第2話

「オギャァァ!オギャァァァ!」


…………マジか…赤ん坊から…


 俺は転生してすぐに絶望した。元成人男性が不特定多数の人間に裸を見られる事による羞恥心に悶える。


 脳は正常なのに泣き止めない。というか、体が鉛みたいに重い。


 最悪なんだが!

 え?は?俺はこれから生き恥を晒さなきゃいけないの?ふざけんな!

 いや、……落ち着け、落ち着け俺。まずは周囲の確認だ。

 いや、確認と言っても、視界はぼんやりとしか見えないんだが。

 耳は…………聴こえるな。ならば、言葉は……


「はぁ、はぁ、う、生まれた…私の可愛い可愛い子」


「おぉ!よくやったぞ!!ミレーネ!この子の名前はクリアノート!クリアノート・ファルクだ!!」


「クリアノート…ふふ、クリアノート」


 視界がボヤけていてよくわからないが、俺を抱き抱えているのが母で、顔面ドアップの男が父だろう。


 更に壁際に黒と白のヒラヒラな服を着た女性が二人。定かではないが、おそらくこの家に仕えるメイドだろう。


 なるほど。言葉は問題ない。家は、部屋からして貴族か裕福な商人だな。そして俺のこの世界での名前はクリアノート・ファルクか。良いね。

 ……ついでだ。試してみるか。《ステータスオープン》

 

 ――――――――――――――――

【名前】 クリアノート・ファルク

【種族】  人族

【年齢】  0

【レベル】 1


【HP】   10/10

【MP】   20/20


【攻撃】  16

【防御】  5

【敏捷】  2

【魔攻】  0

【魔防】  0


【スキル】

・火属性魔法Lv1

 

【エクストラスキル】

・不老不死(不老のみ不活性)・状態異常完全無効化

・言語理解


【称号】

・剣神の素質・女神の加護・第一王子

 ――――――――――――――――

 あー、やっぱりこうなったか。赤ん坊って事でかなり弱いな。てか、何故魔法が使える?要らないと言った筈だが……

 あぁ、もしかしてこの身体の才能か。乗っ取り転生は罪悪感があるな。まぁ、別に良いや。それより問題なのは……王族って何だよ!


 転生して僅か数分で自身に起こるであろう面倒事を理解した。更に不幸な事に赤ん坊という事はこれから、この城にいる者たちの殆どにお漏らしなどの痴態を晒す事になる。自分の精神年齢的にかなりきつい。しかも、それが最低でも数年間続く。

 いやそれよりも、考え事の途中でも関係なく襲ってくるアレが問題だ。

 ほら、早速きた。赤ん坊特有のいきなりの眠気ねむけ。あぁ、最悪。思考の整理も出来ない。もう…どうに…でも…な……れ…


 俺の視界は再び暗転した。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 はい、おはよう世界。


 恥ずかしい過去は全部カットして、現在この世界に転生して五年が経過した。五歳になった俺は、割と自由に行動ができる。専属の使用人は側に居るが。

 では、俺が転生して得た情報を共有しよう。まずは俺自身から。これはステータスを見せた方が早いな。

――――――――――――――――

【名前】 クリアノート・ファルク

【種族】  人族

【年齢】  5

【レベル】 1


【HP】   25/25

【MP】   200/200


【攻撃】  32

【防御】  7

【敏捷】  5

【魔攻】  75

【魔防】  293


【スキル】

・火属性魔法Lv3 ・魔纏まてんLv8 ・魔力操作Lv10

・剣術Lv7

 

【エクストラスキル】

・不老不死(不老のみ不活性)・状態異常完全無効化

・言語理解


【称号】

・剣神の素質 ・女神の加護 ・第一王子

 ――――――――――――――――

 歳を重ねるにつれて、ステータスが上がっている。これを見た時に、これが成長期か。と実感した。


 魔力や魔法系のスキルの伸びが良いのは数年間の汚物に塗れた記憶を払拭しようと奮闘した結果だ。転生の時、魔法要らないとか言ってすみませんでした。


 魔纏の説明は……いるか?まぁ、チートの始まりだ。

 気にすんな。

 あと、嬉しい事に魔法を使用する際のイメージはかなり大雑把で良かった。果たしてこれは世界共有か又はこの身体の才能かは知らないが嬉しい誤算だった。強いて言えば加減が面倒だった。


