7話 友の言葉に加担する

結局、あの後スマホを取るのも引けてしまって俺は部屋へ籠ったままだった。薄情者になるのは嫌だった。まぁ、欲に負けるなんて考える時点で殆ど変わらないだろうが。過去に囚われて無能を演じ幼馴染の素直な助けも承諾出来ず保留で留め置く。何の為の人生なのだろうか?大切なものを失って見て見ぬ振りして後悔をまた重ねる。そんな人生を歩んで何をしたいのか?

「チッ。俺は本当に駄目な奴だ。やっぱり有栖の隣になんて立てない。立てる訳がないんだよ」

彼奴ならなんて結局は他人頼みだ。そんな自分に吐き気を催した。力量より他人の意見を優先させる。

「駄目だな。考えば考えるほど嫌になってくる」

部屋を出ると日を跨ぎつつあった。

「怜奈も風呂だし。ちょっと外を歩くか」

そう決めると外へ出た。3月半ば前で春直前なものの夜中なのもあって肌寒く感じた。

「やっぱり綺麗だな。澱んでる俺と違って凄く綺麗だ」

晴れた夜空へ瞬く星を眺めそう呟く。元々、星は好きだし天体に興味があったのもあって見惚れていた。

「暗めな思考を放棄する為に外へ出たけど結局は昔に戻り掛けたな。ん?」

近所の公園の周りを通って帰ろうとして立ち止まった。

「真夜中なのに何をしてるんだ?あの子」

公園の象徴とも言える大きな木の下でポツンと座ってる少女を見掛けた。幽霊かと疑い掛けたが近付くとやはり人間の女の子だった。

「何してるんだ。こんな時間に。それに、1人だと危険だろ?」

「そうやって私に近付く不審者ですね。通報します」

「まぁ、こんな真夜中に声を掛ける奴って違うだろ」

「何ですか?自白したのかと思って通報し掛けました」

「顔が暗くて良く見えないけど随分と辛辣な奴だな」う

ハッキリとは分からないけどこれだけは言える。クール系な美少女だ。

「通報するのは待ってくれ。と言うよりそもそも公園に佇む君が保護対象じゃないのか?」

「私は高校生なので気にしないで下さい。それとも自分自身に対して述べてますか?」

「男より女の方が普通に危険だろ」

「知ってますか?それって性差別ですよ。それに、私は護身術を身に付けているので御心配なく」

何で普通の女子高校生が護身術なんて覚えてるんだ。まぁ、この時間帯に1人で居る時点で普通じゃないか。

「邪魔なのですが。とっとと消えてくれませんか?」

冷徹な目に隙を与えない姿勢。居ても確実に通報されるだけ。そう結論付けると大人しく身を引いた。

「というか心配しただけで其処まで言われると普通に傷付くな」

まぁ、自分への罰としての役目なのだ。そう自嘲し公園を後にした。

 ******************

約束した通り朝は有栖と登校した。登校中、話題にこそ出さなかったが恐らく彼女も気になってることだろうが俺自身、結論は出せてなかったから切り出すことはなかった。

「雄斗ぉ。本当に来てくれなかったなぁ?」

「尚人。だから言っただろ?俺にそんな余裕はないんだよ」

呪ってやるぅ!と言っていたので恐らく失敗したのだろう。御愁傷様だ。

「目先の利益に釣られない奴って利口だよなぁ」

「詐欺する人みたいな発言になってるぞ。まぁ、今回はその通りだったんだけどな」

「うん、そうやって結果を知らないで言うのは止めない?事実だけど少し傷付いた」

「雄斗と俺は試験勉強中なんだよ。なっ?雄斗」

「うん。普通にそのキメ顔は引く。ごめんな」

「助け舟出してその対応は酷くないか?あ、疑ってるかもだけど本気で勉強してるからな?」

「どうせ、親の頼みなんでしょ?それか金銭問題?」

「デリカシーの欠片もない発言だな」

そう呆れると隣の航が何で分かるんだよ!と狼狽えていた。そうして尚人が去るのを見届けると

「今日の放課後、付き合ってくれ?勉強なら付き合うだろ」

と航が声を掛けてきた。

「何処で勉強するんだよ?俺の家は無理だからな」

「え、スタバ。対価としてそうだな。最安値の飲み物を奢ってあげるからさ」

「珈琲だけ奢ってくれたらそれ以外は自分で払うよ。最安値だと何を頼まれるか分からんし」

「おっ!乗ってくれるのか?」

大きな声に何で俺の奴には乗らないに航の奴には乗るんだよ。と遠目で尚人が見ていたが

「試験直前で合コンへ行く馬鹿とは違うんだよ、俺は。ちゃんと平均を取る為に勉強するのさ」

そうアイコンタクトを送っておいた。そして、それを感じ取った親友からは呆れた目をされ後ろの幼馴染からは馬鹿の文字が突き刺さったのだった。

 ******************

放課後。俺は有栖と教室に残っていた。航は図書室に手伝いに行っているので待っていたのだ。

「それで本当に勉強しに行くの?」

「まぁ、予定もないしな。合コンなら行かないけど勉強なら大丈夫だろ?」

「それは大丈夫だけど。でも、その。ううん、何でもない。頑張ってね」

「お、おう」

そんな有栖は何処か元気がなかった。それは、気の所為なのだろうか?

