4話 感情変化と夢の見定め

「清楚系と小悪魔系、雄斗はどっちが好きなの?」

「有栖に子悪魔系は似合わないと思うんだけれど有栖は似合うと思ってるのか?」

「その発言を見るに私の小悪魔さを知らないようね?」

小悪魔さって何なんだ?アレなのか。漫画とかで出てくるサキュバスみたいな格好の奴なのか?

「小悪魔さは小悪魔なの。ところでところで雄斗くん」

「ん、どうしたんだ?」

「どうして、私の着替えではなくスマホを見てるの?」

「え、だって家に帰っても見ることになるじゃん。前もそれに付き合って3時間掛かってるしな」

「此処で見ることに意味を感じないでどうするの?自分の美貌に自惚れることはないけど男なら見るべきよ」

「えぇ?なら清楚系の青色でお願いします」

「何よ、私の好み分かってるじゃない。やっぱり、私の幼馴染なのね」

当たり前だろ。有栖と幼馴染を解消した記憶はないぞ。と心の中で突っ込んでおく。とは思いつつも

「(素直に有栖のことは褒めるべきなんだろうけどさぁ)」

素直に褒めたら俺が照れるしそれより何より有栖のネタにされる。俺がへタレなだけなのだが。

「(でも、絶対に褒めるべきなんだよなぁ)」

女性の着替えに興味を持たず粛清された男を何人も見て読んできた。仕方ない。此処は俺の羞恥を捨てて褒めるしかない。そう決心をしたと同時刻。

「(何で、雄斗は私を褒めてくれないの?)」

私は試着質で憤慨した。学校では嫌悪する程、人気を集める理由が容姿にあることは理解している。でも、私は容姿の維持に手を抜いたことはないし自惚れたことも色々な人に自慢したこともない。でも、誰よりも側に居る幼馴染の雄斗に興味を持たれないのは少し屈辱的だった。少しでも私を可愛く見て欲しい。

