君は治世の能臣であり、乱世の奸雄である

ある時、橋玄という人物が曹操にこう言ったのであります。

「今まさに天下が乱れようとしている。世を治める卓越した能力や資質がなければ、この乱れを収拾することはできない。天下を安定させられるのは君であろう」


また南陽の何顒、曹操と顔を合わせると言ったのであります。

「漢の王朝は滅亡しようとしている。天下を安定させられるのは、この人に違いない」

なお南陽とは現在の河南省南陽市のことでございます。


そして汝南の許劭は、人物の性格や能力を見抜く卓越した洞察力を持っていた人物でありました。

汝南は現在の河南省南部の一帯であります。


この許劭の元を訪れた曹操「私はどんな人物だ?」と尋ねましたが、許劭は答えませんでした。

再び尋ねられると、許劭は渋々答えます。

「君は治世の能臣であり、乱世の奸雄である」

曹操、これを聞いて大いに喜んだそうであります。


後漢書によれば、許劭は曹操が自身の目的や野望を達成するために、人々に対して戦略的に謙虚な言葉遣いと丁重な礼儀で接していることを卑しいと見なし、応じようとしなかったそうであります。そこで曹操は隙を伺って許劭を脅迫したのだとか。許劭はやむを得ず「君は清平(世の中が安定している時)においては奸賊である、乱世(世の中が混乱している時)においては英雄である」と言ったそうであります。

名士による人物評を得ることが地位向上には必要不可欠でありました。許劭のこの評価を得たことで、曹操も名士の仲間に加えられたのであります。


ここまで言ってしまいますと劉備玄徳同様、曹操が超重要人物とネタばらしをしているかのようでございますが、仕方ありません。そうなのであります。


さて、二十歳の時、曹操は孝廉、すなわち儒教の道徳観を持つ人物に推挙され、郎官となり、次いで洛陽の北都尉に任命されたのであります。


孝廉とは、古代中国の官吏登用制度の一つで、孝行心と人格が優れた者を選抜する制度でございました。具体的には、孝順な行動や、地域における良い評判を持つ者が、郷里の推薦を得て、郡や県の長官に推挙されるというもの。

孝廉に選抜されたことにより文官として登用され、行政官僚としての地位を得ることができたのであります。この制度、単なる学歴や試験の成績だけではなく、孝行心や地域での評判が高いといった、人格と徳行を重視する登用方式だったのが特徴であります。まさに曹操、許劭の見抜いた戦略的評価向上策により出世街道に乗ったのであります。


二十歳の曹操、孝廉選抜により文官の郎に就き、さらに地方長官の北都尉に抜擢されたのでありました。


新しい役職である北都尉に就任しますと、すぐに五色の棒十数本を県の四門に設置したそうであります。もし規則や命令に違反する者がいれば、曹操はその者が豪族や貴族であろうとも関係なく、皆これを罰したのであります。曹操が法を厳格に執行し、身分に関係なく公平に違反者を処罰したのでした。


中常侍の蹇碩の叔父が夜間に剣を携帯して歩いていると、曹操が夜間巡視で捕まえ、設置してあった「五色の棒」を使って、その違反行為を厳しく罰したそうであります。一説には即座に叩き殺してしまったという話もございます。おぉ怖い。


この一件から内外を問わず犯す者はいなくなり、彼の威名は広く知れ渡ったのであります。その後、頓丘の令となりました。

頓丘とは現在の河南省頓丘県でありますが、この頓丘の長官つまり県令、現在であれば知事に任命されたのであります。


県令は知事相当ですから地方行政を司る重要な官職の一つであります。治安維持や税収管理など、その地域の統治を担当する役職、曹操は若くして郡県の長官にまで登用され、その手腕を発揮して地域の治安と秩序を維持したのです。


そして黄巾の乱が起きますと、曹操は騎都尉に任命され、騎馬と歩兵を合わせて五千の軍勢を率いて潁川へ戦いに向かったのであります。


そして話は本筋に戻ります。


ちょうど張梁と張宝が敗走しているところに出くわしました。

曹操は立ちふさがり、戦い激しく、一気に一万余りの首級を取り、賊軍の旗幟や軍旗、金鼓や馬といった大量の物資を敵から奪い取ったのであります。


張梁と張宝の軍は必死の戦いを繰り広げ、何とか逃げ延びることができたそうです。

しかし曹操はそれにとどまることなく、皇甫嵩と朱儁の軍と合流すると、すぐさま兵を率いて張梁と張寶の追撃に向かったのであります。


見よ!これこそ曹操の武勇の片鱗であります。五千の軍勢で賊の大軍…と言いましてもどれくらいの兵数かは不明ではありますが、何にせよ一万以上の軍を撃破し、首級と戦利品を大量に奪取したのです。さらにはその勢いのままに追撃を継続し、敵を完全に潰さんとしているのであります。

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