10話 天才な算段と個人の投資
「最終日だな」
最終日と言っておきながらも2日間なことに気付くと何処か変な気分になった。
「さて、俺も学校へ行く準備をするとしよう」
部屋を出ると怜奈が味噌汁を飲んでいた。
「え、起こしてくれなかったの?」
「だって、お兄ちゃん。遅くまでやってたし」
早く寝れば良かったのにと愚痴る怜奈だが怜奈なりに気を使ったらしい。
「別に気にすることじゃないけどな?」
「考査があるのに体調不良だと本末転倒でしょ。無理をしても身体に毒だよ」
「まぁ、そうだけどさ。だからって遅刻も駄目だろ?」
「そうなりそうだったら、ちゃんと起こしてたから。安心して」
「なら、大丈夫だけど。何時に起きたんだ?」
ろ、6時だと思うよ?ちゃんと時計を確認してなかったからと狼狽える妹に対し
「その感じは怜奈も徹夜したんだろ?どうせ」
「お兄ちゃんでも疑うのは良くないと思うな」
だってと区切ると怜奈の顔に手をやった。
「え、ちょっ。お兄ちゃん、その少し」
「
ちょっと薄くしてる辺り隠そうとしてんのが見え見えなんだよと零すと黙ってしまった。
「怒ってる訳じゃないんだけどさぁ、怜奈こそ体調不良になるだろ?」
「だって、お兄ちゃんにあんなことを言ったんだから私が頑張らないと駄目だから」
「待て、まさか俺の家に居ない日も徹夜したのか?」
黙ってしまった。どうやら図星らしい。本当に大丈夫なのだろうか?
「別にそんな気にするな。別に怜奈が入れなくても怜奈の頑張りが消えた訳じゃないだろ?だったらそれで」
「でも私は最後まで頑張りたい。だから」
と口籠る怜奈の頭を撫でると言った。
「そんな無理して得た成果より怜奈の体調方が俺は大事だ。だから、気を付けろよ?」
「うん、ごめん」
そうして落ち着いた様子を確認すると顔を洗った。
「先に出るね。用事があるし」
「あぁ。最後まで頑張れよ」
そう元気に送り出したのだった。
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「また、お兄ちゃんに助けて貰っちゃったな」
そう息を吐くと出たばかりの家を振り返る。
「私はどうしたら良いんだろう」
勿論、全力は出すし表にだって乗りたい。それは、学年末考査が始まる前から思っていたことだった。それは自分の為なのだろうかと。お兄ちゃんが本当は私より凄いことなんて分かってる。だから、結果を出して少しでも褒めて欲しかった。それだけなのだ。
「(でも、もう大丈夫かな。無理はしなくても)」
それだけの為に此処まで努力をして。私の頑張りなんてその場に居なくてもお兄ちゃんは見てくれていた。
「だったら、やっぱり無理はしなくて良いかな」
そう吐き出した。少し冷えた朝だった。
******************
「うん、終わった。もう俺は無理だな!」
「それは、今回に対する自己採点の結果か?それとも自分への頑張りか?」
「どっちも。っていうか、今思ったけど俺への頑張りに終わったって何なんだ?」
「え、昨日の時点では良かったじゃん。」
「おい、無視するなよ。まぁ、俺は物理で詰んだから大分、厳しめなんだけどな」
「あれは難しかったよな」
因みに何処ぞの有栖さんも「先生達の難易度間違えてる気がする」と唸っていた。まぁ、彼奴の場合は次元が違うから参考にならないけどな。
「まぁ、最後は数学だし頑張るよ」
「因みに勝算はあるのか?そのお前の表情的に」
「数学が出来るから此処で稼ぐしかないんだよ。取り敢えずは9割確保するのが絶対条件だ」
「え、得意だったの?前まで俺と同じで苦手って言ってなかった?」
「言ってたけど、ちゃんと勉強した。関数は引っ掛かる部分もあるけどそれ以外は克服したんだ」
「それは大きく出たな。じゃあ、もし俺に負けたら奢りな。嫌なら全力を出せよ」
それは、縛りになるのかもしれない。でも、それが良いプレッシャーになればと俺は親友の背中を押すのだった。
「(やる気、出してくれたかな)」
開始3分前になり席へ戻ろうとしたら怜奈が寄って来た。
「汐屋。私と賭けをしない?」
「賭け?何で俺がお前と賭けをするんだ?」
「昨日、言ったでしょ。今回の考査で上位成績表に載るって」
「言ってたな。それで?」
「うん、もし載ったらさ。付き合ってくれない?」
「付き合う?あぁ、前の水族館のように何処かへ行くってこと?」
「ううん。それよりももっと」
「分かった。じゃあ、載らなかったら俺へアイス奢っててくれ」
うん、ありがとう。そう陽気に鼻歌を歌いながら自分の席へと戻る彼女を見送った。
「(大丈夫なのか?彼奴)」
