6話 複雑な滑稽劇

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「また、考査で満点だったなんてね。凄過ぎるよ」

「ちゃんと勉強してたのもあったからな。どうせすぐに越されるさ」

「また、そうやって後ろめたく考えて。ちゃんと自分を褒めないと駄目だよ?」

「自分を褒める、ね。俺には到底無理な話だな。自分のこと嫌ってるから」

「自分を嫌ってるの?例えば何処を?」

自分へ嫌悪感を抱く要素が生きてることにある、だなんて言えたら楽だった。でも。

「色々あるけども。1番嫌ってる部分を挙げるなら」

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「また寝てましたね。ちゃんと睡眠取ってるのですか?それとも、私に面倒見て欲しいのですか?」

「ちゃんと取ってるつもりなんだけどなぁ。後、しれっとお前の要求を述べるんじゃない」

だって。と口籠る有栖へジト目をする。今は昼休みなのだが考査前なのもあり航や有栖と勉強することとなった。勉強をするはずだったのだが。

「ねぇ、2人って幼馴染なんでしょ。付き合ってるの?」

「まぁ、柊木さんとは随分と長くなる付き合いだけど交際はしてないよ。唯の、幼馴染だよ」

と勉強と謳って起きながら結局は恋愛話へ花を咲かせる始末である。因みに他にも勉強してところはある。のだが此処まで恋愛話に謳歌してるのは此処だけである。航も共に勉強してるのにである。

「(まぁ、航に関しては普段、幼馴染とも喋ることも出来ないし仕方ない部分もあるけど)」

因みに先程質問して来たのは有栖の友達である「上野奈々」だ。俺と喋ることはあんまりないけど。

「じゃ、じゃあ。汐屋くんのタイプってどんな人なの?」

「その情報は幼馴染として凄く気になります」

突然投げられた話題に戸惑ってるとまさかの幼馴染の援護射撃。もはや、立派な裏切りである。

「特にないけど。挙げるなら前に小説で見た答えだけど。それで良いのなら『誠実な人』で」

「誠実さって人によって変わるから案外、評価が難しいけど考え方は大人だよね」

「引用だけど、顔じゃなくて価値観を尊重できる相手なら誰でもって感じだな」

「随分と大人な考えなんですね。汐屋くんって」

「悪かったな。正直な話、彼女なんて出来るものでもないし関係ないけどな」

「でも、私目線は汐屋くんって結構な優良物件だと思うけどなぁ」

「それって大体の場合、勘違いして告白してってなる典型的な感じだね」

「別に貶してる訳じゃないんだよ?唯、平均を目指さないようにしてみたらどうなの?」

「知ってるの?俺が平均を目指してるってこと」

「知ってるも何も雄斗くんの点数と考査の点数が殆ど同じだし、後は有栖から聞いたから」

「別に平均取っても駄目な訳じゃないから良いと思うけど。品行方正で生きてたら」

「それはそうだけど。私としても止めるべきだと思う」

どうやら、有栖も反対意見らしい。まぁ、止めるつもりなんて更々ないけどな。

「取り敢えず話を戻さないか?2次関数の応用が分からないんだ。教えてくれ」

「私も。4番の問題でしょ?私も困ってたんだ。教えてよ」

「じゃあ。奈々ちゃんにだけ教えてあげますよ。汐屋くんは反抗した罰だと思って頑張ってください」

「(言ってるのか?平均点を取るなら捨て問だけども)

「あ、そうか!この問題。前に授業でやった問題と似てるじゃん!」

「(記憶にない。つまり、俺の寝てる間で解いたのか。予習も前の範囲だし。適当に答えを書くか)」

解けないことはないがそうしたら疑われるので敢えて解く振りをして答えをずらした。勿論、式も少しズラして。

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「(雄斗の知識量ならちゃんと解けるのに_やっぱり昔のことを引き摺ってるんだ)」

そんな様子を見て私、柊木有栖は溜息を吐いた。そのことを指摘する資格なんて私にはないし咎める権利もない。でも、彼には過去を振り返ることなく今を過ごして欲しかった。自分の後悔が乗し掛かってるかもしれないけど。その気持ちはずっと前から同じだ。だから

「(私は幼馴染としてな彼を堕として。そして、素直になって自分を出して欲しい)」

過去の後悔から何も出来ないを演じを演じる彼は彼じゃないから。そして彼が戻った暁には。

「(その為にも頑張らなくちゃ!)」

そう意気込んだものの、昼休みの進捗だけを語るなら全然だ。間も無く昼休みも終わるな。そう思ったその時、

「終わったよ」

そう声を上げた方を見ると雄斗のやり切った顔が見えた。

「え、もう終わったの?凄くない、雄斗くん。私なんてまだ両開き終わったところだよ」

「違う。さっき、柊木お前が解法を教えてくれなかった問題だよ。ずっと、考えてたんだ」

「え、解けたの?おめでとう!」

「まぁ、合ってるかどうかは分からんけどな。答え貸してくれよ」

「駄目です。後で、合ってるかどうか確かめますので。他の問題を解いてて下さい」

「本当、2人って仲良しだよね。結局、戻るけど異性としては見てないの?」

「異性として。有栖がどう思ってるのかは知らないけど俺は、どうなんだろうな」

「え!其処が気になるんだけど」

答えないでおくよ。とはぐらかした。だって、どっちに転んでも嫌な目に遭いそうだし。

「でも幼馴染からそれ以上もそれ以下もない。有栖もそう思ってるしな?」

ふと有栖の方を見ると凄く冷徹な視線を向けていた。あれ、何かした覚えはないんだけどな?

