第1話 桃園の宴で豪傑三人が義兄弟の誓いを結び、黄巾賊を討伐して英雄として初めての手柄を立てる

三国志の世界を象徴する名句

あーさて、今回の題目は「宴桃園豪傑三結義、斬黄巾英雄首立功」、つまり桃園の三英傑が結義を立て、黄巾賊を征伐した英雄譚でございます。

まずは冒頭の詞からでございます。


詞曰

滾滾長江東逝水

浪花淘盡英雄

是非成敗轉頭空

青山依舊在

幾度夕陽紅

白髪漁樵江渚上

慣看秋月春風

一壺濁酒喜相逢

古今多少事

都付笑談中


詞に曰く

滔々たる長江の流れは東へと逝き

波は英雄たちを浚い去る

是非の成敗はもはや意味を持たず

青き山々は依然としてそびえ立ち

幾度も夕陽に染まる

白髪の漁師は江辺に立ち

秋の月と春の風を眺める

一壷の濁り酒を共に交わし

古今の数多なる出来事も

すべて笑い話となるのだ


ああ、偉大なる詞人の言葉でございます。


滾滾(ごんごん)と逝く長江の流れ、英雄たちを淘尽(とうじん)する浪花の如し。

是非(ぜひ)成敗(せいばい)ただ虚しく、青山は依然(いぜん)そこに在り。

幾度(いくたび)か夕陽映す江の流れ。


東に流れゆく滾々たる長江の水は、英雄たちをその波にさらい去りました。

是非も成敗も、ひと振りすれば虚しいものです。青山はなおも変わらず在り、夕陽の残る日々は尽きることなく。


白髮の漁樵(ぎょしょう)、江渚(こうじょ)に憩う。

秋月春風、これ見慣れりと。

一壺の濁酒を酌み交わし、喜びに事欠かず。

古今数々の出来事、ことごとく笑談(しょうだん)の種。


白髪の漁師と樵は、江の岸辺で秋の月、春の風に慣れ親しみ、

濁り酒一壺を酌み交わし、昔今の事ずくなを笑い語り明かすのです。


はかなき人生、浮世の無常を詠んだ詞でございますな。

英雄も最期は老い果て、青山に帰るのみ。

しかし、そこに生きる喜びがあるということでしょう。

人間万事、尽くすに盡きることなく。しかしその有り余る思いを、詞に詠み、酒に溺れて慰める。

そういった風流の心を、詞人は教えてくれているのでございます。


まさにこの詩は、三国志の世界を象徴する名句と言えましょう。


英雄たちの栄枯盛衰を洗う長江の流れ。青山の如く永遠に存在する自然の営み。

人の世の出来事は去り来すれども、江山は常に在り続ける。

人生の無常を喩えながら、江山の雄大さを詠んだ名句でございます。

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