蒼天已死、黄天当立

張角は、南華老仙と名乗る碧眼童顔の老人から「太平要術」の天書を授かり、日夜修練に励みます。不第の秀才ですからもともと賢い人、術を用いて風雨を呼び起こすことができるようになり「太平道人」と自称するようになるのであります。


中平元年の正月、疫病が流行した際には、張角はこれまた「太平要術」を活用し、符水を配布して人々の病を治療したから噂は一気に広がります。そして今度は自らを「大賢良師」と名乗り民衆から崇敬を集めるようになったのであります。

やがて徒弟も五百人以上にも及んび、彼らは四方を巡り歩き、各人とも符や呪文を書くことができたと言います。


徒弟たちはさらに増え続けます。そこで張角は大小合わせて三十六の「方」という集団に分け、大方は一万余人、小方は六千から七千人でありますが、それぞれに指導する渠帥を「将軍」と称して置いたのであります。

ここに来て、張角の野望がますます明らかになってまいりました。


彼らは「蒼天已死、黄天当立」これは「蒼天(そうてん)はすでに死し、黄天(こうてん)当(まさ)に立つべし。」と読むのですが、訛言(かげん)つまり嘘の噂ですね、これを広めて「歳在甲子(さいざいかっし)、天下大吉(てんかだいきち)」と唱え、民家の門に「甲子」の二文字を書かせたそうです。広く青、幽、徐、冀、荊、揚、兗、豫の八州にまで、その影響が及んでいたとか。


この「蒼天」とは旧体制を、「黄天」とは新しい時代を指すものであります。つまり、旧体制を打ち破り、新秩序を樹立しようというのが、張角の目論見だったのです。これが南華老仙が言う異心なのかは後に判ることであります。

「歳在甲子」とは、いわゆる甲子年に革命の時期が到来するということ。「天下大吉」とは、その革命によって、天下泰平の世が開けるはずだと宣言したのです。

二人の弟とも協議して「民心さえ掴めばこっちのもんだ。俺達で天下を取ることができるぞ!!」と決意するや、目印とする黄色い旗を密かに作り、蜂起の時期を定めるなどしておりました。


中平元年、大方の馬元義らは前もってに荊州と楊州で数万の兵士を集め、鄴において起事の期日を決めたのです。

この馬元義、何度も都に往来しては中常侍の封諝や徐奉らを内応しまして、三月五日に内外そろって蜂起することを約束したのであります。まさに大規模な反乱の準備が着々と進められておったのであります。


しか~し!!思わぬ落とし穴が潜んでおりました。


封諝に段取りを伝える文書を弟子の唐州に託したところ、なんとこれを唐州が密告してしまう大誤算。

ただ、唐州が本当に自分で省中に持ち込んだのか、ひょっとすると張角の動きに目を光らせていて、網に掛かったのかもしれません。


何にせよ反乱の目論見が帝に知るところとなるのです。

帝は大将軍の何進に命じて、馬元義を捕らえ斬罪にするとともに封諝らの一派を収監したのであります。


まさに、この張角の乱は、中涓の乱れと絡み合った天下を賭けた大反乱でありましたが、蜂起前に先手を打たれてしまったわけであります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る