我儘プリンセス(劇団カシオペア、月島あやめ)

第一話

「おい、あやめ! 何俺のチョコレートプリン勝手に食ってんだよ!?」

 月島家のとある日の18時、護が部活終わりで疲れているなか、帰ってきて冷蔵後を開けると楽しみにしていたチョコレートプリンが消えていた。

「何よクソザコ兄貴。美味しそうだったからいいじゃない」

「いいわけあるかー! このプリン1個500円もしたんだぞ!」

「へー、そうなんだ。美味しかった、ありがとね、クソザコ兄貴」

「いつもいつも言ってるが俺はクソザコ兄貴じゃねー!」

「そんなにデザートを食べられたくなかったら、次は私用のコンビニスイーツでも買ってくることね」

「誰がお前のために……!」

 護は、拳を強く握って震えながら下を向いてしまった。

「俺の……チョコレート……プリン」

 その姿を横目に、あやめは護をリビングに残して自分の部屋に入った。

 これが月島家の日常である。


〜〜〜


「失礼しまーす!」

校内で借りている練習用のスタジオに入ったあやめが最初に聞いたのは、自分に向けられた怒声だった。

「遅い! 次の日から早速5分も遅刻してくるとは、たるんでるな、月島あやめ」

 目に力を入れてあやめを睨んだ七星かずとは、今日もイケメンでスタイルがいい。ただし彼女は、昨日とは違って動きやすい格好をしている。

「えっ? 遅刻して何が悪いんですか?」

 どうやらあやめにはそのセリフは効果がなかったようである。

 それどころか、あやめのその見え見えの態度からは、指導者に対しての舐めた態度が伺えてしまう。

 そんな状態だったので、指導者の立場である七星かずとは、あやめという図太い奴に怒りのエネルギーを使うことが無駄であると判断した。

 それを示すかのように、かずとは口角を緩めた。

「はぁ……これはまた今度やらせようと考えていたのだが……」

 代わりに四人の目の前にいるイケメンの女性は、一つため息を吐いた後、キッと全員を睨む。

「今日、お前ら四人にやってもらうのはこのスタジオの掃除だ」

「ス、スタジオの掃除ですか……!?」

 ずっと黙って様子を伺っていた天野千代は、素っ頓狂な声をあげて、驚きを表現した。

 相変わらずわざとらしいが、巧みな演技力も感じられる。

 千代の横で、髪を短く切りそろえた日野芽衣が一歩前に出た。

「……お言葉ですが、七星さん。このスタジオは二週間に一度、裏方隊や事務員の方々による掃除が行われています。掃除するほど汚いわけではありません」

 かずとは口角を上げながら睨む相手を芽衣に変えた。

「私に口答えするなんていい度胸だな。劇団大樹で同じことをやれば、半日はお説教という名のパワハラを受けるぞ?」

 負けじと芽衣も反論する。

「私達はパフォーマンスの練習をしにここに来ています。私達に練習をさせてください」

 かずとはまた一つため息を吐いた。

「まあ落ち着いて聞いてくれ。これをやらせるには、二つ理由がある。一つ目は、やる気のない奴がこの中に混じっていることだ」

 そう言ってかずとは、あやめを睨んだ。

 あやめも負けじとかずとを睨み返す。

 カッコいい女性に睨まれて凄まないあやめはなんだか逆にカッコよく見える。

「もう一つの理由は、なんだと思う? そうだな……星宮」

 明日香はすぐに反応した。

 まるで当てられることを準備していたかのようだ。

「はい。お互いの仲間意識……団結力が薄いことだと思います」

 即答で正解が出てきたことに満足したかずとは、笑いながら四人を見渡した。

「その通りだ。まあそんなわけだから、今日はこ

の部屋の掃除だ。私はこのスタジオ横にあるスタッフルームで仕事をしているから、終わったら呼びに来い」

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