5話 その偽善と「言わぬ」口実

「あ、汐屋。おはよう」

「おはよ。それにしても凄く変な、そう嫌な予感を覚える笑みだな」

「お前、明日の放課後は暇なんだろ?どうせさぁ」

「その言葉で分かった。どうせ厄介事なんだろ?残念だけどパスだ」

「最後まで話聞く気ないだろ」

クラスメイトの尚人が呆れるが実際そういう前科があるのでしょうがないと思う。彼は浦谷尚人。航と比べると其処まで仲良くはないが友達だ。

「ありがとう、俺の話を聞いてくれて。それでだな、明日の放課後。合コンするんだけど」

「俺の話を無視したの?パスだって言ってるだろ」

「何でだ!無視して何で即答するんだ!男なら普通は誘われて喜ぶべきだろ?」

「どうせ、唯の数合わせなんだろ?本気で誘う気なら前の段階で喋ってるはずだ」

「だって、予定してた奴が直前に告白されて彼女が出来たんだよ?」

「成程。誰かは知らないが良かったじゃないか。合コンに行く前に彼女が出来て」

「俺らを馬鹿にしてる発言か?あ、でもお前も彼女居なかったわ。なら、大丈夫だな」

「何が大丈夫なのかは全く分からないが兎に角、俺は参加しない」

「頼む!乗ってくれよ。今回だけって約束するから。マジで頼むってぇ!」

「そう懇願されても彼女なんて出来る訳もないし無駄に喋るだけだしメリット0だ」

それに学年末考査も控えてるしな。そう事実を突き付けると隣の航が残酷だなぁ。という表情をしていた。

「汐屋さんと内野さん。何の話をなされているのですか?」

「ひ、柊木さん!良かったら合コンに参加しませんか?」

「合コン、ですか。数合わせなら参加するのも良いかもしれませんが何しろ学年末考査前ですしお断りしますね」

ふふっ。と笑みを携えて話を聞く有栖だが俺は知っている。さっきからチラチラと様子を見ていたことを。

「やっぱり、柊木さんを誘うのは無理だよなぁ。ってな訳で雄斗」

無理だ。改めてそうバッサリと頼みを断ったのだった。そうして席へ帰ると有栖が話し掛けてきた。

「あの、早瀬くん。少し彼を借りても大丈夫ですか?」

「あ、はい。どうぞどうぞ」

ニヤニヤとした笑みを浮かべる航を恨みながら俺は有栖に廊下へと連れ出された。

「噂で聞いた話なのですが。朝、雪城さんと登校しているのは本当なのですか?」

「(見られてたのか。付近で別れたはずだが何処までも警戒しきれないな)」

朝、怜奈に一緒に登校したいと誘われ学校付近までという約束で登校したのだった。

「どうしたのですか。まさか、本当に?」

「まぁ、その朝に偶然会ってな。それでどうせならって形で登校したんだ」

「そうなんですね。それにしても雪城さんとそんなに仲良かったのですか?」

そういえば思い出した。学校では男子に冷たく当たる氷姫だということに。さすれば、

「別に付き合ってる訳じゃないぞ?本当に偶々だ」

「そうですか。なら、明日は私と登校してくれますか?」

「え?そ、そうだな。学校付近までなら良いけど」

分かりました。そう彼女は頷くと俺を解放してくれた。うん、怖過ぎる。

「(でも、何であんなに怒ってたんだ?別に登校してもそんなに問題はないはずなんだけどな)」

そうして席に戻ると何かを察した航が肩を叩いて宥めてくれた。

「どうしたんだ?喧嘩したのか?」

「俺が雪城さんと登校したって噂を問い詰められてな。それで登校したって言ったら急に怒り出したんだ」

「それは、嫉妬してるんだぞ」

「嫉妬?彼奴は別に航と違って嫉妬はしない奴だと思うんだけどな」

「俺を引き合いに出すのはどうかと思うが俺からすればその反応は嫉妬だぞ」

「でも、雪城さんって男子を毛嫌いしてる訳だしさ」

「そうだよな。どうしたんだろ。そう話をしていたらそのが目の前を通り過ぎた。

「(ん?何か落としたぞ)」

怜奈が通った直後に落ちた紙を拾うと「雄斗へ」と書かれた紙が落ちていた。

「どうかしたのか?床を見て」

「何でもない(此処で読むと厄介になりそうだし後で読むとするか)」