そうして俺が彼女の真意を汲み取ったのは後の話である。
******************
「始め」
その合図で動くシャーペンの音を聴きながら名前を記入する。
「(さて、何問落とせば平均を取れるか。だが)」
最後の数学だが毎年難しくなっているのは事実。つまり、より平均も下がるということは容易に分かるのだが。
「俺には
他のテストで好成績を取ればそれを計算に入れた上で何問落とすかを考える必要がある。各問の点数配分は昔から変わらない為、点数調整をすれば大丈夫なのだが
「(さて、困ったな。落とし過ぎると余裕で赤点圏内。そうなったら印象も悪くなるからな)」
そう、さっきも述べたがより難しくなっている。つまり、どういうことなのか?簡単に言えば他の人がどれくらい取るのかをシュミレーションする必要があるということなのだ。自分が落としても他が取ってたら大きく平均から外れるし逆に他が取れてないのに点数を落とさなかった所為で好成績に繋がるかもしれない。そんなことをいつも考えてるから馬鹿だと言われるのだが。今回の場合、更に落とす必要がある。つまり、赤点の危機が迫るということだ。俺らの高校では平均の半分を取ったら赤点だ。そして、目安で大体8、9点は落としたいのだが、唯でさえ平均が低い数学なのだから厳しくなる訳だ。
「(まぁ、しょうがないよな)」
自分で首を絞めてるのだから仕方のないことだ。そう監督にバレないように静かに息を吐いた。
******************
雄斗は天才で勉強も出来た。だが、勉強は好きだったのか?と聞かたら、そうではなかった。でも彼は天才だから努力なしで好成績を叩き出すこともあった。だけど、違うのは彼がそれを
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「終わったな」
「そうだな。2日間、お疲れ様だな」
「違う、そうじゃないんだよ」
「え?考査が終わったって意味じゃないの?もしかして、出来なかったのか?」
「9割行った自信がない」
「多分、平均5割前後だし大丈夫だろって訳には行かないよな?」
「そうだろうな。渚に聞いたけど案外出来たって喜んでたし」
「そうか。これ以上はどうしようも出来ないし後は神頼みだな」
「あ、そういえばそろそろホワイトデーだよな。女子が騒いでたけど」
「あぁ、そうだな。って考査から現実逃避してどうするんだ?もっと現実を見て」
「まぁまぁ。今は忘れたいんだよ、考査のことは。それでお前は誰かにあげるのか?」
「どうせ、お前が天乃さんにあげるだろうし俺は有栖にだけあげるよ(後は怜奈だな)」
「やっぱりなぁ。彼女が居ない俺らにとっては辛い世の中だよなぁ」
「そうだな。でも、お前は勝てば告白するんだろ?もしかしたら付き合えるかもよ」
「それなんだけどさ。正直、勝算がない」
「そういえば、前にも言ってたような気がするな。幼馴染だしお前が1番仲良しだから大丈夫だって」
「でも、最近は全く喋ってないんだぞ?告白する前に言うのもアレだけど失敗する気がする」
「どうして、其処までネガティブに考えるんだ?もっと気力持てよ。その為に頑張ったんだろ?」
「そうだな。あ、打ち上げしないか?放課後に」
「これまた唐突だな。まぁ、別に良いけど」
そういえば終わったらするって言ってたな。
「柊木さんも呼んでくれよ、助けて貰ったし」
「3人でするの?」
「いや。渚も呼ぶ予定」
「天乃さんも呼ぶのか。もし、それなら久々に幼馴染4人が集まるってことだな」
「そうなるけど。それは雄斗の頑張り次第だな。俺はもう既に渚を誘ってるから」
「随分と用意が良いな。じゃあ有栖斗話して来るよ」
そういうと自分の席で読書をしていた有栖へ声を掛けた。
「あ、柊木さん。あのさ」
「学年末考査、お疲れ様でした。汐屋さん」
「あ、あぁ。お疲れさん」
「それで、私に何か用事ですか?」
「無事に終わったからさ。今日の放課後に打ち上げするんだが来ないか?航と天乃さんも来るんだけど」
「生徒会の仕事が終われば大丈夫ですよ。その代わりに手伝ってくれませんか?」
唯では約束を飲まない有栖に呆れつつ航へ報告すると航が笑顔のスタンプを送ってきた。
「因みに他の人は誘わなかったのか?」
「無事に断られたけど?他はカラオケ行ったりするんだってさ」
「そうか。まぁ、久々に幼馴染だけで打ち上げするのも良いことじゃないか」
それはそうなんだけど。と愚痴るそう慰めることしか出来なかった。
「何だ?このスタンプの連打の数は」
自分の席へと戻ると数十件の通知が来ていた。しかも、全て有栖からである。思わず首を傾げた。
