公立金浜学園へようこそ
端孤みゃみゃ式
学生、征け。
西暦2046年。物語において幻想の産物であった【異能力】【魔術】【超能力】といった化学法則を超越した能力は現実のものとなった。当然、人を越えた力は恐怖を生み、人間同士の溝を更に深くする。
日本政府は異能力者を隔離し、秩序を保とうとした。それが人口島金浜に作られた学園都市リリシアである。
「……個人ボートとはいえ、運転荒過ぎだろ。政府の役人ってホントに異能者嫌いだな。」
金浜の港からとてつないスピードで本土に帰る小型船を見つめる少年、
「秩序を守るねぇ……棄民政策に文句言っても意味ねぇけど。」
劉蛇は港の売店で買ったアイスを食べながら、学生寮に向かうのだった。
「へぇー。金浜って
アイスを食べ終え、余所見をしながら歩いていた劉蛇だったが……
「痛ッ……」
「あ、ごめん……」
同世代であろう少年に衝突した。劉蛇は頭を下げ、その人物に謝るが……
「……はいはい。俺みたいな実質無能力者は、こんな所に居るなよって言いたいんだろ。」
「いや思ってないから。」
「だったら何だよ!?」
劉蛇の態度が気に食わなかったのか、少年は怒鳴り声で問う。
「(面倒くさい奴にぶつかったな……)」
「どうせお前も誰でも出来そうな異能しか使えねぇ俺を馬鹿にするんだろ!?だった喰らってみろよ!!」
少年はそう言って自身の異能を劉蛇にぶつける。
「(ピリピリするし、髪が逆立つ……)静電気?」
「そうだ!!俺と同じ様に一瞬しか輝けない電気だよ!!」
少年の様子を見ながら劉蛇は溜め息を吐いた。その溜め息を自身を馬鹿にされたのだと思い、少年の怒りはさらに高まる。しかし劉蛇はそんな事など気にせずに少年へ話し掛ける。
「俺は別に異能の強い弱いなんてどうでもいいんだけどよぉ……一方的に喧嘩吹っ掛けるのは流石に駄目だろ?」
そう言うと劉蛇は少年の額を軽く小突いた。
「確か学生寮にも保健医が常駐してるらしいからよく診てもらえ……って気絶してんじゃねえか。」
劉蛇は気絶した少年を肩に担いで再び学生寮へ向かって歩き始めた。
「……自販機奢りは流石に勘弁してやるか。」
劉蛇は溜め息混じりにそう呟いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
坂道を登り終えると白亜の建造物が見えてくる。建造物は9棟からなり、中央の棟には電子看板が据え付けられている。高台に建てられた住居団地、それが金浜学園の学生寮なのだ。
「寮訓は不撓不屈……不当に負けずに頑張りましょうってとこか。」
電子看板に表示された四字熟語を劉蛇は読み終えると、受付と保健機関が存在する中央棟へと入っていった。
「……お前が今日島に来た生徒だね。」
まるで来ると分かっていたかの様に劉蛇の前に一人の老婆が立っていた。
「
「んじゃ千世婆さんで。」
「背負ってる馬鹿はそこの椅子にでも座らせておきな。時期に藪医者がくる。」
言われた通りに劉蛇は少年を椅子に下ろした。
「私も暇じゃないんだ。さっさと案内に移らせてもらう。」
そう言うと千世は劉蛇にタブレット端末を渡した。
「それには入学許可書やら諸々の書類データやら、島内のマップまで全部入ってる。」
「使い方は?」
「OSに直接聞けばいい。無駄に高性能なAIが入ってるからね。」
劉蛇は端末を起動すると、一通りの操作方法を確認した後、劉蛇は千世に尋ねた。
「千世婆は俺が人背負ってて学生寮に来る……それも時間までドンピシャで把握してたっぽいけど、なんで?」
「それは私が魔女だからさ。専門は魔法というよりはよく当たる占いだけどね。」
そう言うと千世は懐から金属製のカードを取り出した。
「あんたの部屋はC棟の605号室。ようこそ金浜学園へ。」
カードはひとりでに浮遊すると、劉蛇のブレザーの胸ポケットに入り込んだ。劉蛇は千世の妙技に何か言おうと思ったが、既に千世は歩き出してしまっていたので諦めるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
C棟の入り口を潜り、エレベーターへと乗り込んだ劉蛇は目的階である6階のボタンを押した。上昇を始めたエレベーターだったが2階で停止し、一人の少女が乗り込んだ。
「何階ですか?」
「あ、16階です。」
「16階ね。」
劉蛇はそう言ってボタンを押し、数秒後にエレベーターの扉が閉じた。そしてエレベーターが再び上昇を始める。
「もしかして、今日越してきた方ですか?」
「はい。」
劉蛇は少女の質問に対して素直に答えた。
「私、
「ご丁寧にどうも。北原劉蛇、宜しく。」
茜と名乗った少女は笑顔で自己紹介を行う。そんな彼女に劉蛇も流される様に自己紹介を行なった。それから特に会話が弾むという訳でも無かったが、お互いにエレベーターの階数表示を無言で見つめていた。
暫くしてエレベーターは6階で停止する。劉蛇はエレベーターを降りると、茜に軽く会釈をして部屋に向かうのだった。玄関のドアを開け、閉まる音が聞こえると、劉蛇は安堵の溜め息を吐いた。
「久しぶりに、女の子と話したな……」
劉蛇はそう呟くと、靴を脱いでリビングに向かう。ダンボールが積まれた部屋、その壁際に置かれたソファの上に倒れ込む。
「荷物が先送りなのは、絶対親切心じゃなくてさっさと危険因子を隔離したいからなんだろうな……」
そう呟くと、劉蛇は改めて自分が置かれた環境を実感した。この先、この島で自分はどの様に過ごすのだろうかという疑問と不安が脳内を支配する。
「……まあ、腐ってても仕方がない。今日はもう寝よう。」
こうして、劉蛇の金浜島での新生活が始まるのだった。
公立金浜学園へようこそ 端孤みゃみゃ式 @tatibanayuuki
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