そうして俺は波乱の朝を終えたのだった。そして休み時間。航の所へ行こうとすると怜奈に止められた。

「あの、今日の放課後さ」

「どうしたのですか?」

そう切り出そうとした瞬間、有栖が割って入ってきた。

「別に柊木さんは呼んでない。私は此奴に用事があるの」

「奇遇ですね。私も貴方に用事があったんです」

そして、無言の笑みと両方とも浮かべながら互いに圧力を掛けているのを感じた。

「なら、今で良いよ。私も柊木さんに用事があったし」

「では少し空き教室を借りて話をしましょうか」

そうして俺が止めようとしたのも虚しく2人去って行った。

 ******************

「先に柊木さんからどうぞ。まぁ、ある程度は分かってるけど」

「先程、汐屋くんにを聞いたところ事実と言っていたので改めて確認したかったんです」

「仮にそれが事実だとして貴方に何の関係があるの?」

「私は生徒会役員ですよ?この学校の規則を貴方は知らないのですか?」

「知ってるよ。校内及び公共施設内での恋愛禁止でしょ。私と彼は交際してないから」

「そうですか。それは疑ってすみませんでした。ですがそういったことをすると勘違いする方も居ます」

「それはそうだね。でも、もう関係なくなるよね?規則廃止するし」

「そ、それは。何処で聞いたのですか?」

「隠す気ないんだ。まぁ、良いけど。今度の生徒総会で報告するってある役員から聞いたよ」

「成程。告白の件ですか」

「そう。私が男子を嫌ってるって言ってたのに告白してくる役員が居てさ。勿論、断ったけど」

その時に私は彼を問い詰めた。規則があるのではないか?と。その時に彼が廃止されることを言ったのだ。

「成程。情報ありがとうございます。その件は此方側で対処しておきますね」

「話は以上で良かった?」

「いえ。先程も述べましたが雪城さんは確か男性の方が嫌いというか苦手でしたよね?」

「そうだね。お陰で私は氷姫なんて渾名も付いた。華とは違って」

「彼も男子でしょう?どうして其処まで拘るのですか?」

「前に相談事してたの。それ以上でもそれ以下でもない。それが終われば彼は嫌う対象だから」

事実、相談しようとしてたのは間違ってはなかった。まぁ、こうやって阻止されちゃったけど。

「そうですか。では、私も乗ってあげましょうか?その相談事に」

「結構。何で柊木さんに相談しないと行けないの?」

「簡単な理由です。私は役員ですし女性なので乗りやすいかと思ったのです」

「大丈夫。役員に頼るほどの大事じゃないから。逆に聞くけど、柊木さんと彼奴はどんな関係なの?」

「知らなかったのですか?幼馴染ですよ。結構、有名な話だと思ってたのですが」

「そうなんだ。でも、ちゃんと節度は保った方が良いよ」

私はそう声を掛け去ろうとした。

「すみません、嫌味な形で言ってしまって。ですが、相談に乗ってあげたかったのは本当なんです」

その言葉を背に何も語ることなく私は教室を出た。

 ******************

「柊木さんってどんな人なの?」

次の休み時間。俺は怜奈に廊下へと連れ出されそう問われた。

「どんな人って幼馴染で優しいけど」

「そう。私がさっき話した時はあんまり想像と違ったけど。でも、優しい人だったのは間違いないかも」

「それは、どういうことなんだ?」

「詳しくは言えないけど。そういえば、さっき落とした手紙の返信は?」

「行けると思う。用事が入ってるかどうかは覚えてないけどな」

「ありがとう。後で行けるかどうかはまた送って。後、メール見てね」

あぁと頷き俺は席へと戻った。その頃、

「(雪城さん。最初の頃は交流すらなかったのに最近にになって仲を深めてるけど)」

公衆の前で男子は苦手、嫌ってると言ってるから特別に見てると思ったんだけど。

「(でも、彼に頼ろうとするなんて少し違和感ね)」

学校で目立つ訳でもなく平凡な彼に何故、頼ろうと思ったのだろうか?

