玄徳、五万人に対して五百人で出兵

さて、劉焉と参見から数日経たないうち、黄巾賊の将である程遠志が兵五万を率いて涿郡に攻めてくるという報せがもたらされたのであります。


「なんと!?黄巾賊五万だと!!いつの間にそんなに増えたんだ」

玄徳たちがあれこれやっているうちに、それまでに集まっていた義勇兵はすでに打ち破られ、黄巾賊は新たな仲間を吸収しつつ、涿郡に近づいてきたのであります。

劉焉、目を見開き、あっけにとられておりました。まるで雷に打たれたか。しばし言葉を失っておりました。

「いやいや五万なんて、そんな…」

手を振り、あたりをきょろきょろ見渡します。まさに冷や汗出るも無理なし。

しかしハッとすると「待て!我らには玄徳、雲長、翼徳がおる!」と言い放ちます。

まさに劉焉、三人の勇将を過小評価してはおらず、彼らの武勇に大きな期待を寄せていたのでありました。


「鄒靖!玄徳、雲長、翼徳の三人を呼んでくれ!」

三人を召し上げ「すでに聞いていると思うが、黄巾賊五万が攻めて来ている。鄒靖指揮下のもと、君たち三人と兵五百で直ちに敵を迎え撃ってくれ!」と。

これを聞いて鄒靖、ぎょっとして「私も行くのですか?」と尋ねれば、劉焉「当然」。

鄒靖再度「本当に私も行くのですか?」と尋ねれば、劉焉「私の甥である玄徳の初陣だ。戦慣れしてないから頼む。これまでに出兵した者たちは散々に打ち破られておる。それもこれも指揮官が無能だったに違いない。君は優秀だ。じゃ」と言うと、さっさと席を立ったのであります。


五万に五百、お先真っ暗に憔悴する鄒靖尻目に玄徳ら喜び軍を率いて進ませます。

その表情、まさに虎狼が獲物を前に舌なめずりするがごときであります。

「なあ兄者、ゾクゾクするなぁ」とは興奮気味の張飛、「うむ」と前方を見つめたまま頷くだけの関羽。

「鄒靖殿、大丈夫、我々に任せてください」と表情一つ変えず淡々と馬を進める玄徳。うなだれる鄒靖。


一行、大興山の麓に至りますと、先行する斥候により程遠志の軍勢が近づいている情報がもたらされます。

なお、私めが調べましたところ大興山はおそらく大興の地、つまり現在の北京大興区のことのようであります。ここは平原だそうで山はないとのことであります。位置的にも違うようであります。その辺は演義、ご承知おきで。

大興ということで「大事を興す」ということで選ばれたのでしょう。


さて、これ兵法の基本、遥か彼方で大地を揺るがす軍勢が迫りくるのを感じつつ、ここで陣立てをして相手を待つのであります。そして数刻の後、ついに程遠志五万の軍勢が現れるのです!!賊衆みな髪は乱雑、額には黄色い布。


ここに両軍対峙しますと玄徳、左に雲長、右に翼徳を従え馬を進め、鞭を振り上げて大声で罵しるのであります。

「逆賊の徒憎たらしい!二物に非ずと知れ!今こそ汝らに天譴を下す!」などというと格好良いのですが、おそらく賊衆にはその意味が解らない。一方玄徳も決して学識があるわけではなく、ここは相手に伝わる言葉で。

「反国家の逆賊ども、なぜ早く降伏しないか!」


しかしながら賊衆五万に対し玄徳率いる兵五百、相手に陣を整える時間を与えるのはどうかと考えるわけであります。

私であれば多勢に無勢、先手必勝とばかりに陣を整える前に奇襲をかけるべきだと主張いたしますが、そこは玄徳ら三人、武勇に優れた勇猛な武将でありますから正々堂々と戦おうと考えたのでしょう。いや、乗る馬がないことに直前まで気づかないくらいですから、兵数百倍に気づいていないかもしれません。そもそも劉焉がこれ、無茶振りであります。

兎にも角にも、虎狼が群れなす野犬に立ち向かうが如く、玄徳ら三人は黄巾賊の大軍勢に雄々しく立ち向かったのであります!あれ?鄒靖はどこ行った?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る