12話 男の作戦と決戦準備(前夜)

「さてと、どうしようかなぁ

俺は部屋で唸っていた。というのも有栖や怜奈に贈る内容が全く浮かばないのである。毎年、料理が出来るのもあって手作りはしてるのだが自分の料理枠のレパートリーにも上限はある。有栖に関しては小さい頃から贈ってるのもあり被ってしまう。俺としては贈るなら被ることなく贈りたいのである。

「去年はブラウニーだったしなぁ」

どうしたら良いものか。そう悩んでいると突如、電話が鳴った。

「どうした?航。暇になったのか?」

「俺も普段から暇じゃないんだぞ?お前に相談があって電話したんだよ」

「恋愛相談か?それなら、電話切るけど。じゃあな」

「ちょ、ちょっと待てよ!勝手に判断して電話を切るなよ!」

「何なんだ?俺は今、ホワイトデーの件を考えてるんだよ」

「それを相談しに来たんだ。その、渚に贈りたくてさ」

という言葉を聞いて俺は固まった。というのも別に恋愛相談だったから、とか言う訳ではなくちょっと問題があった。というのも、別に俺はさっきも述べたが料理は得意だ。でも、が出来ないのだ。それも壊滅的に出来ないのだ。別に漫画や小説で登場するを作る訳ではない。見た目に問題はないのだが味が駄目なのだ。何故か中身が壊滅的に駄目だ。実際に俺は調理実習時に騙されて吐きそうになったことがある。

「それで、助けてくれよ。俺の腕なんて分かってるだろ?」

「うん、だから断ろうと思ってさ。じゃあな」

「ちょっと待て。マジで頼むよ!俺を手伝ってくれ。雄斗にしか頼めないことなんだって。頼むよぉ」

「渚さんに贈るんだろ?多分、渚さんは航の料理の腕を知ってるから下手に出来すぎると疑う斗思うけど」

「大丈夫だ。渚には俺と雄斗で作ったって言うから」

「確かにそう言ったら大丈夫か。はぁ、分かったよ」

「手伝ってくれるのか!」

「今回だけな。次からは手伝わないぞ?それで何を作る予定なんだ?」

「それが、決まってないんだよな。雄斗は何が良いと思う?」

少し考えること数秒、俺は思い立った。

「マカロンはどうだ?結構コツが居るけど俺が居るし大丈夫だと思う」

「そうか!ありがとうな。あ、兄が呼んでるからまた後で連絡するわ!」

そういうと電話を切った。正に風のような奴だった。

「そういえば、すぐ了承してたけど意味を分かってて言ってるのか?」

バレンタインやホワイトデーで贈り物をする時にはがあるのは有名な話だと思っている。例えばキャンディなら「相手に好意を持ってる」という意味がありマカロンの場合は「相手を特別な存在で見てる」という意味になる。それを彼が分かってないで決めたのだとしたら地雷になる気がする。そんな状況を知って

「まぁ、大丈夫だろ。気付かなくても天乃さんがどうにかしてくれそうだし」 

と完全に他人事であった。因みに俺が何を贈るかは考えた付いた。まぁ、それが何かはお楽しみだ。

 ******************

夜。俺は所要で外に出ていた。そして案の定、彼女は居た。

「また、会ったな」

「何ですか。名無しの犯罪者さん」

「マジで俺を犯罪者に仕立てるの止めようか?後、名前が酷くなってないか?」

「なら、さっさと消えたらどうですか?」

「それもそうだが。ちゃんと食べたんだな」

「な、何で分かるんですか?やっぱり」

「そうやってすぐ不審者扱いするのは止めない?妹の情報だからさ」

「はぁ。そうやって捏造して何になるんですか?」

「してないよ!またあげるからちゃんと食べとけよ」

「私は買収されませんが貰うだけ貰っておきます、少なっ」

当たり前だろ。他から見たら貢いでる俺がヤバイ人になっちゃうじゃん。

「そういえば聞いてなかったけど、名前はなんて言うの?」

「何で名乗る必要があるんだ?俺だって君の名前を聞いたことないのに」

「通報する時に必要でしょ。貴方の名前は」

「だから、犯罪者扱いするなって。そろそろ心が寛大な俺も怒るからな?」

そう呆れたが名前を名乗らないでずっと犯罪者って呼ばれるのも癪だったので名乗ることにした。

「俺の名前は汐屋雄斗だ。2度は言わないからな。ちゃんと覚えておけよ」

「汐屋、雄斗?」

急に固まったかと思うと震え出した彼女に俺は不信感を抱いた。会ったことがある訳でもないのにどうしたんだ?

