9話 各々の挑戦と再会
「緊張してるのか?航」
「だって、考査の結果で俺の人生が変わるって初めてのことだしさ。緊張するだろ?」
「普段してきたことを意識してれば大丈夫だ。落ち着いて解くんだ」
「そうだな。冷静に、だな」
今日は学年末考査初日であり航の運命の掛かった日でもある。航との去り際に有栖に声を掛けられた。
「覚えてるよね。私との賭けの内容」
「覚えてるよ。あの俺にとって理不尽なかけだろ?」
「理不尽?私からすれば理不尽だろうけど君からすれば勝ったようなものでしょ?」
「平均を取るのだって凄く苦労してるんだぞ?皆がどれくらい取るか予想する必要があるし」
「意味不明なんだけど。そんなことに気を使うならもっと真面目にすれば良いのに」
「兎に角、あの賭けは認めてないから。不正賭博だ」
「じゃあ無条件で負ける?」
「なんか嫌だな。無条件で負けるっての」
「なら、賭けに乗るってことで良いよね?」
形だけな。そう釘を刺して勉強道具を取る。勿論、渚の賭けもだが平均はちゃんと取るつもりだ。その時、
「雄斗。
そう耳元で怜奈に囁かれた。それは、後に迷っていた俺の中の結論を固める補助となるのだった。
「雄斗様。次の考査も頑張って下さいね」
ふと昔の事を思い出した。彼奴は元気にやっているのだろうか。名前も曖昧なある人を思って俺は呟く。
「最初は現代国語か。頑張ろうな!雄斗」
「当たり前だ。お前こそちゃんと点数を稼いで行くんだぞ」
そう大きな壁と戦う親友の背中を押したのだった。
******************
「初日、終わったぁ!」
「打ち上げする?近くの店に寄って打ち上げしちゃう?」
「明日まであるって事実を認識してる?それとも現実逃避してる?」
「俺はもう今日の結果だけで十分過ぎるのだがこんなものじゃ渚には勝てないな」
「そんな航も後ろめたく考えないで最後まで頑張ろう。諦めなかったら勝てるって」
「はいはい。で、これからどうするんだ?」
「そうだなぁ。食堂でするか?」
「人もそこそこ居る思うけどそうしようぜ」
考査の日は午前で終わる学校も多いが1日中なのだ。まぁ、その分1日短くなって休みなのだが。
「まぁ、大体の人が勉強する為に残ってるけどさ」
「急にどうしたんだ?」
「いや、何でもないよ。思い出してただけだ」
「そんなに良くなかったのか?」
「いや、
そう良かったのだ。ちゃんと平均を取ろうと思って落とし損ねた。単純な配分ミスをしたのだ。
「(数学も予想以上に難しいって意見もあったし、もっと落とすべきだったな)」
今回の考査は中々の難易度だった。その為に普段通りの落としをしたから大分不味かったりする。
「まぁ、でも数学難しかったよなぁ。物理も同じだけど。三角比の応用は分からなかったなぁ」
「理系は確かに難しかったかもな(三角比の問題は容易に捨てれたが数学は少々取り過ぎた)」
「理系はそこそこ出来る雄斗もそう思うんだ?」
「お前は俺を何だと思ってるんだ?平均だけしか取れない凡人だぞ、俺は」
何を評価対象としているのか分からないが平均
「あ、お疲れ様でした。初日はどうでしたか?」
食堂へ向かうと普通に幼馴染が居た。それも食事目当てではなく勉強目当てで。
「何で居るんだよ?」
「何でも何も此処の学生ですので居て当たり前だと思うのですが」
利用に関して特に制限はありませんし?そう笑顔で答えてくる。
「正当性だけで勝てると思うなよ。俺が言いたいことは分かってるだろ」
「何のことか分からないですね」
「分かるだろ。何で分からない顔をするんだ」
目の奥で笑ってやがる。さては、俺が浮かない顔をしてたのを見てたのか?
