13話 先天な神童と後天の凡人


平凡を生きる彼はと呼ばれた。


学力や身体能力に劣らず何でも出来た。料理や裁縫などの家事なんて当たり前に出来るし陸上だって水泳だって

何でも出来た。彼は神童だから出来過ぎた。そうして、彼は過ちを起こした。別に怠慢だった訳ではなく他人に貢献していた故に利用された。それだけだの理由で彼は間違えた。気付かぬ場所で間違えた。神童だから許されなかった。彼は知る由もない間に大事な人を苦しめた。自分の価値を見誤ったから。そして、彼は知った。神童だから。彼は家族を失った。そして、自分のを捨てた。それだけだ。

 ******************

朝は早くに目覚めてしまった。どうして、過去が夢となって現れるのか。別に過去のことなんて気にしてないし振り返る余裕なんてない。出来ることなら思い出しくもない。だからこそ、俺は過去と決別したのに。

「はぁ、まだ起きるには早過ぎるし夜食でもしようかな」

棚を開けカップ麺を取り出すと薬缶を沸かした。恐る恐る、怜奈の部屋を見に行くと何故か起きていた。

「何で起きてるんだよ?」

「それは私の質問だよ。今からでも添い寝しようかと思ったのに。何で起きてるの?」

「ちょっとな。って、しれっと何を言ってるんだ?お前」

「夜食するの?お兄ちゃん。あ、成程ね。1人じゃ寝れないんでしょ?添い寝してあげようか?」

それは止めとくとちゃんと遠慮すると告げると薬缶が鳴った。

「カップ麺って本格的な夜食にするんだね」

「夜食に本格的なんてものはないよ。唯、そんな気分だっただけさ」

そう呆れるとカップ麺に湯を注ぐ。正直な話、カップ麺を食べるのなんて久々だし夜食をするにはもっと別な物でも良かった。じゃあ、何故他のにしなかったのかって?それは、簡単なことだ。俺が夜食を食べようとして怜奈が起きていれば食べるだろうから簡単な料理をしようにも2人分の皿洗いなんてしたくなかった。それだけだ。

「食べたらさっさと寝るんだぞ」

「うん。でも、お兄ちゃんと夜食なんて久々だね。熱っ」

「俺と食べることが久々ってことは最近、夜食したんだな」

「それは、ちょっと眠れなくてさ」

本当は、試験による徹夜の影響だったのだろうが俺は敢えて突っ込むことはしなかった。別に、咎める分には幾らでも出来るだろうが、それをしたところで過去の話なのだ。改善しようにも次の試験は当分先だし何より俺の中では既に終わったことだと思っているからだ。

「(勿論、怜奈の体調に影響が及ぶなら怜奈と話して配慮して貰うように頼むけど)」

「さっき、添い寝するって言ったら断ったけど。もし、私がして欲しいって思ったら、してくれるの?」

「え?」

怜奈と添い寝する。断ってばかりで全く考えてなかったが別に義妹だし添い寝しても大丈夫なはずだ。有栖が知れば確実に怒りそうだが俺と怜奈の関係を知らないし大丈夫だろう。

「お兄ちゃんと添い寝したことなかったしさ、してみたかったんだんだけどなぁ」

「はぁ。お前も俺も高校生なんだぞ?まぁ、怜奈の頼みだし、その今回だけだからな」

そうして俺は怜奈と添い寝することになったのだが。

「何で俺は怜奈を抱いて寝てるんだ?」

「そうして欲しかったし。でも、離さない時点で嫌じゃないんでしょ?お兄ちゃん」

「随分と痛い所を突いてくるな、お前」

目を閉じると温かい感じがする。それは怜奈と寝てるからだろう。その夜、俺は悪夢を見なかった。

 ******************

「さて、明日の準備をどうするかだが」

授業中、俺は考えていた。取り敢えず、航の手伝いをするのだが色々と問題がある。まずは、航の料理の腕。そして余りバレたくはない。怜奈には有栖にも贈ることは言っているが有栖には言ってないからバレたら確実に面倒になる。だからこそ、こうして頭を悩ませているのだ。