「残念だなぁ。やっと有栖にも春が来るのではって信じてたのに」

「来てるだろ。告白された数で物語ってるじゃんか」

「そうなんだけどね?全部、断ってたら意味ないじゃん。何処まで理想高くあるの?有栖ちゃん」

「わ、私は。だ、誰とも付き合う気なんてない、ですし」

「だってよ?上野さん」

やっぱり、この幼馴染は恋愛と無縁なのだろう。興味ありません!って感じだし。

「あ、上野じゃなくて奈々って呼んで良いよ。有栖ちゃんもお世話になってるしね」

本当なのかと念の為に聞き返したが快く了承してくれた。恐らく女子の友達。人目だ。

因みになのだが奈々と試しに呼んだら有栖に蹴られた。何でなんだ?

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放課後。人気の少なくなった生徒会を終えた有栖が帰ってくるのを見届けると呟いた。

「疲れたぁ。普通に死にそうだな、俺。良心的な方法を考えてくれよ」

「殺して欲しいの?楽に死ぬ?それとも苦しんで?」

「待て、殺して欲しい訳じゃないし言ってることが物騒だから。俺は癒しが欲しいんだ」

「うーん。抱き締める?何なら、膝枕まで足しちゃうけど。無償で」

「よし早く帰るぞ。その言葉を聞いたら疲れも吹っ飛んだ」

因みにマジである。誤解しないでくれ。別、膝枕も抱き締めも要求してる訳じゃないんだぞ。

「そうだけど。ねぇ、雄斗。あの人はどうしたの?」

「あの人って誰?あ、雪城?彼奴ならもう帰ったよ。用事あるんだって」

アイス買う、よって早く帰る。さらばだ、お兄。などと謎に台詞を残して去っがどうせ家で遊んでるのだろう。

「そ、それなら大丈夫なんだけどね。帰ろ。雄斗」

そう述べると廊下へと出る。そのまま無言だった彼女が口を開いたのは正門を出てからだった。

「今日も長かったですね」

「そうだなぁってどうして急に敬語なんだ?」

「念の為にです。で幼馴染は公認ですけど公開はしてませんので疑惑の目を浴びますから」

「一部界隈について言及したいところだが触れないでおこう。うん、話が脱線し過ぎたな。明後日に学年末考査があって、その次の日に」

と言い掛け反応が失くなった有栖の方を見ると何故か不機嫌だった。本当にどうしたんだ?

「ホワイトデーですね。勿論、お返しを楽しみにしてますよ?」

「期待しててくれ。多分、頑張るから。そして、その2週間後には1年生も終わりか。早かったなぁ」

「そうですね。2年生になったら生徒会長選挙も始まりますし」

そうポツリと呟いた。最初は関係ない話だと思っていたが、よくよく考えてみれば有栖は生徒会役員だ。つまり、有栖の意向次第で来年の生徒会選挙へ出馬するはずだ。其処まで俺の幼馴染は。俺が月末如きで騒ぐ中。

「(そんな、先まで見てるのに俺は_明らかに見通しがない。こんなんじゃ)」

ずっと有栖の横に立てる訳もない。端から見れば完全に釣り合わないのにずっと立って居れば贔屓される。そしてそれは有栖の選挙への影響も懸念されるだろう。

「ま、まぁ。でも、選挙は先だろ。何で今にってもしかして、立候補するのか?」

「うん。生徒会に入ってる訳だし立候補しようかなぁって」

「副書記だっけ?今の職はあれ、違った?」

「合ってるよ。元々は会計監査だったんだけどね。生徒会の諸事情で代わったんだ。それで」

そう言葉を濁した有栖に違和感を覚えたが黙ってるのも癪なので自分の記憶から色々と引っ張り出してみる。

「えっと、確か生徒会長に立候補するならも要るよな?」

「うん。それでさ。残念なことに候補者が居ないんだ」

「居ないって誰かに頼まないと立候補は出来ないだろ?まぁ、でもお前の場合は頼めば簡単に承諾してくれるだろ。それこそ上野さん辺りに頼めば」

そうですね。そう小さく呟くとまた黙ってしまった。揺れる彼女の髪。訪れるバス。そして、彼女は意を決したように俺の名を呼んだ。


「ねぇ、雄斗。私の副会長候補に_なってくれる?」


少しの赤面をした有栖へ対し笑みを浮かべるとゆっくりと口を開く。

「それはありがたい頼みだけど。到底、無理な相談だな」

「え?」

「なーんて言うとでも思ったか?保留って形にしておくよ」

「ど、どうして?」

「だって、俺の心の準備が出来てないし。副会長候補って相当な役職だろ。頼まれたからやりました、みたいな感じじゃまず通用しないだろ?立候補するにしてもな。まぁ、俺の準備に手間取るのが無理なんだったら他を当たるんだな」