「楽しみですね。汐屋くんの結果」
「そうか?でも、俺は案外出来なかったからなぁ。今日に関しては」
「え?でも、お前さっきは良かったって言ってなかったか?」
純粋な疑問かもしれないけど空気を読めよ。そう航に対して心の中の痛切な叫び上げた。
「あら、そうなんですね。それはそれは、良かったですね」
「柊木さんと喋ってても拉致が明かないし。軽食取ったらさっさと進めようぜ」
「柊木さんは軽食取りましたか?」
「いえ。今、来たのでまだ食べてません。あの、もし良ければ私も参加して良いですか?」
「すまんな。さっき、2人で食べようとし」
「え、歓迎するよ!寧ろ、逆に良いのか?」
「(口調変わってるなって思ったが考えてみれば幼馴染だったな。有栖に対しても敬語使ってたから忘れてたが勉強会で喋ってから緩くなってるし。
「あ、ありがとうございます。では、そのお礼の代わりになんですが明日の分も一緒に勉強しませんか?」
「あ、柊木さん。航は俺が教えるから大丈夫だよ。ありがとな」
「ありがとう、柊木さん。正直、雄斗の教え方より何倍も分かりやすいんだよ。マジで」
「あれ、どうしよう。応援するはずだったんだけど。急に殺意沸いて来たな?」
「冗談だって」
そう笑う
******************
「お疲れ様でした。では」
「あぁ。お前も疲れただろ。さっさと休めよ。じゃあ」
「本当のところはどうなの?」
「え?」
「だから、本当は出来たの?出来なかったの?」
「出来たよ。ってよりはミスの数を増やしてなかったって感じだな」
「雄斗に限ってそんなことあったりする?平均を取ることに命を賭けてるのに」
「いや。普段より難しかったからさ。落とす予定の数を間違えたんだ」
「そんなことあるんだね。普段の雄斗ならそんなことしないのに」
「でも、毎回って訳じゃないだろ?じゃあな」
そうして有耶無耶にすると走って帰った。多分、有栖なら言わなくても勘付くはずだ。
「(明日、挽回しよう)」
また逃げるのか?心の自分がそう問い掛けてくる。でも、今の気分的にはそうするしかなかったのだ。疲労もあるし早く寝て忘れてしまいたかった。だが、
「だってのに何でまた居るんだ?」
急ぎ足で帰る中、ふと公園を見ると。居た。夜中に会った少女が。其方の方へ寄ると彼女は怪訝そうな顔をした。
「何で来たんですか?私にそれくらい通報されたいんですか?」
「だから違うって(何でこうなるんだ?関わらなければそれで終わりだけど、でも)」
そうしたかったし面倒事は元々、嫌うタイプなのだ。でも、
「早く帰れよ。暗くなる前にな」
「暗くなる前に?既に真っ暗なのですが」
「いや、そうなんだけどさ。建前ってあるだろ。分かるか?」
「建前。そうやって私に近付こうと言う訳ですか。その無様な考えは多少評価しますが無意味ですよ」
「何でお前に評価されないといけないんだよ」
「関わってるだけありがたいと思ったらどうですか?」
「じゃあ、帰るわ。疲れたし」
「そうですね。早く帰るべきだと思いますよ。では、さようなら」
ストレスを感じさせつつ公園を出ようとし立ち止まった。このままやられるのも癪だったからだ。
「お前、食べてるの?」
「は?何で戻って来たんですか?」
極寒の声で出迎えてくれた。歓迎は、されてない。まぁ、当然だよな。
「何でそんなことを貴方に言わないといけないんてすか?」
「前も夜中に居たし今もこの時間に居るとか普通に考えて異常だろ」
「でも、私に取っては普通のことですので。貴方の普通を押し付けないで下さい」
「飯は食べろよ。普通か異常かはどうでも良いから」
ほら。と財布に入っていた千円札を渡した。
「何のつもりですか?買収の手には乗りませんから」
「何のつもりってあげただけなんだけど。後、そう言いながら握り締めるのはちょっとダサくないか」
まぁ。もうこれで彼女と出会うこともないだろう。この時はそう思っていた。
******************
「居たんだ」
「遅かったね。あ、考査お疲れ様」
「お前も考査だっただろ?何で上から目線なんだ」
「だって、私の方が順位は上だしね。勿論、雄斗の素質を知った上でだけどね。雄斗も結果を出してよね」
「遂にお兄呼びを止めてくれたか。怜奈」
「呼んでも良いんだよ?お兄。というか私はこっちの方がしっくり来る」
「やっぱお兄ちゃんか名前呼びで呼んでくれ」
「はいはい。それで本題に入るけど遅かったね。何かあったの?」
「寄り道してたんだ。以上で話は終わりだ」
「そう。あ、因みに今日の御飯の担当は私です」
「期待しない方が良いんだな。それは」
普段の御飯は俺が作るから怜奈の料理なんて見たことないというか記憶にない。果たして怜奈は料理出来るのか?なんて考えてたが_
