皇甫嵩と朱雋の火計炸裂

あーさて、当時張角の賊軍は十五万を率い、対する盧植の官軍は五万の兵を各々率いて、広宗において対峙しておりますが、勝敗はまだ決しておりません。


盧植、玄徳に「私は今ここで賊を包囲している。だけど賊の弟、張梁と張寶は潁川にいて、皇甫嵩と朱雋が対峙している。君は手勢の兵士を率いて行ってくれ。私からも千人の官軍を加勢させる。まず潁川に行って情報を集めて、時期を見計らって一網打尽にしよう」と伝えます。

玄徳は命を受けると、軍勢を率いて夜を徹し潁川へと向かったのであります。

馬上の張飛「なかなか休ませてもらえんなぁ。いい加減、酒の一杯でも飲みたいもんだ」と嘆いております。


さて、玄徳が向かう潁川で賊と対峙している軍を率いるのは左中郎将の皇甫嵩、右中郎将の朱雋の二人であります。

共に五校と三河の騎士、そして勇士を募って四万余人を集めますと、それぞれ一軍を指揮して、潁川の賊討伐のため出撃しておりました。


当時、賊軍は不利な戦況に陥り、長社に退き、草場を頼りに陣営を築いたのであります。

皇甫嵩と朱雋は作戦を練りました。

「賊は草を頼りに陣営を築いているから、火攻めでいってみよう」

意見は一致したのです。

この判断は的確であります。敵陣営は草地に構築されているのですから、火を放てば一気に賊軍を火海の虜にできるのです。兵士たちに命じ、一人一把ずつ草束を準備させ、密かに潜伏させたのであります。周到な準備が戦いの勝敗を決するのです。


その夜、突如として強い風が吹き始めました。

二更といいますから夜の十一時から午前一時を過ぎたころでしょうか、命令どおり一斉に火が放たれると、皇甫嵩と朱雋はそれぞれ兵士を率いて反乱軍の野営地を攻撃したのであります。

その火炎は天を覆い、賊軍は慌てふためき、馬に鞍をつける暇も兵士が鎧を着ける間もなく、四方八方に逃げ惑いました。

皇甫嵩、朱雋とも「ははー!!燃えろ燃えろ!!焼き尽くしてしまえ!!」と火計が見事に炸裂した中で、逃げ惑う賊徒を片っ端から斬り捨てるのであります。

彼らの機略は卓抜でありました。強風に乗じて一斉に火を放つという作戦は、賊軍の陣営を完全に焼き払うことができたのです。賊軍は草を頼りにしたことが仇となり、一瞬にして火の手に巻き込まれてしまいました。


戦闘というより、就寝中の不意打ちでほとんど抵抗できないのですから、これはもう一方的な攻撃です。それが夜が明けるまで続き、ついに張梁と張宝は敗残の兵を引き連れて逃げ去ったのでありました。


しかしながら、この戦いで反乱は完全に鎮圧されたわけではありません。

張角自身はまだ生きており、残された賊軍もまだ多数いたことでしょう。この戦いは一つの区切りに過ぎず、反乱鎮圧には、まだ多くの戦いが控えていたのであります。

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