14話 何時、伏線だと明言した?

起きて時間を見ると7時過ぎだった。焦って下へ降りると怜奈がカレーを食べていた。

「カレー、作ったんだな」

「お兄ちゃん寝てたしね。エプロンのまま」

「ちょっと疲れてたんだ。まぁ、気にする程じゃないし普通に大丈夫だけど」

「ありがとうね。作ってくれたんでしょ?明日の_」

その話は明日にお預けだ。と言葉を区切り俺はエプロンを脱ぐ。記憶の中でエプロンは脱いだはずだったのだが_曖昧になっていたらしい。椅子に掛けると俺も座って食べ始めた。

「何時頃、帰って来たんだ?」

「覚えてないけど連絡を貰って大分後だと思う」

「俺が寝てた所為で迷惑を掛けたな」

「謝る必要なんてないよ。私と柊木さんの為に作ってくれたんだし_本当に明日だね」

「そうだな。そして、航の運命の日でもあるか」

明日で期末の結果が全て返って来る。その総合成績で殆ど何位かが分かるのだ。また放課後には上位成績の表も貼り出されることになっている。航は天乃さんに勝たないと告白しないし諦めると言っていたから本当に重要な日なのだ。

「(俺としてはちゃんと勝ってて欲しいけど。でも、気になることがあるんだよな)」

航の考えだから俺がどうこう出来る訳じゃないが_それでも両想いって有栖から聞いていたのもあるからどうせなら関係ないし告白すれば良いと思うが考えは人それぞれだ。俺にはどうしようも出来なかった。

 ******************

「当日だな」

前日、冷蔵庫で冷やしておいたたマカロンを持って家を出た。因みに怜奈は彼女の家に戻ってから学校へ向か裏しく早々に家を出て行った。

「随分と元気そうだな、航」

「それは、皮肉なんだろ?内心俺は凄く不安なんだからな」

「そういえば、成績は届きそうなのか?」

「どうなんだろうな。俺の結果は前よりも大分取れてるがそれは当たり前だ。渚に勝っているかは分からない」

「聞いてないのか?天乃さんに」

「聞ける訳ないだろ。もし、それで逆転出来ない成績の差だったらどうするんだよ?」

「どうするもこうするも信じ流しかない。因みにその場合は諦めるのか?」

「まぁ、俺は男だからな。言ったことは変えない主義なんだよ」

「成程ね。まぁ、俺としてはどっちでもって感じだから変えても何にも言わないぞ?」

「お前がそういう奴だってのは分かってるよ。結局は俺の判断に委ねるんだろ?』

「後は3時限目にある地学だけか。未返却なのは」

あぁ、そうだったな。と相槌を打って教室へ入った。

「あ、そういえば登校したら職員室へ来いって言われてたわ。ちょっと行ってくるな」

「何をやらかしたんだ?問い詰められる招いちゃんと素直に自白しろよ」

「何もやってないから。俺の評価って雄斗の中ではそんなに低いものだったのか?」

冗談だ。と返すと彼は呆れた素振りを見せて出て行った。それを見届けて俺はへ声を掛けた。

「おはよう。天乃さん」

「おはよう、汐屋くん_どうしたの?私に話し掛けるなんて珍しいね」

「ちょっと聞きたいことがあってさ」

「どうしたの?あ、答えられる範囲でお願いね」

「別に変なことは聞かないけど_テスト今のところ何点なの?」

「テストって学年末考査のだよね?」

「あぁ。何点なのか教えてくれないか?」

「それはどうして?」

まぁ、そうだよな。友達とかならまだしも俺と天乃さんなんて今では殆ど関係がないからな。

「天乃さんって普段から上位の成績だろ?だから、どうなのかなぁって気になってさ」

「君も上位を狙ってるの?」

君も上位狙ってるの_か。天乃さんなら俺のこれまでの成績を見れば到底考えじゃないことくらい分かってるはず。つまり牽制_。勿論、その対象は俺じゃない。じゃあ誰に対してなのか。