「大丈夫。時間もあるし、それに私は雄斗が頷いてくれるまで待つから」

即答だった。余りの速さに俺は困ってしまった。

「まぁ、俺もやっと今の立場を確立出来たしなぁ。正直、目立ちたくないってのはあるんだが」

「大丈夫。もう、私と幼馴染っていう属性を持ってる時点で平凡を辞めてる」

「それは、流石になくないか?で、お前は生徒会長になったらどうするんだ?」

「この学校を良い方向に変えるよ。校則もね」

「校則って4以外のことか?」

昨年の夏頃の議会で廃止の直前に突如、打ち切りとなった校則だ。その所為で、有栖も疑われたりするなど不幸が不幸を呼ぶ校則となってしまっているのが現状だ。だから、実際に恋愛と言うものを構内で見たことはない。が、それは俺らの頑張りで次の生徒総会で廃止することを報告するのだ。

「うん。もっと具体的に改善して行かないとね」

「まぁ、校則はより良い生活を送るためのものだからな」

そう頷いた。

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彼女と別れた後、俺は考え込んでいた。

「(幼馴染として助けを求められた答えるべきだろうか)」

立候補する以上、勉強も運動も手なんて抜ける訳がない。そして、それは

を演じ続けてきた俺の全てを否定することになる)」

立候補する時点で平凡じゃない。だって、前に出るのだから。もし、そうなるのなら俺は何を学んだのだろう。あれだけのことを痛感して。それで、また。

「(でも、自分のことよりも有栖のことを考えるべきだ)」

選挙さえ終われば多少の影響力を加味しても残りは平凡を目指せるのではないか?

「(仮に当選したら副会長を降りて他の人へ、それこそ上野さん辺りに頼めば)」

何度も言ったが俺はふさわしくない。だが、上野さんならば誰だって納得するだろう。取り敢えず、家に帰ったら改めて有栖へ連絡をし

「あ、お兄。今、バイオしてるんだけどさぁ、やる?」

俺は部屋に戻るからしないぞ。そう答え溜息を吐いた。駄目だ。誘惑に負けてどうするんだ?

「あぁ、死んじゃった。えぇ、どうするの?コレ」

「それは、こうするんだ。結構な難所だよなぁ」

有栖へ連絡を入れてない。さっさと入れるべきだろ。何で、入れないんだよ!

「(此処で早まって違ったらどうするんだよ。でも、早く連絡しないと迷惑を被る。くそ)」

「あ、ライブ配信やってるじゃん。雄斗が推してる人のライブやってるよ」

「アーカイブ見るし、やっぱり部屋に戻っとくわ。お前も、考査前なんだしちゃんと勉強しろよ」

1番の対策はやはり情報を入れないことだ。そう決め込み、部屋へ戻って気付く。

「スマホ、リビングじゃんか」

思わずベッドへと倒れ込んでしまった。リビングへ戻れば確実に誘惑に捕まる。

「有栖との所為で縁が切れたらどうすれば」

流石にそんなことはないだろうけど。でも、早く連絡を聞きたそうだった。でもそうすると俺は。

「駄目だ。何を考えても頭が働かない。どう、すれば」

俺は、どうするのが正解だったのだろう?結局、俺はその答えを出すことが出来なかった。

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「今度の演劇のテーマどうするんだ?」

「何で俺ら、演劇なんだよ。古臭いしよぉ」

「まぁな(そりゃそうだけど)」

「喜劇。まぁ、恋愛でどう?」

賛成。と女子数人の声が上がるが許される訳もなく

「恋愛なんて勝手にやってろ。劇は戦闘モノだろ!」

「だよなぁ!恋愛を全面で出してどうすんだよ。馬鹿なのか?」

「馬鹿って何よ!アンタの方が成績下な癖に!」

と男子数人も当然だが否定してくる。当たり前だ。今時の男子中学生。恋愛なんてする訳がない。

「あ、それなら戦闘ものと恋愛ものを混同させたらど、どう?」

「そ、それなら良いかもしれないな」

「そうね。それなら、私も譲るわ」

と中心的な2人が引き下がることで遠回りをしたものの、進んだ。まぁ、大丈夫だろうと思ってた。

でも、あの日を境として大きな対立を、そして、大きな過ちを生み出すこととなる。

そんな対立を、そして事件を生むなど誰も思ってなかったのだった。

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