 次に剣術のスキルは魔力で形造かたちづくった剣を部屋の中で振っていたらいつの間にか伸びていた。多分だが、剣神の素質のお陰で此処まで伸びたと予想している。

 

 いきなりだが、みんなの疑問に答えよう。

 Q,魔力は触れるのか?

 A,可能。ただし、自分の魔力でかつ俺が剣と認識している物限定で。

 簡単に言うと、剣神の素質の効果である。それ以外考えられない。字面的にもそれっぽいしな。

 最後に女神の加護についてだが、これはまだ何も分かっていない。大体、アバウト過ぎるだろ。普通は○○しんとか○○の女神のとかさ、色々と表記の仕方が有るだろ。女神の加護だけじゃ何の加護が分かるわけねぇだろ。はぁ、気の利かない女神だ。

 

 さて、俺自身についてはこれぐらいで良いだろう。

 次に国についてだ。


 まず、国の名は『ファルク王国』。俺が居るのは『王都』と呼ばれる王国の首都に居る。

 名前はあったと思うが、王都で通じるから忘れた。

 

 この国は大陸一と言って良いほど大きく強い。とは言っても敵は多い。王国の資源が欲しい周辺国だけならマシだったし楽だった。


 ただ、この王国に敵が多い理由は悪しき文化にある。

 簡単に言うと差別だ。古くから人族の特に貴族が絶対視されており、平民やエルフ、獣人、魔族、その他多くの種族の立場はこの王国内ではかなり低い。その文化が今尚続いている。正直に言って別にこれだけで面倒だとは思わない。

 だって、そんな差別、無視をすれば関係ない。それにどちらかと言うと俺は立場的に差別を助長する側だし。


 じゃあ、何が面倒なんだと聞かれたら現国王がこの状況をどうにかしたいと躍起になっている事だ。

 例えば、奴隷制度の廃止だったり多種族を尊重しよう、って感じのことを戴冠式の日に言ったらしい。


 まぁ、あんまり意味はなかったが。自身の上司が何を言おうとも自分には関係ないと思って犯罪に手を染めるのが人間だ。

 実際、奴隷はこの王国内に未だ存在しているし、国王の意向を知らない中位貴族たちはまだ差別をしている。


 高位貴族はまともだし、下位貴族は差別をする余裕が無い。だったら、中位貴族を何とかすれば良いと思うが、それだけじゃ無い。


 この国に一番多くいる貴族は中位貴族だ。だから、下手に裁きまくると、土地を管理する貴族が少なくなり嫌でも国自体が縮小することになるだろう。他にも様々な理由から行動を起こせない。

 その為、国王も簡単には裁けない。それに加えて弱味を見せたら周辺国が黙っていない。


 だから、王は何も出来ない。国王自身も今代では諦めて次期国王の俺に託そうとしている。とても面倒だ。


 以上がこの国の現状だ。


 俺個人としてはさっさと王位継承権を破棄して隠居したいが、当たり前だが周りが許してくれないだろう。それに此処まで優しく育てて貰ったのだから、何か恩返しをするのが筋ってもんだ。


 ここで俺はある計画を思いついた。これが成功すれば違法奴隷は消えるし、差別もかなり激減するかもしれない。それに俺も廃嫡が確定だ。


 だが、まだ時期が悪い。俺が計画の始動は第二王子、がもう少し成長してからだ。


 それまでは俺自身の強化を優先する。面倒くさいが仕方ない。不老なんだ少しくらいは頑張ってやろう。


 早速始めていこう。計画名は……

 『不死身の王太子は偽悪となって国を出る』だな。

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