玄徳、幽州から青州へ救援に向かう

群賊、程遠志の斬殺を目撃するや、みな武器を投げ捨て逃亡したのであります。

玄徳は軍を率いて追撃し、投降する者は数えきれず、ついに大勝して帰還いたしました。

劉焉は自ら出迎えて、ちょっと褒めすぎではないかと思われるくらい、軍士らに賞を与えてねぎらうのでした。

鄒靖、劉焉に報告するのであります。

「彼らは化け物です。特に関羽と張飛の腕っぷしは当代一かもしれません。私は玄徳から退って身の安全を保ち、観ていればよいと言われましたが、その自信は嘘ではありませんでした。あ、黄巾賊五万はさすがに大袈裟でした。しかしながら、わずか五百の兵とはいえ見事に統制がとれておりました」

劉焉、それを聞いて喜び倍増、祝宴は夜遅くまで続くのでした。


ところが翌日、青州の太守である龔景からの牒文を受け取ったのであります。

牒文とは、古代中国において官吏が上級官庁や同僚に送った公文書のことでございます。

命令や報告、要請などを記した書類を指し、現代の公文書や公文書ファイルに相当するものありまして、つまり龔景から送られてきた公式の書簡を受け取ったということになります。


書簡の中身はと言いますと、城が黄巾賊に包囲され陥落の危機、救援を求めていたのであります。

これまた余談ではありますが青州太守の龔景という人物はどうやら架空の人物、役職も太守でなく刺史であろうと考えられます。具体的な地名も出てきておりません。


劉焉は玄徳を呼び出し協議したところ、玄徳「私が救援に赴きたい」と願い出たので、劉焉は鄒靖に兵五千を率いさせ、玄徳、関羽、張飛らとともに青州へ向かわせたのでした。

鄒靖、先日の大勝で安気しております。さらに兵も前回の十倍と増員されたため勇気百倍。


進軍中、馬頭を並べた玄徳が前方を見据えながら冷静な口調で言うのです。

鄒靖「ところで鄒靖殿、先日は賊が攻めてきたのに対し、私兵五百での出陣でありました。しかし今回は救援のために五千の兵とは随分と違いますね」

鄒靖、痛いところを突かれたか「確かに。しかし先日は散地での戦いであり、賊も五万と聞けば恥ずかしながら我軍の統制が心配でありました」と返すがやっと。

散地とは孫子の兵法でいう、自国の領土で戦うことであります。この場合、兵は自国ということでたやすく逃亡できるため士気が上がりません。そのう敵五万と聞けば尚更であります。

玄徳、そのまま前を見据え落ち着いた口調で。

「程遠志らは戦歴があり我々は初陣、しかも十分な訓練をする暇もなく挑みましたが運良く勝ちを収めることができました」

「そのあたりは経験もありますが、農民であるか義勇兵として集まったかの質差でありましょう」

鄒靖の指摘に頷きながら「確かに。血気が違っていた。ところで今回増員していただいた兵は訓練を受けているのですか」と問う。

「訓練を行なった兵です」

玄徳、安堵したか微笑み

「それであれば安心。長い行軍も慣れているでしょう。あとは雲長と翼徳の指示にきちんと従ってくれればよいのですが」

確かに先日功績を立てはしましたが、玄徳は劉焉軍の兵たちが、果たして無名だった自分たちの指揮に素直に従うかも不安要素であります。

「そこは私がいるので」

鄒靖は大丈夫といった表情で玄徳に軽く頭を下げたのであります。


さて、幽州から青州へは約四百キロの道のりとなります。

途中には冀州を通過する必要もあり、何故このように遠方から救援を乞う牒文が届いたのか疑問に思うところではあります。五千すべて騎馬ということは考えられませんから、徒歩ですと一日十五キロ程度で都合二十七日かかる計算であります。明日にでも城の陥落を危惧する連絡をやり取りするには遠すぎるとは思うのは私めだけでありましょうか。


数日の行軍を経て、先行する斥候により城周辺の状況が玄徳たちにもたらされると同様に、賊側にも玄徳救援軍の一報がもたらされるのであります。

到着を前に賊軍は兵を分け、到着した玄徳軍と応戦、混戦となりました。

玄徳の兵は少ないうえに遠路行軍の疲れもあり劣勢は否めません。


ここは一旦と三十里退いて下寨、陣を張ったのであります。

「下寨」とは軍隊が野外で陣営を張ることを指す言葉、つまり玄徳軍は賊から三十里離れた場所で野営地を設営したということであります。


玄徳、関羽と張飛に「賊徒は多いし我々は少ない。奇策を使わないと勝機を得ることはできないな」と語り

一計を講じるであります。

つまり、関羽千人の兵を率いて左山に、張飛千人の兵を率いて右山に伏せさせまして、金鼓打ち鳴らしを合図に一斉に出撃、挟撃することにしたのでありました。

果たしてこの策、吉と出るか凶とでるか。

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