顔は熟したナツメ色の男

玄徳と張飛は酒を酌み交わしていると、外で大男が一台の車を押してきて店の前で止まりました。

店に入って座るとすぐ、店主に声をかけたのであります。


「早く酒を注いで飲ませてくれ。私は急ぎ城に入り軍に参加するつもりだ。」


玄徳、その人を見やると、身長九尺、髭の長さは二尺なり。

顔は熟したナツメのように赭色をしており、唇は脂を塗ったよう。

丹鳳の目とは緋色の不死鳥の目のような目、臥蠶の眉とは横たわる蚕のような眉であります。

堂々とした風貌、威風凛々としていたのであります。

まさに武人の風格そのもの!その風姿に酔いしれてしまいそうです。


玄徳、彼を一緒に座るよう誘い名前を尋ねますと、その人「私の姓は関、名は羽、字は寿長、後に雲長に改めました。河東解良の者です。当地の権力者が人々を虐げていたのが我慢できず、私は殺してしまいました。逃れ江湖を漂流…逃亡生活を送り、五・六年が経っております。今、この地で賊を討つ志願兵を募集していると聞き、ひとり応募しに来ました。」


権力者による民の虐げ打ちは、誠に許されざる暴挙であります。しかし、一介の武人が勝手に殺害を行うのも、これまた法の裁きを受けねばならぬ重罪でございましょう。しかし同時に、民衆に寄り添う志の高さが窺えるのであります。

また、当時は乱世でありまして、法の行き渡らぬ地も多々あったことでしょう。民を苦しめる権力者に対し、民衆に寄り添う武人が拳を振り上げたとしても、不思議ではございません。

ただ、生殺与奪の権利は天に在り、人が人の命を簡単に奪うべきではないこともこれまた確か。

雲長の胸中に去来したであろう思いは、察するに余りあるもの。

現世に生きる以上、時として正義と悪しきものを振り分けねばならぬ場面に遭遇するものでございますし、雲長自身が賊徒と呼ばれかねない立場にあるのも事実。過去の罪を贖うがために正々堂々と賊討伐に志を立てたか、単に戦陣に身を投じたいがための口実に過ぎないか。知るは本人のみ。

雲長の生い立ちと境遇を聞いた玄徳、彼の狭義心と凛とした風格を目の当たりにして、自らの理想とする世を実現させたい、という思いが重なったのではないでしょうか。

「この男こそ私と心を同じくする志士であり、共に天下泰平を成し遂げる仲間になれる!でもお金は持ってなさそう」


玄徳すぐに自分の志を彼に告げ、互いの想いを了解し合います。

雲長大喜び、一緒に張飛の荘へと向かうと大事を議論したのであります。


ここで皆さまお気づきでありましょうか、急ぎ入城するため酒を急がせたにも関わらず、なんと張飛の荘へと三人は向かうのであります。まあ予定は未定であります。

この先、偶然の出会いを遂げた彼らを、どのような運命が待ち受けているのか、急がなくとも募集に間に合うのか、黄巾賊は攻めてこないのか。私めはそこが気になるところであります。

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