15話 彼らの関係へ終止符を
上位成績の発表は4時丁度。その発表を待つ生徒たちの中で俺はなんとか有栖と落ち合うことに成功した。
「やっぱり、皆も気になるんだね…上位成績者の発表は」
「当たり前だろ?有栖からすれば大したことないかもしれないけど此処は名門校だぞ?」
「それはそうだけど…。ところで、渚ちゃんと早瀬くんは?」
「さっき見たけど…でも今は考えないでおくのが癪だと思うんだ」
「考えたくなるけど。それもそうだね」
と言葉を返した有栖の隣に並び発表を待った。4時。学年部の教師が紙を張り出した。
「ほら、行くぞ」
と有栖の手を引いて俺は前に向かう。上から見るか下から見るか。俺は悩んだ末に下から見ることにした。
順番に見ていき「早瀬航」の文字は20番台には載ってなかった。
19、17、12位と見て天乃さんの名前も航の名前も有栖の名前もなかった。
そして、遂に早瀬航の名前を見付けた。順位は5位だった。そして、肝心の天乃さんの名前は隣に並んでいた。
その上には、6の文字が。その事実が指し示すことは1つだけだった。
「彼奴、勝ったんだな」
航は勝った。これは、自分に課せた大きな壁を彼が乗り越えたことへの証明に他ならなかった。
因みに、有栖は案の定1位だった。無事に連覇達成である。
俺は
「良かったな、航」
「本当にありがとうな。お前や柊木さんのお陰で俺は此処まで頑張れたよ」
「あぁ。それで…今から告白するんだろ?」
「その決まりだったしな。でも、ちょっと緊張して来たな」
「何で緊張するんだよ?緩く行け。絶対に大丈夫だから」
じゃあ教室で待ち合わせてるから。と校舎へ戻る航の肩を叩く…何故か俺もスッキリした気分だった。
******************
私、柊木有栖は
「ごめんね、待たせちゃって」
「こっちこそ急に呼び出しちゃってごめんね」
私が呼び出しのは…天乃渚さんだった。
「それで、どうしたの?」
「単刀直入に聞くけど…早瀬くんのこと_好きなんでしょ?」
「え?」
唐突な私の発言に渚ちゃんは驚いた様子を見せた。勿論、これは想定内のこと。
「その様子だと、やっぱり好きなんだね」
「そんなに…分かりやすいかな?私が航くんのこと好きなこと」
「まぁ、私は何となく気付いてたから分かったけど他の人は気付いてないと思うよ」
「例えば。その、どんなところが?」
「渚ちゃんが告白された時も振った時も彼のことを気にしてるようだったし」
一瞬だし気付く人なんて早々に居ないと思う。だって、私が気付いたのは雄斗から簡単な事情を聞いた時だった。
「多分、渚ちゃん自身も其処まで気は使ってないんだと思う。早瀬くんの方を見てるんだよね」
「ど、どんな風に見てたの?」
「意識外で意識しちゃってる感じ…なのかな?ちょっと表現が怪しいけどね」
「そう_だったのね」
「それでさ、面倒見の良くて色々な情報を知ってる渚ちゃんだからこそ知ったんでしょ?」
「え?」
「早瀬くんが学年末考査の総合成績で勝ったら渚ちゃんに告白することを。そして、負けたら諦めること」
「それは…」
「別に無理して言わなくても大丈夫だよ。別に問い詰めてる訳じゃないんだから」
「それで、有栖ちゃんは私に何を言いたいの?」
「今度の試験に対して手を抜こうかなって考えたりしたりしたんでしょ?」
「どうして…そう考えてると思ったんですか?」
「そんなの簡単だよ。渚ちゃんも早瀬くんのことが好きなんでしょ?でも、告白したくても出来なかった。でも、今回の学年末考査で早瀬くんが渚ちゃんに成績で勝ったら告白することを知った。この時に渚ちゃんは早瀬くんが自分のことを好きだってことを再認識したんでしょ?でも、それと同時に負けたら諦めることも知った。だから、渚ちゃんが
「流石に簡単過ぎましたね。私は航くんが好きですし愛してるから考え付きました。だから」
私はどうすれば良いんでしょう?と。彼女は苦悩を漏らした。
「どうか、私に協力してくれませんか?」
「協力…それは、試験の手を抜くってことに?それは違うでしょ?」
「はい。有栖ちゃんも私が手を抜けない人だってのは知ってますよね」
「そうだね。渚ちゃんは優しいけど…自分の努力に対しては嘘を吐けないから」
実際そうだった。渚ちゃんは誰に対しても優しいし面倒見も良かった。だから、好かれてるのだけど…。
その反面、自分に対して嘘は吐けない人だった。それが、良さでもあるのだけどね。
「別に航くんを信じてない訳ではないんです。ですが、もし航くんが負けてしまったらと思うと不安で」
「うーん。手を抜かないなら協力してあげるけど」
正直、私の算段では早瀬くんが頑張ったとしても渚ちゃんに勝つのはまず難しい。雄斗のことだから策は考えてあると思うけどそれでも通用するかどうか。そんな状況で渚ちゃんは
取ってくる。負けたら諦めるって既に公言してるから変えることも出来ない。さて、どうするか。
「(どうしたら最善の提案が出来るんだろう)」
そう思ったその時、スマホの通知が鳴った。
「困ってるようだな。手助けしてやるよ」
「見透かしたような発言だね。まぁ、合ってるんだけど」
「天乃さんにこう伝えなよ。_ってそうしたら、天乃さんも航も本気で頑張れるし絶対に告白出来る」
それは私の中ではなかった逆転の発送だった。確かに妙案だけど。でも_。
「渚ちゃん、作戦を考えたんだけど」