「出来るんじゃん。そして、上手くね?」
「でしょでしょ!ふふーん。もっと褒めてよね」
まぁ。と言葉を濁した。事実、凄く上手だった。料理は唐揚げだったのだが何より
「俺より上手なんだけど。ちょっと傷付いた。」
「まぁ、レシピ見たし」
「あ、レシピね。え、でもレシピ通り出来たの?」
「うん。見たら簡単だったよ」
「レシピ見ても出来ない人だって世の中には居るんだよ?」
「え?そんなことないでしょ」
止めてやれ。その純粋な目を向けると誰かが死ぬだろうが。
「まぁ、食べたら明日に向けての勉強でもするか」
「英語教えてね。お兄ちゃん」
「お前も苦手なのか。俺も苦手だから頼るなよ」
「これは、頼りないお兄ちゃんを持ってしまった。何てことだ!」
はぁ、今日の切れ味はキツイな。そう溜息を吐くのだった。
******************
「お疲れ様でーす」
「風呂から戻っただけでヤケに元気だな」
「そりゃあ、ずっと勉強漬けだもん。綺麗にもなるし楽になれるよ」
「まぁ、それはそうなんだろうけど。じゃあ、頑張ってな」
「その台詞はお兄ちゃんにも当てはまることなんだけど?」
でも、お前の方が難しいよ。上位を狙うんだろ?と聞くと頷いた。
「今回は上位成績表を目指してるんだよね」
「うん。まぁ、勝算自体はあるよ」
そうなのか。そして、ふと思った。
「(アレ、表に乗るってことは航のライバルになるんじゃないのか?)」
「どうしたの?急に黙り込んで」
「何でもないよ。俺から言えるのは頑張ってくれ。それだけだ。風呂に入ってくる」
「じゃあ、後でアイス買ってきてあげる」
心優しい妹に感謝しながら俺は髪を洗う。本当に今日は疲れた。風呂でそう呟き身体を洗うとゆっくりと湯に沈めた。有栖との賭け、航の攻略、怜奈の頑張り。考査の裏で渦巻く感情を知るのだった。
******************
「どうしようかな。アイス」
高級な奴は考査が終わってないしもったない感じがした。
「あ、これにしよう。お兄ちゃん、確か好きだったはず」
同じアイスを2つ取ると前へと持って行き
「お願いします」「買います」
え?と隣を向くと女子も此方を見ていた。
「あ、先にどうぞ。別に急いでる訳じゃないので」
「ど、どうも」
そういうと彼女はカゴからおにぎりやらパンやらを出している。
「(服装もちょっと乱れてるし何かあったのかな)」
そう思っても他人の私には何も出来ないから唯、黙っているだけだった。
「ありがとうございました」
袋を抱えて出て行く彼女を見送るだけだった。まぁ、もう出会うこともないだろうし元気にして欲しいな。
******************
「ってことがあったんだよ」
「それはまた珍しいな。で、その話を俺にして何をしろと?」
「その子の後を追ってくれる?」
「馬鹿なの?普通に俺が通報されて終わりなんだけど。俺に犯罪者になれと」
「お兄ちゃんの優しさなら大丈夫だよ。それにバレないように異能力でも使って」
「うん。勉強のし過ぎだな。さっさと糖分取るんだ」
「食べさせて」
自分で食べれるだろ。と呆れたが買ってきたお礼にと食べさせてやった。因みにアイスは美味しかったがそのアイスを紙に零したのは黙っておこう。
******************
「雄斗様」
「どうしたの?急にアイスなんて買ったりして」
「雄斗様の好きなものだとお義父様から伺ったので」
「良く知ってたね。お義父さんも」
「合ってましたか。なら、良かったです」
「え、でもアイス1個だけしかないんだけど?」
「はい。雄斗様の分しかありません」
「え、俺だけなんて申し訳ないし若菜も食べなよ」
「ゆ、雄斗様が食べるだけで十分ですので」
「でも、俺は若菜も食べてくれたらもっと嬉しいかな」
「で、ですがスプーンは1つしかないので」
「じゃあ、貸してよ。そのスプーン」
「は、はい。ど、どうぞ。それでどうなさるのですか?」
「ほら、若菜。口を開けて」
「え?そ、それは」
「ほら。固まってると溶けちゃうよ」
「そ、そんなことじ、従者として失格です!」
「俺の好意でしてるから大丈夫だって」
で、ですが。と悩みに悩んで口にした。
「お、美味しいです。ありがとうございました」
「そう。良かった、口にあって」
「で、では。代えをお持ちしま」
「え、何で?このスプーンで食べるけど」
「ゆ、雄斗様!そ、それは」
そして俺は口にした。
「大丈夫だって、俺は気にしないから」
「で、ですが。こ、こんなことを見られたら」
「大丈夫だって言ってるだろ?」
「本当ですか?」
あぁ。と頷き若菜の頭を撫でた。
ー雄斗が7歳になる前の話である。
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