「そう聞かれたら撤退せざるを得ないな」

「聞かなくて良いの?」

「聞かせる気があったらそんな発言はしないんだよ。それを分かってて言ってるだろ?天乃さん」

「何のことかな?でも、聞かなくて良いなら私は仕事があるから」

そうやんわりと断られた。まぁ、完敗だ。勿論、完敗でも唯の完敗で済ませる訳がないけど。

「どうしたんだ?そんな顔して」

戻って来た航が俺を伺うような顔をしたが_知らない振りをしておいた。

「(詮索したことを言うのは流石に不味いしな)何の用事だったんだ?」

「昨日、頼んでたプリントの評価だよ。昨日、渡すの忘れてたんだ」

「さっき聞き忘れたけど今、総合で何点なんだ?」

「780点前後だった気がする。因みに柊木さんは何点なんだ?」

「学年末1位の点数を聞いてどうするんだ?参考にならないぞ」

「参考程度に教えてくれよ。どうせ勝てないって分かってるから」

「796点」

「それは俺としても想像以上の点数だな」

と諦めの顔をしているが大丈夫だ。有栖がズレてるだけだからと窘めておいた。

「上位には乗れることは保証するから落ち着いて待つんだな」

「俺は_渚に勝てると思うか?」

「どうだろうな。楽しみにしとくんだな。焦らしてる訳じゃなくて今の俺には言えないだけだ。気にするな」

「そうか。良かれ悪かれ先に聞くのは後味が悪いか」

俺はそんな航を黙って応援することしか出来なかった。

「そういえば、あのってどうなったんだ?」

「あの規則って?あぁ、校則4のことか?」

「そうだよ。仮に俺が渚に勝って告白して付き合えることになっても交際出来なくないか?」

「あぁ。言ってなかったな。その校則は撤廃することになったぞ」

「は?」

それは、大分前の話である。

 ******************

「そういえば、あの話はどうなったんだ?」

「あの話って何ですか?フランスパン?」

「校則の件だよ。前に聞いた時は曖昧な回答だっただろ?」

「そういえば言ってなかったね。会長と話したでしょ?あの時に撤廃させるように説得したよ」

「へぇ、説得ねぇ_は?」

「あの後、日を追って相談してさ。噂の鎮静化を協力する代わりに校則の撤廃を約束させたの」

「お前ってそんな権力あったんだな」

「権力_って言うと語弊かもね。私は今回の件の被害者でしょ?それを利用しただけだよ」

「そうだな。待て、そうなるとあの件をへし折った権力者ってやっぱり会長なのか?」

「そうだよ。理由は言わないでおくけど。でも、ちゃんと説得させたから安心して」

「もしかしてだけど、副会長が絡んでたりするのか?」

「さぁ、どうだろうね?後、言っとくけど撤廃は次の生徒総会で報告するから広めないでね」

「分かった。会長の件についてはこっちで勝手に調べて大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃない?今回の件に関与してる訳だし。会長も説明責任能力はあるでしょ」

その後、調べたことだがやはり会長は今の副会長が好きらしい。それで校則を悪利用しようとしたらしい。

「其処まで調べたなんて流石だね。因みに会議の方は無事に成功したよ」

「それは良かったな。それにしても何でそんな制度が出来たんだ?」

「簡単に説明すると前々代の会長が幼馴染のことが好きだったんだけどヘタレでさ。幼馴染に彼氏が出来たって勘違いしてそれが嫌になって校則を作ったんだって。で、先生たちも別に問題はないって認めたのが始まり」

