第二話
「全く、なんでプリンセスである私が部屋の掃除をしないといけないの!?」
あやめは半ばキレながら、ホウキで部屋中をはいている。
そんな彼女を明日香はジトッとした目で見ながら
「ヤバっ……それ本気で言ってる?」
と、言い放った。
「何よ、私はお姫様なの。王子様はお姫様の言うことに従うものでしょ?」
あやめはそれで更に怒りだしてしまった。
「そ、それは、どういう偏見なんでしょうか……?」
千代が困ったように笑いながら、あやめを眺める。
流石にこれに関しては、彼女のセリフが演技なのか素なのか明日香にはわからなかった。
「偏見じゃない! はぁ、なんて失礼な人達なのかしら?」
あやめがホウキを持ってない方の片手でヤレヤレとやってみせると、離れたところで雑巾がけをしていた芽衣が立ち上がった。
「どうでもいいけど、掃除しない? 早く練習したいし、こんなことにあまり時間をかけたくない」
芽衣はあやめを睨んだ。
あやめはホウキをその場に置いて、芽衣の方に近づいた。
「ねえ、昨日会ったときから思っていたけど、あなた、言いたいことズバズバ言い過ぎ。ちょっとは自重したらどうかしら?」
「それを言うならあなたもですね、月島あやめさん」
明日香は黙って、喧嘩を始めた二人の様子を見ていた。
「面白いですね、星宮明日香ちゃん」
突然の声かけに、明日香は飛ぶほど驚いてしまった。
「……うわっ!? ……何、あざとい人」
明日香が皮肉をこめて千代にそう言うと、彼女は顔を隠して恥ずかしそうな素振りを見せた。
「そ、そんなにほめなくても……」
「そういうところ。……はぁ」
千代は表情を元に戻すと同時に、未だ喧嘩を続けている二人を眺めた。
「二人の喧嘩を止めなくていいんですか?」
「昨日の話、聞いてなかった? 私はあなた達とは違うって。私は別に彼女達を止める義務も何もない」
明日香のその言葉を聞いて、千代は考える素振りをした。
「そうですか……」
明日香はそれが不満だった。
「何か文句ある?」
「いえっ、なんでも! やっぱり明日香ちゃんは面白いですね」
千代はそう言うと、明日香に下手くそなウインクをして、再びあやめと芽衣を見た。
「おーい! あやめちゃんと芽衣ちゃん!」
二人は、一度千代の方を向いた。
というより、喧嘩の途中で不機嫌そうに睨んだ顔のままだ。
「ねえ、お掃除しながら自己紹介をやりませんか?」
『なんで私があんた達と!』
あやめと芽衣の声が重なり、そのせいで二人はまた互いを睨み合う。
「えー、ダメですか?」
千代が残念そうに言った二秒後、あやめが何か思いついたようにニヤついた表情をした。
「わかった! 自己紹介してあげる。だけど、プリンセスである私が一番最後ね。それで、言い出しっぺのあなたが一番最初よ」
「ねえ、何勝手に決めて……」
芽衣が二人に反論しようとしたところで、千代が早速自分の名前を言い始めてしまった。
「は、はい! えっと、私は天野千代です。中学三年生で、姫役志望で入ってきました!」
あやめは顔を思いっきりしかめた。
「はぁー!? あなたも姫役志望で入ってきたの?」
千代は困った顔をしてみせる。
「え、えっと、はい。……何かだめでしたか?」
あやめは腰に手を当て、自分をか弱く見せる千代を鋭く睨んだ。
「ダメに決まってるでしょ! 私がこの四人の中で唯一のプリンセスになるんだから!」
千代は不思議そうな顔をする。
「えっ? でもそんなの別に決められていないような……」
「私がダメって言ったらダメなの!」
「そ、そんなー!」
その場ではあやめが押し切ってしまったが、千代は千代で姫役を辞めないだろう。
というかどちらもなんだか図太そうだ。
そんなわけで、明日香が一歩前へ出た。
「ねえ、私が喋ってもいい?」
明日香の声は少しダルそうだ。
「ふん、速くしなさいよ」
あやめは、さっきの怒りを引きずっている。
「私は、星宮明日香。中学三年生で、王子役志望」
「それだけ?」
芽衣が珍しく少し驚いたような声をだした。
「これ以上何か言う必要があるの?」
明日香は首を傾げてキョトンとした。
「……いや、ない」
明日香はそんな芽衣を見て、ニヤッと笑った。
「それより早く自己紹介したらどう? 独りよがりの日野芽衣さん」
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