「(今日、怜奈か有栖は俺の家に来るだろうし、来なくても航と作った際に2人分のを作っているところを航に見られたら航経由でバレる。そうなったら詰みだぞ)」

「汐屋。次の問題の解を答えてみろ」

唐突に数学の教師が俺を当ててきた。勿論、考え事をしていたので答えれる訳がないのではないのだが。

「えっと、分かりません」

「また分からないのか?取り敢えず、思い付いた奴を何でも述べてみろ」

「(適当に飛ばすつもりだったのにこうなっちゃったか)」

チラリと航の方を見ると苦笑していた。どうやら、助ける気はないらしい。笑ってないで助けて欲しいのだが。

「(奇数…だよな。それに、虚数…)3iですか?」

少しの沈黙が流れた。俺は間違えたのか?何なんだ、この沈黙。

「あの、先生?違い、ましたか?」

「いや、合ってるんだが。良く分かったな」

合ってるのかよ。そう思ってると通知が届いた。送り主は、前の方に座る航だった。

「何で沈黙が流れたんだ?」

「だって、さっき雄斗が当たった問題は結構な難易度だぞ?」

「え、じゃあ何で俺に当たったんだ?そんなに俺を公開処刑にしたかったのか?」

あの教師_俺が苦手なことは分かってるはずなのに_。

「あれじゃないのか?お前が考え事してたとか」

「それは、お前の件でな。だから_お前の所為になるんだけど」

「あの件だったのか。それは、すまん。でも、そんなに悩むことなのか?」

当たり前だ。と呆れたが教師の声に慌てて顔を上げた。結局、何だったんだろうか。恐らくは航の言う通りだと思うのだが何か引っ掛かる気もした。だが、そのを突き止めることなくそのまま授業は終わってしまった。

「危なかったなぁ」

「そうだな。まぁ、呼び出しもなく大丈夫だったけど」

「そのお気楽な所が羨ましい。で、何点だったの?数学」

「お前こそ何点なんだ。俺はそっちが気になる」

平均点50点だったよなと呟くと彼が止まった。

「どうしたんだ?」

「49点だった」

「え、お前。49点って。数学得意だったんだろ?何でそんなに落としたんだ_」

「本気で信じるのかよ。実際は88点だったぞ。まぁ、9割には届かなかったけどな」

「あっそ。はぁ。反省の色も見れないし_やっぱり今日の件はなしで」

「止めてくれ!マジで俺が悪かったから、許してくれよ!」

「反省が足りない気もするんだけど?」

「分かった_スタバ奢るから。だから、許してくれ」

「フラペチーノなら許してやるよ」

「ありがとうございまーす!」

本当に調子の良い奴だな、本当。そう思ってるおきながら俺は心の中で溜息を吐いた。

 ******************

「で、どうするんだ?」

「どうするって教えてくれるんじゃなかったのか?」

「まさか、作り方すら見なかったのか?マカロンの」

「見たところで分からないし作ろうものなら悲惨な結果を生無ってことくらいは分かるだろ」

結局、有栖と怜奈に連絡を入れて航を家に呼ぶことにした。この選択が安牌だと思ったのだ。尚、台所にはアーモンドプードルや粉糖。ココアパウダー、メレンゲなどの材料が揃えてある。勿論、俺が航に対して用意させたのだが。

「俺の作り方を見とけよ。後で指示はするがやって貰うからな」

考えた末、先にガナッシュ作りをすることにした。生クリームを鍋に掛け沸騰の直前まで温める。その後、温め終わったら火を消した後、チョコを入れるとベラで混ぜ合わせる。その後、溶けたチョコをボウルに入れ冷やすとラップをして冷蔵庫で冷やす。そうしてガナッシュ作りは終わりだ。