「(別に、雄斗の為じゃないけど!でも、私が色々な服を着てるのに無反応は失礼よ!幼馴染よ?」

こうなったら、私の実力で雄斗に言わせるしかない。そう意気込むと雄斗に頼まれた格好に着替え

「ど、どう?」

「うん。凄く可愛くなったな。やっぱり有栖には青が似合っているんだよ」

「そ、そう?あ、ありがとう。次の着るわね」

正直、拍子抜けした。意気込んだのに結局、赤面したのは自分だった。

「(な、何よ。急に褒めるなんて。そ、それも真顔で褒めて。恥ずかしくない訳?)」

そう思った矢先。幼馴染という単語が引っ掛かった。

「(もしかして、幼馴染だから褒めてるってこと?そ、それなら世辞って可能性も)」

あるのよねと言い掛けて不満が込み上げてきた。

「(褒めるならちゃんとって私が褒められたいって思ってるみたいじゃない!)」

と個室で悶々としてる中、別に雄斗も平然斗している訳じゃなかった。

「(やっぱり、人を褒めるって無理だわ)」

有栖へ冷たくあしらわれた辺り恐らく地雷を踏んでしまったのだろう。

「(どうすればちゃんと褒められるんだ?)」

人を褒める機会をほぼ持たなかった人生へ後悔しつつ何とか地雷を踏まないように意識することにした。

「ど、どう?さっきのと比べて」

「さっきと変わって随分と凛となったな。有栖が美人なのもあって凄く良く際立ってるぞ」

と頑張ってを述べたものの

「そ、そう。じゃあ、次の服を着るから」

さっと閉められてしまった。

「(何でまた冷たいんだ?俺はどうするのが正解だったんだ?)」

「(何で急に褒めだすのよ!)」

さっきまで興味なさげだった癖に私を急に褒めて。

「(って、何で褒められたがってるのよ!)」

そして、最後の服を選ぼうとし戸惑った。

「(露出度は結構高めな服なのよね。勢いに身を任せて選んじゃったけど。ど、どうしよう)」

露出度を余り高くせず過ごして来たのもありを正直、恥ずかしい。

「(でも、そんな服を私が着てる姿を見るのは雄斗も初めてなはず!)」

真顔で褒めてた雄斗だって私の姿を見れば赤面するはず!寧ろ、してくれないと羞恥心で耐えられない。

「(女子の露出度の高い服を見る機会がない雄斗だもの。きっと大丈夫)」

そう自分に言い聞かせ服を手に取った。そして

「ど、どう?最後の服だし結構、攻めてみたんだけど」

「有栖にしては露出度が高めだけど有栖の肌って白だしより美人なのが際立ってるなって思うぞ」

「え、あ。そ、そう?なら良かったのだけれど」

「とはいえ、攻め過ぎてると思うんだが。普段は隠してるのに。何かあったのか?」

その言葉にぷるぷると身体を震わせていた。どうしたのだろうか?

「あぁ。恥ずかしがってるのか。お前にその趣味があるなら買っても良いと思っ」

「違うに決まってるでしょ?馬鹿ッ!」

そう赤面した有栖に怒られたのだった。

 ******************

「(疲れたな)」

あの後、赤面した有栖に怒られた後、頭突きされた。因みに服は最後以外だけ買ったようだった。

「(とはいえ、地雷を踏み過ぎたな)」

隣でバスに揺られ肩に身体を預けながら眠る有栖を見て思った。

「(有栖も大概だよな。何であんなに攻めたんだ?)」

今まで何度も服を買ったことはあったがこんなに攻めた服を選んだことはなかった。

「(何か気持ちの変化でもあったのか?もしかしてー。いや、流石に考え過ぎだよな)」

ふぁ。と欠伸を凝らしつつ目を閉じる。結局、有栖の欲しいものは聞き出せなかった。

「(それでも、何を送れば良いのかは分かったから良しとするか)」

 ******************

「じゃあ、また明後日な」

「えぇ。楽しかったわ。じゃあまた」

有栖の家まで送り入るのを見送ってから背を向けた。

「さってと、学年末考査もそろそろ来るしな」

そろそろ学年末考査だし終われば気も止まぬ内に4月だ。改めて引き締めなければ。そう意気込み

「お帰りなさい。汐屋さん」

「お前、こっちに戻って来てたのか」

「はい。念の為に連絡は送りましたが気付かなかった様ですね。それと夕食は既に済ませてませんよね」

「そうだな。流石に食べるのは早いしもう少ししたら食べようかなって」

「そうですか。では、作り置きが冷蔵庫に入っているので」

「お、おぉ」

では、私は部屋へ戻りますとパタンと部屋の扉を閉じ出て行った。そんなへ対し溜息を吐く。

「学年末考査以上に早急な解決をするべきだな」

 ******************

彼女の名は雪城怜奈。昔、両親の再婚の際に義妹となった同じクラスの少女である。学校では男女問わず人気も高く告白する人も多かった。唯、彼女の渾名であると呼ばれるようになってから数も減らしたと航から聞いたことがある。基本的には元々住んでいた義母の家で生活しているが時折、俺の家に来て泊まることもある。会話も少なくその内容も最低限のみで遊んだこともない。粘って怜奈呼びの許可を貰ったものの得たものの怜奈からは呼びであり名前を呼ばれたことはない。

