玄徳とんぼ返りを指示される

話は変わって玄徳、忠勇の双璧、関羽と張飛らと私兵を率い、広宗から遠路はるばる南西へ三五〇キロメートル、潁川の地へと到着しました。そこで喊殺の声、天を焦がすような炎を目にするのです。


「何事か!!」と急ぎ兵を進めれば、皇甫嵩と朱雋の火計が炸裂、逃げ惑う賊徒を次々と討ち取り、壊滅的打撃を与え、賊軍はすでに敗走しておりました。


玄徳は皇甫嵩、朱雋と面会すると、盧植の意向を説明いたしました。

すると皇甫嵩「張梁と張宝は勢力が衰え、力も尽きかけている。必ず広宗に行って張角を頼るだろう。玄徳よ、急ぎ戻って助けてやってくれ」と言い出したのであります。


「えっ、いま到着したばかりなのに?」

思わず少しの苦笑い顔。着いて早々、とんぼ返りしろとは、またしても無茶ぶりをされる玄徳。

彼の心の中から「そろそろ少し休ませてくれないか」との叫びが聞こえてくるようであります。そんな心情を後ろ姿から察したか。

「おい、いい加減、少し休ませてくれよ」

張飛がひょいと首を出して皇甫嵩を見やって、玄徳の心の内を代弁します。彼自身、酒の一杯でも飲まして欲しいのです。

しかし皇甫嵩が玄徳の肩越しに目をやった張飛の顔には少しも疲れが見えないと見て取ると「若くて立派な勇士たちをお連れだな。遠路疲れているとは思うが、あの眼差しはまだまだ暴れ足りないようだ。ここではもう相手がいない。旅疲れだけの酒では旨味も落ちてしまう。広宗で存分に暴れて、旨い酒を飲んでくれ」となだめるように言うのです。

こう言われて張飛も「うっ」と言葉が出ません。

その隣に佇む関羽、冷静な顔でただ頷いているだけ。彼の中では戦いこそが日常であり、休む暇など必要ないと思っているように見えました。


命を受け、休む間もなく来た道を急ぎ引き返すのであります。

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