「戻ったぞ、雄斗!さっさと行かないと時間も無くなるしな。柊木さんも雄斗が迷惑掛けたな!」

「お前は何処の誰目線なんだよ。ってな訳でじゃあな

「えぇ。また明日」

2人が去って行くのを見送ると私はうつ伏せになった。

「勉強会。誘ってくれても、良かったのに」

 ******************

「次の問題の答え、間違ってる」

「え、マジ?何処だよ」

「3番。計算式が少しズレてるだろ。代入が違う」

「あ、本当だ。ありがとう。うん、美味しい」

「ちゃんと集中しろよな。まぁ、美味しいのは認めるけどよ」

「珈琲片手に言われるとなんか腹立つな」

「理不尽だろ。で。何でそんな勉強しだしたんだ?」

「え、だから金銭目的だって話しただろ」

「違うだろ。金銭目的なら前々から減らされてるだろ。それに、そんな条件でも勉強してなかったし」

「そ、そうなんだけどさ。べ、別に良くね?俺らってその学生だし」

「だから何で勉強してるんだ?急に。金銭目的云々の前に全然やってなかっただろ?何があるんだ?」

「何もないよ。唯、受験生になるから頑張ろうと」

「お前、嘘が下手だな。どうせ、何位までに入ったら告白するとか付き合うとかじゃないのか?」

「何で分かるんだ?超能力者なのか。そうだよ、告白するんだよ」

「それはまたピュアだな。お前の場合ってモテるし行けるだろ」

「確かに人気かもしれないけど大体の場合は異性で見られてないんだよ」

「そ、そうなのか。大変だな。で、誰に告白するんだ?」

「渚さん」

「渚さんってあの幼馴染の渚さん?」

「そうだよ、渚だ。人気もあって優しくて完全無欠な渚だ」

幼馴染に対しての印象が良過ぎないかとは思いつつも半ば事実なのである。


天乃渚。航との遊びであり俺と有栖とも幼馴染である。航とは家も近く昔から遊んでいたらしい。有栖同様に凄くモテて成績も学年トップを維持しながら運動能力も高く全国大会に出る程の成績を残している。クラスの中心的存在で性格も良く告白された回数は有栖と良い勝負をするらしい。


「お、おう。でも航は天乃さんと幼馴染だし仲も良いだろ?」

「それは、幼馴染だからだろ?それでずっと片想いしてたんだ」

「成程なぁ。で、何位に入ったら告白するんだ?」

「渚に勝ったら」

「渚に勝つって。お前、マジで言ってるのか?天乃さんは普段の考査で5、6位取るんだぞ?」

「そうだよ。でも、それくらい俺が本気だってことを示したいんだ」

成程な。そう頷くのは良いものの航は普段80位前後の成績だから其処から5、6位を取るなんて苦行の中の苦行だろう。それでも、航は天乃さんに勝って告白する。それは親友として応援するしかないだろう。

「本気なんだな。何時頃から勉強しだしたんだ?」

「3カ月前。前回の考査が終わってすぐだ」

「さっさと言っててくれれば俺だって協力したのに」

「だってよ、俺の恋愛にお前を振り回す訳には行かないって思ってたんだ」

「はぁ。こっちも色々と手伝えたのに。其処まで本気なら俺も最後まで詰めてやる」

「マジ?ありがとなう!」

「じゃあ、まずはその問題を解き直そうな。そう諭すのだった。

 ******************

航と別れて出る頃には7時を過ぎていた。

「それにしても航が本気になるなんてなぁ」

ずっと遊んでた彼奴も恋愛になれば本気になるものなのだ。

「恋愛。俺には無理な言葉だな」

誰からも愛されたことはないし今後も愛されることはないだろう。

「両親だけ、だったな。そういえば」

そう溜息を吐き家へと戻り

「お疲れ様。御飯、出来てるから食べてね」

「何で有栖が居るんだよ。ってか鍵は。そっか、両親が渡してたな。そういえば」

幼馴染なんだし貸すわよ。そう快く渡してた気がする。因みに怜奈は居なかった。

「(怜奈は彼奴の家へ帰ったのか?何だよ。この奇跡)」

「随分と捗ったようだけど。それにしても早瀬くんが勉強を頑張るなんてね」

「告白する為なんだって」

「告白。誰にするの?まぁ、聞かなくても天乃さんだって分かるけど」

「まぁ、言わなくても分かるよな。あの感じを見たら」

「まぁね。実際、渚ちゃんが他の男子と仲良さそうにしてたら羨ましがってたし」

「まぁ、でも航らしいよな。決めたことはちゃんとやるって感じで」

「雄斗は恋愛に興味はないの?」

「恋愛はしない予定っていうか出来ないと思ってるから。こんな平凡を望む奴は居ないよ」

「どうして?昔のことをそうやって引き摺るの?」

「引き摺ってる訳じゃないよ?唯、普通に無理かなぁって。有栖はどうなんだ?」

「ど、どうって?」

「だから、恋愛したいのか?」

「し、したいけど。でも、私はずっと決めてる人が居るから告白は全部、断ってるんだ」

「そうなんだ。結ばれることを願ってるよ」

「(他人事みたいに_)」

有栖の想ってる人。誰なんだろう。少なくとも俺じゃないだろうし。

「(有栖がもし付き合うことになったら俺はどう接したら良いんだろう。面倒だな)」

毎日居ると凄くメンタルを削られそうだな。そう思うと溜息を吐いた。

 ******************

「さってと俺も勉強しますかね。ってか泊まるんだよな?」

「うん。明日の教科書も積んで来たし」

「あ、そうなんだ」

「ねぇ。一緒に勉強しない?英語苦手でしょ。教えてあげるから」

「マジ?なら、そうだな。歴史を教えるよ」

そして隣同士で座ると勉強を再開した。その日の勉強は凄く捗ったことは言うまでもない。

勉強を終え再び有栖に声を掛けられたのは寝る直前だった。

「ねぇ、雄斗。私と賭けをしない?」

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