「小さい時に、だったりする?」

「何でそんな情報を聞くんだよ?まぁ、そうだけど。じゃあな」

名前を知ったら次は個人情報か。抜け目ないし付き合う義理もない。そう考えると俺はその場を去った。

私はそれを見送って呟いた。

「養子、雄斗。ま、まさか。でも、そんなことは。だって彼なら私を分かる、はず。ないよね。だって」

私は彼がくれた500円玉を握りしめながら公園を出た。背筋が冷える夜だった。

 ******************

「何で、彼女は俺が養子って分かったんだ?」

昔、会ったことがあるのかもしれなうが残念なことに俺の記憶にはない見た目だった。

「顔こそ暗くて見えにくかったけど見たことのない顔のはず。名前も当然知らない。なのに」

なのに、何故か喋ってると気が楽になった。特殊な性癖という訳ではないし腹も立つがスッキリするのだ。俺が喋って気楽だと感じた人は沢山居るが大体の人は俺が養子だったことを知らない。もし、あり得るとしたら

「若菜だったりするのか?いや、そんなことはない。だって彼女は」

彼女な訳がなかった。俺の記憶の中の彼女はあんな生活は送るような人じゃない。俺が養子を止めた後の若菜のことは勿論、知らない。何処で何をしてるのか。唯、若菜が彼女のような生活をしてるなんて想像が出来なかったのだ。でも、聞く価値はあるかもしれない。そう俺が決めた矢先、公園で彼女と会うことは2度となかった。

 ******************

「馬鹿なの?お兄ちゃん。私は見損なったよ」

家に帰った瞬間、俺は怜奈に怒られた。

「マジで何があったんだ?詳細を頼む」

「何で手ぶらなの?お兄ちゃん」

外に出た目的。それは、怜奈に頼まれてコンビ二でアイスを買うことだった。しかし、コンビ二に向かう途中の公園であの少女に出会ってしまったのもありそのまま帰って来てしまったのだ。因み怜奈はアイスが好きなので絶賛、お怒り中である。

「悪かったって!頼む。今日は、我慢してくれ」

「今日の分の借りは何で返してくれるの?」

「兄の膝枕でどう?今なら無料で頭を撫でてやるぞ」

「耳掻きも追加で足してあげるよ」

乗った。そういうと俺の膝の上に頭を乗せ軽くを目を閉じた。

「寝心地はどうなんだ?」

「女子のと比べて多少は硬いけど、居心地は良いよ。ほら、撫でて」

「はいはい」

そう言うと怜奈の髪を梳きながらゆっくりと頭を撫でた。何年も居ればどうしたら怜奈が喜ぶのか手に取るように分かる。

「そういえば、聞いた?あの噂を」

「何だ?あの噂って。知らないけど。具体的にはどんな噂なんだ?」

「同じクラスなのにどうして知らないの?まぁ、良いけど。恋愛が流行ってるんだって」

これまた季節柄だなと感想を述べる。そういえば、テスト明けに木更と上田が交際してたのを公開したのが皮切りだと尚人が嘆いていたような気がする。

「木皿と上田さんの交際公開で火が点いてたんだって。まぁ、高校生だし分かるけど」

「それはそうかもな。まぁ、流行ったところで季節が過ぎれば鎮火しそうだけど」

誰だって高校生にでもなれば彼氏や彼女は欲しくなるのは分からなくもない。別にそれは否定しない。

「(最も、欲しくても出来るかどうかは全くの別問題だけどな)」

「それでさ、私は別にお兄ちゃんから貰うから関係ないんだけど」

「貰える前提なのか。それはまぁ、あげるけどさ」

「それで、他の女子も欲しがってるから気を付けてね。って話でした」

うん、何を?俺は何を気を付けるんだ?あれか?女子がを欲しがってるってこと?

