾


 かなりの速さで50単位キロメートル先のナイトウォーカーに向かい、射出された弾体は飛んで行く。



「風の影響ありっと。ちょいちょい風の影響で軌道が逸れるが修正できない範囲じゃないな」


「誘導はルシェに任せるよ。わたしは敵を捉え続けるのに集中してる。目標まで残り距離、25単位キロメートル。向こうはこっちの攻撃に気付いた気配なし」


「向こうも隠蔽して隠れてるのに、こんな遠くから発見されてて、攻撃されるなんて思ってないだろうさ」



 シアの探知能力のおかげもあり、敵の情報は随時更新されており、俺は弾体の操作に集中できた。何万回も誘導してきたが、誘導弾のシビアな操作感は何度やっても緊張を要する。霊機を動かすよりも繊細さを要求され、モニターのガイドマーカーから逸れるとそのままコントロールを失ってあらぬ方向へ飛んでってしまう。



 妹の紗奈がこの誘導弾の名手で、複座型に乗ってた時は、俺が回避に専念し、紗奈の誘導弾によるアウトレンジからの攻撃が『あにいも』の最強の手札だった。



 けど、今は単座で俺一人。誘導中の回避は不可能に近いため、誘導に専念するしかなかった。



 体感で数分が経ち、機士席のモニター上に目標を捉えた。



「残り距離2単位キロメートル



 ナイトウォーカーはようやく弾体の接近に気付いたらしく、慌てた様子で動き始めた。



「逃がしはしない」



 逃げ出したナイトウォーカーの背中に向かって、弾体の誘導を続けていく。ナイトウォーカーの背中に接近したところで映像が途切れた。



「敵、ナイトウォーカー撃破。後で回収できるよう撃破座標を記録しとくね」


「ああ、助かるよ。シア」


「当てた……。50単位キロメートル先の潜伏していたナイトウォーカーに当たった……。私は何を見せられてたんだ……」



 俺と同じ映像を共有してた隊長が驚いた顔を見せている。攻撃許可は出したものの当たらないと思っていたのかもしれない。



「当てましたので、次の目標を狙ってもいいですよね?」


「え? あ、ああ。そうでした! 次も行きましょう! 攻撃を許可します!」


「了解した」



 左右に護衛として控えるドランガードの背中から、新しい精霊誘導弾発射筒を取り出すと、両手に持った。



「後方ヨシ! 目標40単位キロメートル先、ナイトウォーカー1体、ヘルドック1体! 発射!」



 空に向けた2本の筒先から弾体が飛び出すと、発射炎を撒き散らして飛んで行く。誘導は2つになったが、数分後には問題なく目標まで接近し、気づかれることなくそのまま目標の2体に命中する。



「敵、ナイトウォーカー、ヘルドック撃破」


「また当たった!? 2体同時撃破だ! 長距離誘導を2つ同時なんてことをやってる機士なんてみたことないぞ!」



 隊長は頬が紅潮し、興奮したように叫んでいる。隊長の隊内通信が繋がったままのようで、部隊の他の機士や操縦者たちも俺が挙げた戦果に驚きざわついているのが聞こえてきた。



「最後のは4体います。そっちは連射します」


「連射とは?」


「1射目を誘導しつつ、即座に2射目を放つという意味です」



 左右に控える護衛のドランガードの背中から、新しい精霊誘導弾発射筒を取り出して隊長のラビットイヤーに手渡す。



「なので、1射した後、精霊誘導弾発射筒の受け渡しの補助を頼みます」


「は? 4つ同時誘導? 言ってる意味が?」


「大丈夫。上手くやりますよ。では、攻撃許可を」


「あ、ああ。了解しました。攻撃どうぞ」



 新たに精霊誘導弾発射筒をドランガードから取り出し、構えると最後の目標に向かって、1射目を放った。



「次弾、ください」


「どうぞ!」



 すぐに発射後の筒を捨て、ラビットイヤーから差し出された精霊誘導弾発射筒から2射目を放つ。合計4つの弾体が敵集団に向けて射出された。



 4つのモニターを見ながら、細かく誘導先を修正していく。数分後、敵に到達した弾体は次々に命中していき、映像が途切れていった。



「全弾命中。50単位キロメートル内に敵反応なし。周囲の敵を一掃したみたい。ルシェ、お疲れ様。撃破座標の位置は隊長さんに回しておいたよ」


「ありがとう、シア。ということだそうです。撃破した敵の回収はお任せしてもいいですかね?」


「はっ! すぐに他の部隊に回収しに行ってもらえるよう取り計らいます! ルシェ様の神技を見せられた部隊の連中ももっと誘導弾の誘導訓練に精を出すはずです!」



 訓練前の初対面では『後継者様の護衛任務で貧乏くじを引かされた』というような顔をしていた隊長だが、今は俺に対して尊敬のまなざしを向けて来ていた。



「それは頼もしい限りです」



 遠距離誘導攻撃は、妖霊機ファントムと直接戦闘せずにすみ、安全性が高い戦法だ。探知に関しては精霊の格に影響を受けるが、誘導弾の誘導が得意なものが使えば、大きな戦果を発揮することを機士たちに示せたと思う。



『神霊機大戦』に似た世界である以上、妖霊機ファントムの大襲来イベントが起きる可能性は高い。その時、ドワイド家の領地が標的にされ、ブロンギの率いた本隊壊滅からの滅亡までが何度も再現された。



 今回の戦法が機士たちに広がり、その悲劇を少しでも回避できる策の一つとなればとの思いがある。それに、今回の訓練のおかげでゲームの戦法が実戦でも同じように効果を発揮してくれることが確認できたので、俺としてもかなりの実りのある訓練だった。



 その後、撃破した敵の回収を別部隊に頼み、俺たちの隊は計画通りのルートを周って出発地点の街に帰還することとなった。

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