 ******************

「(俺としては仲良くしたいんだけど難そうだよな)」

その時、俺はある事を思いついた。

「怜奈。ちょっと」

ドアを叩くと「どうしましたか?」と部屋の中から声が返ってきた。

「聞くけど。怜奈って明日は暇だったりするのか?」

「暇、ですけど。どうしてですか?」

「なら、ちょっと俺に付き合ってくれないか?」

「嫌ですけど。どうせ、そんな私を誘う汐屋くんですから言っても無駄なのでしょうけど。何処へ行くんです?」

「色々と行く予定だ。退屈はさせないつもりだから安心してくれ」

「そうですか。明日の何時に家を出るのですか?」

怜奈次第で決めるけど。と口籠もると「なら、明日の9時過ぎに。では」と返って来たのを確認し部屋に戻った。

「さて。何処へ行くべきか」

そう約束は取り付けたものの何処へ行くかは決めてなかったのだ。

「動物園は俺が苦手だし考えながら勉強でもしよう」

籠もる怜奈を横目に参考書を開く。勉強をするのは面倒だし嫌いだが平均を取る目標があるから頑張れるのだ。

数学の課題を終わらせていた時にパタン。と扉が閉まる音がしたので顔を上げると怜奈が立っていた。

「お風呂、先に入ります。それと先程、聞けなかったのですが明日は何処へ行くのですか?」

「まぁ。気分転換に水族館に行く予定なんだけど、大丈夫か?」

 ******************

「随分と気合入れてないか?」

翌日。俺は普段、家では質素な姿で過ごしている怜奈との違いに違和感を覚えた。

「何事も出掛ける時は気合を入れるべきですよ」

「それって、俺を馬鹿にしてる?」

「私が気にしてるだけなので。汐屋くんまで気にする必要はありません」

「なら、行くぞ。ほら」

「そうですね。何ですか?その手は。私に手を繋げと言うのですか?」

「手を繋ぎたそうに見えたから。それとも俺の勘違いだった?それなら恥ずかしいんだけど」

「別に繋ぎたくはないですが汐屋くんがどうしてもと言うのなら構いません。そういう口実で乗ってあげます」

ポツリと溢した言葉に俺は耳を疑った。今まで距離を詰めようとしなかった怜奈の意外な言葉に驚いたからだ。

「怜奈が嫌なら俺は手を放すけど」

そう握った手を緩めようとすると強く握りしめ返された。どっちのなのだろうか?

「怜奈って案外、素直じゃなかったりするの?」

「それは私に蹴られたいという意思の籠った発言で宜しいのでしょうか?」

「え、何でって痛いんだけど!後、握る力強くない?」

左手で握り締めた力の強さのこと。ちょっと引いちゃったぞ、お兄ちゃんは。

「もし嫌なのであれば黙って私を連れるべきです」

「怜奈って意外と乗り気なんだな。水族館とか余り興味ないのかと思った」

「水族館に行くのも久々ですし、此処は昔の父と良く遊びに来ていたので懐かしくなるんです」

「そうなのか」

何かあるだろうとは思っていたが其処へ繋がるのか。怜奈がこんな風に興味を示したことはなかったから違和感を覚えていたのだがその理由が自分の父親とよく来ていた場所だと言うのなら納得も行く。