「ほ、本当?」
「うん、渚ちゃんも早瀬くんも損をしない選択。最善策だと思うよ」
「まず、渚ちゃんは渚ちゃんなりの全力を出すこと。手を抜くなんて考えたら駄目」
「わ、分かった。でも、本当に大丈夫なんだよね?」
「大丈夫。私も雄斗も早瀬くんが勝てるように手伝うから。だから、渚ちゃんは自分の全力を出して」
「分かりました。それで、作戦ってのは」
そうして作戦を話し終えた後、念の為に声を掛けておくことにした。
「私は早瀬くんのこと狙ってないからね?」
「ふふっ、分かってますよ。だって、有栖ちゃんは汐屋くんが居ますしね」
「まぁ、それもあるけど…渚ちゃんと早瀬くんの間に私が入る隙なんかないからね」
ってあれ?その終わり方だと雄斗のこと好きってことにならない?と気付く。
「いや、違うからね?好きじゃないよ!」
と去ろうとする恋する
******************
私は彼を見誤った。結局、彼は何も変わらず他人を優先させた。
今なら、昔と違うと思った。確かに彼は変わった部分もあった。
それでも、彼の根本的な考えは何も変わってなかった。
それは、私の賭けだからかもしれないし違うかもしれない。
「(私はどうすれば_)」
雄斗から聞いた点数と表に貼られた平均点が寸分のズレもなく同じなことを改めて知った瞬間だった。
******************
俺が雄斗と別れて教室へ戻ると既に渚が来ていた。
「もう、来てたのか。もしかして、待たせたのか?」
「うん。航くんも早かったね」
「まぁ、渚を待たせる訳にはいかないからな」
「そういえば、成績凄く上がってたね。おめでとう」
「まぁ、雄斗や柊木さんに頼んで貰って頑張ったたんだ」
「私にも勝っちゃってさ。ちょっと驚いちゃったよ」
「まぁ、俺は今回だけだけど渚はずっと維持してるからな。俺よりもずっと凄いよ」
「そうかな」
「(何で言えないんだよ。『俺渚のことがずっと好きだった』って言葉にするだけなのに)」
此処まで来てへタレなのが悔しい。その時、俺は思い出した。
「あ、そういえばさ」
「どうしたの?」
「その、今日ってホワイトデーだろ?それで、雄斗と作ったんだけど…貰ってくれるか?」
と鞄の中にあるマカロンを取り出すと彼女に手渡した。
「これって_マカロンだよね?」
「あぁ。俺って料理苦手だからさ。苦戦したんだけど雄斗に手伝って貰って作ったんだ」
そう。あの後、雄斗の監修の元ではあったが自分で全てを作ったのだ。勿論、味も形も雄斗のよりかは落ちるが本人からは合格を貰うまでには成長した。
「美味しく出来たかどうかは分からないけどさ。その…食べてくれると嬉しい」
「航くんが作ってくれたってだけで私は嬉しいよ_ありがとうね」
と満面の笑みを浮かべる渚を見て俺は改めて彼女を好きなのだと分かった。そして俺は心に決めた。
「そ、それでさ。渚…」
「本当にありがとうね。
え?斗思わず口に出てしまった。折角、告白しようと意気込んだのに区切られてはその勇気も_。
「航が
「え_?それってど、どういう意味…なんだ?」
「ってのは?マカロンの意味?もしかして知らなかったの?」
「俺は雄斗にオススメだって言われたんだけど」
「ふふっ、成程ね。つまり、君は嵌められたんだ。でも、君らしくて好きだよ」
「え」
「私もずっと好きだったんだ。君のことを」
「ほ、本当なのか?な、渚が俺のことを…好きだってのは」
「うん。ずっと好きだった。だって、昔から航は私のことを大事にしてくれた、助けてくれた」
そんなのって好きになるしかないでしょ?と彼女は笑う。
「でも、俺ってこういう奴だしさ」
「うん。でも、私は君が好き。ちょっとヘタレな君も君らしくて私は好きだよ」
「しれっとヘタレって言うなよな」
「ごめん…。まぁ、航がどうかは知らないけど告白されても_ずっと航のことだけを見てたから。だから…」
「俺と付き合ってくれ」
その時、彼女は驚いた様子を見せた。俺は彼女の言葉を区切ってしまった。
「俺の決めたことだから。告白だけは譲れなかったんだ」
「そっか。うん、私も好きだよ。これからも宜しくね、航」
「あ、あぁ」
「ふふっ。なんかこういう状況なるのも私たちらしいね」
そうだな。そうして取り敢えずは感謝のメールでもしておこう。そう思っていると彼女は口にした。
「そういえば、知ってる?」
「え、何を?多分、知らないかもしれないけど。どうしたんだ?」
「もし、私が勝ってたら私が告白する予定だったんだよね」
そう作戦の内容とは至極単純で
『渚ちゃんが試験に勝ったら渚ちゃんから告白する』
というものだった。私はそ、それって本末転倒って驚いていたけど…でも、それが最善の策だったのだ。
「え、そうなの?」
「うん。全部、汐屋くんと柊木さんの作戦だよ」
「俺は…彼奴等の計画に踊らされたって訳なのか」
やっぱり、感謝するのはなしだな。
考えを改めながらも俺は少し恥ずかしげながらも伸ばされた彼女の手を引き教室を出るのだった。
その時に見た夕焼け空は普段見るものよりも幾分と綺麗だった。
家に帰って調べたことだがマカロンには
「あ《・》
って意味があるらしい。因みにその計画のを考案雄斗は航から抗議されるのだが…それはまた別のお話である。
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