「大変だと思ってたけど案外、簡単なんだな」

「まぁな。じゃあ、生地を作るぞ」

別のボウルを用意すると粉類をふるいに入れた後、メレンゲを作っていく。またまた、別のボウルを用意して卵白を入れた後にミキサーで泡立てる。この時に、グラニュー糖を4回に分けて混ぜるのがポイントだ。

「ヤベェ!楽しい!美味しい!」

「ちゃっかり味見をするんじゃねぇよ」

泡立ててが立ったらメレンゲは完成。そして、

「じゃあを作るから」

「まろかなーじゅ?」

「マカロナージュな。地味に間違ってるから」

「おぉ、すまんすまん」

メレンゲに粉類を足し泡を潰さないようにしながらゆっくりと混ぜていく。十分混ぜ合ったら泡を潰すようにしていく。ゴムベラですくい上げて、全体がゆっくり落ちるくらいになるまで混ぜる。

「混ぜ過ぎると膨らまなくなるからな」

「どれくらい混ぜるべきなんだ?」

「感覚で頑張ろう。あ、でもやり過ぎるなよ」

勿論、混ぜ足りないと生地に空気が残り過ぎて表面が割れるからちゃんとする必要がある。

「よし、じゃあ丸口金を取ってくれ」

「何だ?それ。俺はそんな道具知らんけど」

「アレだよ。ホイップとかで使う奴だよ」

「あぁ。」

絞り袋に生地を入れお世話になっているクッキングシートを敷いた天板に、感覚で丸型になるよう生地を絞っていく。そうしたら、マカロンの表面が乾くまで置いておく。

「その間に、オーブンを予熱しててな」

「それが終わったら休憩なのか?」

「まぁ、そうだなぁ」

暫く休憩した後、作業を再開した。入れる前に、表面をちゃんと乾かさないと加熱時に表面が割れるから覚えておこう。それを確認したら、予熱オーブンで焼き上げ膨らんで周りにピエが出てくるまで焼き、粗熱を取った後、冷やしておいたガナッシュを絞り袋に入れ、生地に絞り出しガナッシュをサンドして無事に完成だ。それを見届けると俺と航は背伸びをした。

「疲れたな。よし、寝るか」

「はぁ。冷蔵庫に納品しておくからお前は帰るんだぞ」

「そっか。お前は今から作るのか」

「まぁな。サクッと出来るから。という訳で帰れ」

時間が掛かる前に俺は航を帰らせた。これは、俺の為でもあった。

「(有栖と怜奈が終わるまでにちゃんと終わらさないとマジで不味くなる)」

急いで台所を片付けると俺はさっさとモンブラン制作を始めた。そして_

「もう無理。過労死でもう動けないわ」

モンブランを冷蔵庫に直し道具を片付け終えると俺はエプロンのままベッドに倒れ込んだ。途端に急に眠気に襲われる。

「エプロンは脱いでおきたい_けど、もう」

俺は深い沼へと沈んで行った。

 ******************

「その思い耽った感じは何なんだ?まさか、お前は誰かに返すのか?」

「返さないよ。寧ろ、何で返すと思ったんだ?」

「良かった。もし、貰ってたら嫉妬して何をするか分からなかったぞ」

の友達と喋りながら俺は溜息を吐く。幼馴染の有栖に贈るのだが俺の立場と有栖の立場を比較すればそんなことなんて言える訳もない。

「(言ったらどうなるのかは身を持って知ってるしな)」

その後、彼にどうしてそのようなことを聞いたのかと尋ねると何人の男子が貰ったかどうかを調べるらしかった。

だよなぁ。と溜息を吐く。こんな奴と友好関係を築くのも全部俺のの生活確保の為。失敗したら俺は本当に詰むだろう。そうすれば俺は有栖に迷惑を掛けることになる。

「良かったよ。お前もこっち側で助かった」

俺は薄く笑って返すだけだった。

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