「馬鹿じゃないのか?」

「因みにその会議で決まった後に幼馴染から告白されたんだけど決まったことだし変えられなかったって訳」

「え、じゃあ何で改正しようとした時に有栖の噂が流れたの?」

「今の生徒会長もヘタレでさ。ボツになったって言ったら問題でしょ?そんなところだよ」

「釈然としないんだけど。もし、そうなら完全に風評被害じゃんか」

「まぁ、でも会長も此処まで考えてなかったし噂も掻き消えたから大丈夫だよ」

「根も葉もない噂が横行したってことだし本当に理不尽だろ」

「それはそうなんだけどね。まぁ私としても撤廃してくれた方が好都合だったし構わないけど」

「それって_有栖も好きな人が居るのか?」

「そうだね。確かに私は好きな人が居るけど」

の君にはだよ」

その時の彼女の声は低く。そして、悲しさの混じる冷徹な声だった。

 ******************

「マジでしょうもないな。今の話が本当なら」

「それは、本当にそう思う」

「ってかあの流れだと完全に伏線だと勘違いするだろ。俺はしないけど」

「そんなことよりも、休み時間なんだし天乃さんと話して来たらどうなんだ?」

「え?今はちょっと厳しくないか?」

「そんなことを言ってるとお前も前々代の生徒会長と同類になるぞ」

「あ、それは嫌だな。話してくる」

何で前々代の生徒会長は会長になれたんだろう?航へ応援しながら心の中で突っ込んだのだった。

そして、3限目。待ち侘びた人も居れば絶望する地学の返却となった。

「(さて、俺にとってはどんな結果でも興味がない地学だが)」

航より早くテストの結果を貰い俺は席へと着く。この時点で既に俺と有栖との賭けの勝負は。平均以外を取れば俺が勝つという有栖にとって理不尽な勝負。勿論、俺からすれば平均以外を取ることは今までの自分への否定となり屈辱なことだが勝負だけを見れば俺がまず負けない勝負だった。俺はどうすれば良いのか?答えは既に出ていた。出ていた故に性格の歪みに嫌気が差した。