「大丈夫だよ。どうせ、俺には誰も声を掛けないから」

事実だ。大丈夫、気にすることじゃない。どうせ、俺は有栖と怜奈にだけ贈ると決めていたから。

「お兄ちゃんは誰にあげる予定なの?」

「有栖とお前だけだけど」

「有栖って柊木さんだよね?」

「そうだよ。因みに言ってなかったけど余り公開してない情報だから伏せててな」

「分かった」

公開すれば良いのに。と有栖は前に言っていたが俺からすればそれは防ぎたい。理由は簡単でである有栖のなんて肩書きを背負えば確実に嫉妬や軽蔑を浴びる。そんなこと平凡を徹して生きる上ではあってはならないことなのだ。

「あ、電話だ」

気付くと携帯が振動していた。もしやと思ったがやはり相手は有栖だった。

「どうしたんだ?結構遅めの時間だけど。何かあったのか?」

「ちょっと喋りたくなっちゃってさ」

「そうか。何を話す?俺としてはネタがないんだけど」

「そうだなぁ。雄斗くんの良さについて語る?」

「ないよ、そんなもの。そんなことより、お前に贈るのはモンブランで大丈夫だろ?」

「うん、楽しみにしてるから」

彼奴の好みなんて言わなくても分かってる。昔から有栖はモンブランが好きだった。だから、意味などは考えてない。航に対してあんなことを言っておきながらも結局は有栖が1番喜んでくれるものを贈るべきだろう。事実、俺はそうしてきた。

「でも、この季節にモンブラン作れるの?」

「大丈夫だ。ちゃんと準備はしてるから」

それは、去年からの反省でもあった。本当は、去年に卒業の祝福も込めて贈っておきたかったのだが残念なことに栗を取っておくのを忘れていた。栗は皆が知ってるように秋が旬だから春直前の3月なんて売ってる訳もない。だから、取っておかないと作れないことに反省したのだった。

「まぁ、練習は積んでるから大丈夫だと思う」

「雄斗が作るのは何でも美味しいしその気持ちだけで十分だよ」

「そうか。なら、良かった。じゃあ、俺としてはそれだけだから」

「何で電話を切ろうとするのよ?ちゃんと用事があったのに」

「そうなのか?それで、何の用事なんだ?」

「雄斗って誰に渡す予定なの?お返しをさ」

怜奈と同じことを聞いてきた。有栖も気になってたとは驚きだけど。

「お前と」

そう言い掛けて俺は黙った。贈るのは有栖と怜奈だけなのだが_有栖は俺と怜奈が義妹なことを知らないし知る由もない。そして、前に怜奈を話題に出した時に何故か有栖は嫌悪感を出した。さて、どうするか。

「どうしたの?」

「お前だけだよ。聞くってことは何かあるのか?」

「あの噂は知ってる?今、クラスで流行ってる噂という流行というか」

「何なのかは分からないが多分、知らないと思う」

「木皿くんと上田さんの交際してたことは知ってる?」

「知ってるよ。言ってたね」

「それで、男子も女子も恋愛に走ってるのよ」

さっきの怜奈のことで知ったことだが先日、交際を公開したことを尚人から聞いた。関係良好だったのは知っていたから嫉妬よりは祝福の声が多かった。だが、何も影響を与えないはずもなく恋愛ブームを沸かせた。ホワイトデーが控えてるのも後押しとなってってデジャヴを感じるな。有栖も知っている辺り学年中まで広まってそうだ。

「なら、良いけどさ」

と言葉を濁し怜奈同様に忠告すると早々に電話を切った。

「どうせ、俺なんかに声は掛からねぇよ」

「分からないよ?案外、お兄ちゃんって狙い目だし」

「それは、お前だけだと思うぞ」

「本当だって。私以外の女子もそう思ってるはずだし」

「そんなことあるか?」

別に料理が上手なんて誰にも公開してないし俺のクラスでの立ち位置を考えれば声なんて掛からないことだろう。まだ航の方があり得るが天乃さんの付き合いを見てると手を出す女子は居なさそうだし気楽にやれるだろう。俺はそう思っていた。

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