「何かあったのか?スタンプから分かるのはその、凄くテンションが高いということくらいだが」
まぁ、何かあったのだろう。それは後で聞けば良いや。そうう思っていた。今は関係なさそうだし。
そう割り切ったがそれは別の意味で自分に関係をもたらすこととなった。それは放課後のこと。
俺は休み時間に有栖から頼まれていたように手伝っていた。
「次期、副会長候補ですしちゃんと手伝ってくださいね」
「そういえばそうだったな。すっか忘れてた」
「さっさと動かないと約束の時間に遅れちゃいますよ?まぁ、遅れても関係のないことですけどね」
「は?それはどういう意味なんだ?約束があるだろ」
「そうですね。確かに約束はしましたが
「まさか。じゃあ、俺も此処に居るから2人は」
ふふっ。と笑みを浮かべる有栖に俺は頭を抱えるのだった。
******************
「(な、何で。え、何で?彼奴らは何で来ないんだ?)」
「あ、航くん。待ったかな?」
「待ってはないけど。でも、有栖と雄斗が来ないんだ」
「有栖ちゃんから用事があって来れなくなったってさっき聞いたよ?」
あの馬鹿野郎!俺は不在の雄斗へ突っ込んだ。完全に嵌められたのだ。雄斗が柊木さんにこの作戦を持ち掛け、それを柊木さんが渚に伝えたら俺と渚は確定で2人になる。
「(な、何てことをしてくれたんだ!)」
そう憤慨しているとふふっ。と渚が笑みを浮かべた。
「そんなに怒らないであげて」
「それは、どういうこと?」
「私が頼んだの。2人にさせて欲しいって。意地悪しちゃう形になってごめんね」
「そ、そうだったのか」
「うん。2人きりで喋るなんて本当に久々だね。最近、航くんが話し掛けて来なくて寂しかったんだよ?」
「そ、それは。ごめん」
「航くんに嫌われたのかなって思ったんだからね?私。そう考えると凄く不安だったんだから!」
「そんなこと、そんなことないよ!今でも、その大事な幼馴染だから」
「うん、知ってる。ありがとうね、航くん」
「渚が望むなら時間は何時でも作れるから気にしないでくれ」
「航くんは相変わらず優しいんだね」
席へと着くと俺は溜息を吐いた。
「(雄斗の奴、言ってくれたらもっと対応出来たのに)」
何も悪くない雄斗には唯の八つ当たりだって分かってても突然の形にどうしても混乱してしまう。
「何を飲むの?」
「じゃあ、フラペチーノ飲もうっと」
「じゃあ俺はブラックにしようかな。じゃあ」
「え、航くんブラック飲めるの?そっかぁ。航くんも立派な大人なんだね。」
「渚も慣れれば飲めるようになるさ」
「昔はあんなことしてたのに」
「目の前で回想に入らないでくれ。困るから」
「ふふっ。相変わらず可愛いね」
「女子に可愛いって言われるなんてなぁ」
「それは嫌なんだ?やっぱり」
「多分、俺だけじゃなくて男子は可愛いよりカッコイイって言われる方が好きだと思う」
「航くんはカッコイイよ?私の中では十分過ぎるくらいには」
「上目遣いで言われてもな。どうせ、冗談なんだろ?」
「本気で思ってるもん!うん、美味しっ」
「そうやって堪能してる時点で本気じゃないんだよな」
ちまちまと飲んでると自分に向けている目線に気が付いた。
「ちょっと飲んでみたいな」
「え、でも相当苦いけど大丈夫なのか?」
「航くんが飲めるなら私だって飲めるよ」
「な、なら。飲んでも良いけどさ」
「うん、ありがとう。ほら、代わりに飲んで良いよ」
渚にフラペチーノを渡されストローの口が自分の方に向けてあることに気が付いた。
「別のストロー使うから大丈夫だよ」
「気にしないで。やるのは航くんだけで他の人にはしないから。それに他の人も見てないし、ね?」
「じゃ、じゃあ。其処まで言うのなら貰うけど」
と同じようにして手渡した。
「ふふっ。端から見てると恋人みたいだね。私たち」
その言葉に思わずドキッとした。俺が渚のことを好きだということが見透かされてる感じがしたのだ。
「そ、そうだな。うん、美味しい。ありがと」
「じゃあ私も。うーん。やっぱり、ちょっと苦いかも。でも、航くんはこれを飲んでるんだよね。尊敬するな」
フラペチーノを再び飲んで和らげてるようだが効果はあるのか?飲み終わり溜息を吐いた渚に声を掛けた。
「大丈夫なのか、渚。余り無理はしちゃ駄目だからな」
「心配しなくても大丈夫だよ。フラペチーノを飲んで甘くさせたから」
「そ、そうか。なら良かった」
うん、心配してくれてありがとう。そう微笑む彼女は実に可愛かった。
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