「(本当、考えてるだけで嫌になるな。これを有栖が予期してたなら_もう俺は隣に立てなくなる)」

それは間違いようのない事実だった。ふと教師の言葉が響き航の方を見たが_見た限りでは表情の変化がないように見えた。俺はそれが気になり授業終わりに航の所へ向かった。

「航、地学は何点だったんだ?」

「91点。俺としては2、3点は盛りたかったけどな」

「お前、まぁまぁ得意だったしな。まぁ、それでも合計で871点だしとんでもなく凄い点なんだけどな」

「まぁ、確実に上位に食い込めるだろうけど航の場合、天乃さんに勝たないといけないしな」

「今日の放課後だったよな。上位成績者の発表は」

「順位発表は今日だよ。個別の成績は明日だけど」

「俺が何を考えているのかは分かるか?」

「分からないよ。でも、何度も言うが俺は告白するべきだと考えてるから」

そうか。そういうと暗黙する航に対して俺は友達なりの助言をすることにした。

「男の意義も大事だと思うけど_それより大事なモノを見落としたら取り返しが出来ないからな」

「取り敢えず、放課後になったらマカロンを渡しておくよ」

「あ、そういえばまだ航に渡してなかったな」

ちょっと他の奴らと喋って来ると輪の中へ入るのを見届け_俺は有栖と目があった。

「どうだったの?」

「どうだったって何の話を言ってるんだ?」

「言わなくても分かることだと思うけどな。早瀬くんの成績だよ」

「それを聞く辺りお前は知ってるんだろ?天乃さんの成績を」

「うん。知ってるよ。だから、どうなのかなぁって思ったんだ」

「なら、黙っておこうぜ。有栖」

「そうね。彼らも知ってないのに私たちだけが結果を知るのは悪趣味よね」

「やっぱり、そういうところが有栖の良さだよ」

「話が変わるけど_今日の放課後はどうするの?」

「どうするって、結果を見て考えるよ」

「賭けしたのは覚えてるよね?」

「次の考査で平均を取ると俺の負けって奴だろ?」

「うん。覚えてたね。だから、結果を見たら寄り道しようよ」

「俺が平均を取ると思ってると」

「因みに幼馴染である私の考えだと君は

「そうかな?もし、俺が有栖の立場なら平均点は取らないが」

「そう。でも、君は私のことを悔しがらせることなんてしないでしょ?」

「まぁ、有栖の悔し顔に需要なんてないしな。でも、やる時はやる男だぞ?」

「最初の言葉にちょっと傷付いたけど、まぁそういうことにしておこう」

「そりゃどうも」

そして、放課後となる。

 ******************

「お前、告白するんだってな」

「何処で聞いたんだ?その情報。誰にも流してなかったのに」

「何となくかな。普段の様子を見てそう思った。まぁ、でもその感じだと図星だね」

「そうだよ、合ってるよ。日野さんに告白するんだ」

日野真理奈。お淑やかで清楚、学年でも人気のある少女だった。だからこそ_

「勝算はあるのか?」

「ないよ。中学校の少しの思い出で爆ぜるだけさ。カッコイイだろ?」

「そうだな。まぁ、お前にとっての青春ならそれで良さそうだな」

そう苦笑しながらも俺は彼へ応援した。少し成功を勝ち取って欲しいし。

何故かって?そんなもの決まっている。

「俺さ、緊張するかもしれないから_見ててくれない?」

告白するのに緊張するのかよ」

「そりゃあするに決まってるだろ?」

「無理な前提で行けば気が楽になるかもよ」

「それって告白する意味あるのか?」

「それをしようとしてるのは君だけどね?」

「まぁ、影で見ててくれ」

そう言われたら見るしかない。呆れた奴だと思った_その時は。後に自分へ帰ってくるとも知らずに。

「じゃあ、行ってくるわ」

「まぁ、正直に頑張ってな。応援してるから」

校舎裏の影となった部分で身を隠して俺は様子を見ることにする。そして、暫くすると彼女がやって来た。

「どうしたの?_くん。用事って」

「じ、実はさ_ずっと、気になってたんだ、」

今頃、告白しているのだろう。どんな様子なのかと興味本位で顔を少しだけ出し天を仰ぐ彼を見た。その様子からして失敗したのだろう。帰って来たら慰めてやるか。そう思ってると意外な言葉を耳にした。

「ごめんね!日野さん」

「え、どうしたの?急に」

「本当に気を悪くさせたらごめんだけど」

「う、うん。何があったの?」

「嘘告白_なんだよね」

は?俺は思わず声を出し掛けた。失敗したから嘘告白に逃げるのは卑怯ではないのか?そう燻ってると

「其処に居るんだろ、汐屋」

声を荒らげながら俺の方を見て言った。その瞬間、俺は悟った_嵌められたのだと。あの場所には俺と彼奴しか居らず証人も居ない。その上、彼奴は俺を誘導してこの場所へ留めさせた。そして、彼がとなることで俺はどうなるのか?そんなこと、言われなくても分かる。

「(俺が犯人になる)」

勿論、そんなものはでっち上げだし否定出来るが、余りにも分が悪かった。の日野さん相手に散った男子は数多く居る。そんな中で嘘告白で潰そうとする奴が居たらどうなるか?

「まさか、見守ってた俺を潰そうとする訳か?」

「見守る?それは、嘘告白の様子ってことだろ?」

「違うに決まってるだろう。俺がそんなことをする訳ないじゃんか」

「それは、どうだろうな?お前の立場を良く分かってる俺からすればこんなことすると思うけどなぁ?」

クラスでの立ち位置。奴は上位で俺は下位の存在。下の者が上の者を嫉妬に駆られて潰したなんて言ってしまえば通用されてしまう。

「(何で俺は気付かなかったんだ)」

此奴がどうして俺に接近したのか?それは、簡単だ。だから潰す。だから潰す。から潰す。理由なんて幾らでもあるじゃないか。

「俺はやってない。それだけだ」

「理由になってないんだけど?言い訳に走った?」

「言い訳じゃない。唯、違うだけだ」

そんな苦しい抵抗で彼女が動く訳もなく_

「汐屋くん、そういうのは良くないと思うな」

そう、見限られた。そして、俺は友達と居場所を失った。いや、違うか。友達だと思っていた人は唯、俺を利用したかっただけ。此奴は俺のことを友達の枠になんて眼中にすら思っていなかった。俺は間違えたのだ、全てを。その事実は俺の中学校生活を終えるのに相応しいモノだったのだろう。それは_


俺の頑張りを否定し自分の人生を嘲笑い、人を信用することの否定に効果的だった。

結局、何もかも変わらなかった。俺も環境も。結局は、空虚だったのだ。

丁度1年前に刻まれた散々たる出来事であった。

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