改めて怜奈の過去をまた知ることが出来たことを考えているとバスは水族館前へ停車した。

「まずは、大きな水槽へ行きましょう。人気なので早めに押さえておかないと混雑するんです」

そうして怜奈に引っ張られたのが始まりだった。

「見てください!クマノミですよ。癒やされますね」

「ペンギンに餌やりに行きませんか?」

「そろそろイルカショー始まりますよ!」

とオフになればと思っていたが結局、振り回されたのは怜奈ではなく俺だった。

「なぁ、怜奈」

「どうしましたか?」

俺と怜奈は休憩所のベンチで息を吐くと声を掛けた。

「いや、良かったなって思ってさ」

「それは、どういうことですか?」

「だから、その。普段の怜奈を見てるとつまらなそうだったからさ」

「そうですか。確かに普段の生活で退屈を感じることはありますが大丈夫ですよ?」

「ショーまで時間あるんだろ?」

「ありますけど。どうしてたんですか?用事でもあるのですか?」

「昼御飯食べようぜ。此処に付属であるレストランでさ」

「え、でも。お金が」

と困惑した表情を浮かべる怜奈にの財布を見せる。

「随分と気前が良いんですね」

「俺が誘ったんだから当たり前だろ?」

ありがとうございますと返す怜奈に畏まるな。と付け足してから俺と怜奈は隣接されるレストランへ訪れた。

「どれにするんだ?怜奈は」

「じゃ、じゃあ。えっと、その。では、オススメので」

「確かにそれで良さそうだな。俺もそれにしよう」

注文を頼んだ後、怜奈がゆっくりと切り出した。

「すみませんでした」

「どうしたんだ?急に。何かあったのか?」

「いえ。その、家族になってからずっと冷たく当たってしまってたので」

「あぁ、そのことか。多少は気にしてるけど。でも、もう大丈夫だよ」

「どうして、ですか?」

「だって、今こうやって2人で水族館に来れてるだろ?家族になった時は有り得なかったぞ」

「私も本当は仲良くしたかったのですが。その、私は男子が余り得意じゃなくてー」

「知ってる。アレなんだろ?散々、学校で告白されてたのも影響してるんだろ?」

「知ってるんですね。まぁ、噂になる程度ですが。それでも見知らぬ男子から告白されるのは少し怖くて」

成程なぁと納得する。つまり、怜奈は俺個人の問題ではなく他のことも重なって結果的に俺と距離を置いていた。そういうことなのだろう。俺としては仕方のないことだと割り切っていたから然程の問題ではなかったけど。

「怒らないのですか?ずっと、気にしてくれてたのに。無視する形となってしまったのに」

「誰だって信じれないこともあるだろ?それに俺も無理して距離を詰めようとしたし。ごめんな」

「そ、それは。でも、今はもう優しい人って知ってるから、その。だ、大丈夫だから」

「そうか。良かったよ。怜奈と多少は打ち解けれて。可愛いい妹だし仲良くしたいじゃん?ほら」

と笑顔を見せるとそれまで曇っていた怜奈の表情もほんのり赤く染まった。

「なら、これから名前呼びしても良いですか?」

「勿論。寧ろ、そうしてくれた方が俺もありがたい」

「それでは、その改めて宜しくお願いします」

そう言われた。それは、俺と怜奈の新しい生活の始まりを告げたことでもあった。

因みに、

「雄斗。後でイルカのかまぼこを貰うから。覚えといて」

「此処のお土産って結構高めだし俺が家に帰ったら切るよ?」

「なら、それで我慢するからお兄のかまぼこを頂戴」

「何でだよ。それ無くなったら俺のは唯のカレーになるだろ」

「仲良くなった証に私にあげるべきだと思う。代わりに食べる姿を見せてあげるから」

理不尽だろと落胆したが仲良くなった証拠なら良いかと思ってしまう雄斗だった。

 ******************

「楽しかったです」

「そうだな。怜奈のお陰で濡れかけたけど経験の糧にさせて貰った」

「その、すみません放送で案内はあったのですが飛び方が想定外だったもので」

「それは久々だから忘れることもあるさ。気にするな」

「そうですか。また随分と寒くなりましたね」

急な話題を振られたことに戸惑っていると怜奈の手が手持ち無沙汰なことに気付いた。手を繋げと言うことか。

「流石、お兄。言わなくても私のことを分かるんですね」

「やっぱり、その呼び方と砕けた呼び方の時のキャラの変化が良く分からないんだよなぁ」

「お兄の時はこっち。人前では_ちゃんと喋ります。どうです。器用でしょう?」

と胸を逸らす姿に可愛さ故の愛着心を覚えてしまう。

「私を尊敬しても構わないのですよ?」

「尊敬しても怜奈みたいに俺は器用じゃないからな。意味がない」

「でも、お兄。謎に平均を取ろうとする。でも、私はそんなお兄が好きだから」

ありがとうな。と返す俺に怜奈は笑みを溢した。そんな大切な義妹の手を優しく握り返したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る