「さっさと手は打つべきだと思うけど」

 ******************

「そういえば、メール見てって言ってたな」

そうしてメールを開くと


「お昼、食堂でで食べるから。以上」

「分かった。でも、俺を苗字呼ぶんだぞ」

「どうして?昨日名前で呼んでも大丈夫って」

「関係を伏せてるのにお兄呼びしたら駄目だろ」

「分かった。バレなかったら良いでしょ」


そう言われると俺は何も返せなかった。そして、

「汐屋くん。行きましょう」

「雄斗と航。飯へ行くぞ!」

「そうだ、な。あ、やっぱパスで」

「どうしてだ?あ、弁当持って来たのか?」

「ま、まぁ。楽しんでくれ」

そう廊下へと出る2人を見送った。だって後ろで極寒の視線を向ける奴が居たんだよ。仕方なくない?

「弁当なんて知らないのですが。も、もしや」

「あ、嘘だぞ?ほら、食堂行くぞ」

「ちゃんと覚えててくれたんですね。信じてましたよ」

と極寒の視線を直し笑みを浮かべ細目へとなる。

「あ、汐屋くん。御飯行きませんか?お腹空きました」

「汐屋くんは私と食堂で食べる予定なんだよね。残念だけど」

「あ、なら。3人で食べ」

と最善の提案をした。なのに、2人から極寒の視線を浴びることとなるのだった。理不尽だ。

「どうしたんだ?」

「何でもないです。唯、雄斗くんの評価を少し下げました」

え、何で?と返すと「其処だけ同感です」と援護射撃を貰って俺は撃沈した。

 ******************

「混んでるなぁ」

「そうですね。此処の食堂は凄く人気ありますので致し方ない部分もありますね」

「そろそろ1年経過するのに全品、まだ食べれてないんだよなぁ」

「私もです。今日は、A定食にしたい。メインは鮭だって」

なら、俺もそれを食べるとするか。そう同意すると有栖も無言で同じ食券を購入。

「A定食3つ出来たよ!」

暫くすると栄養のありそうな焼き鮭定食。唯、少し容量も多めだった。以下略。

「席を確保してたのもあり少し遠めだけど無事に座れたましたね」

「そうですね。あの、柊木さん。奥へ詰めてくれない?座れないんだけど」

「あ、すみません。それなら、私と場所を交代しますか?奥へどうぞ」

「怜奈が奥に座るなら手間が掛かるし奥へは俺が座るけど?」

「雄斗くんが奥へ座るのなら、その隣に詰めるけど」

「いえ、雪城さん。其処で座ってて大丈夫ですよ」

「何なんだ?今度は席の確保で揉めて。どうせ、俺の所為なんだろうけど何かしたっけ?」

「あ、美味しいですね。塩味の効き目もあって」

「うん、美味しい。ちゃんと、栄養も偏らないよう配慮されてる」

「そうだね」

そう言葉聞くならちゃんと述べてる有栖へ目をやり溜息を吐く。案の定、辛そうな目をしていた。まぁ、何を隠そう有栖は全般的に魚が苦手なのだ。

「(うん、何で頼んだの?自分で魚苦手って分かってるだろ)」

そうアイコンタクトを送りながらも見て見ぬふりしたら幼馴染の顔も廃れるしな。手助けしてやらないとな。

「ちゃんと味噌汁と食べろよ?鮭だけ食べるよりも感覚が和らぐぞ」

「そ、そうですね。で、では」

そう口へと運びほっとした笑みを浮かべた。どうやら無事にやり過ごせたようだ。

「(やっぱ、手の掛かる幼馴染だわ)」

そう溜息を吐くのだった。因みに、食べてる時なのだが凄く視線を浴びた。それもそうだ。人気の幼馴染と此方も人気?の義妹と食べる平凡な男子。まぁ嫉妬なり興味なりの視線を浴びる。

「(平均だの平凡だの語ってる癖に違う方向へ行ってないか?)」

改めてス自分のタンスがズレ始めてることへ気付くのだった。

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