第四話

「フッ、僕の輝きに恐れをなして帰っていったようだな」

 千寿は、夏生に負けた悔しさを隠すため、一人で変なポーズを取り始めた。

「いやお前ほぼ何も゙してないだろ。とりあえず、昼ご飯片付けるぞ」

 そう言って、夏生はテキパキと昼ごはんの皿を片付け始めた。

 明音も片付けを手伝おうとした時、ちとせが声をかけてきた。

「あ、明音ちゃん」

 明音は怪訝な顔をして、ちとせを眺めた。

「何?」

 ちとせは、頑張って笑顔を作って手を大きく広げた。

「の、残ってくれてありがとう!」

 明音は自分の心が少しだけ動いたような気がした。

 恥ずかしくなったので、横を向く。

「別に。水神夏生がいなかったら、私は多分岩永先輩について行ったかもしれない。だから感謝するならあいつにして」

 ちとせは首を横に傾けて、きょとんとした。

「な、何?」

 ちとせは明音に笑いかけたあと、後ろで片付けをやっている夏生と千寿の方を向いた。

「夏生君には、いっぱいいーっぱいいーーぱっいありがとうって思ってるよ!? だから、夏生君にも、それから千寿君にもありがとうってちゃんと伝えるんだ」

 そして、ちとせは再び明音の方を向いた。

「でも、まずは先に明音ちゃんに言わせて。『ありがとう』って」

 明音の心はなんだかポカポカしていた。

 まるで、春風が吹いてきたみたいに。

「……私は今回本当に何もしてないから」


「とりあえず、ここにいる全員でこの笑顔劇場を笑顔いっぱいにすることは間違いないな?」

 ある程度一段落したところで四人が再び集まる。

 夏生の顔はやる気に満ち溢れていた。

「フッ、まあいいだろう? 僕の力を貸してあげようではないか」

 千寿は自分の髪をサラッと流した。

「まあ、私が選んだのはこっちだしね」

 明音も千寿もワクワクした顔をしている。

 ちとせは三人の顔を順番に見た。

「うん! それじゃあみんなでー、ウルトラスマイル!」

「ウルトラスマイル!」

 一瞬、この場がシーンとなってしまった。

 というより、明音と千寿がキョトンとしてしまった。

「なんだい? その謎の掛け声とポーズは?」

「……あっ、えっと、これは……」

 ちとせがどもってしまうなか、夏生が一歩前へ出た。

「俺達の掛け声だ!」

 千寿がヤレヤレと呟いた。

「……なんとも子供っぽい掛け声だね」

 夏生は、一瞬真顔になったあとニッと笑った。

「いいじゃねーかよ。子供っぽい掛け声で。だって、みんなを笑顔にするんだろ?」

 それを聞いた明音がニヤリと笑った。

「そしたら、私達のチーム名も子供っぽくしたほうがいいんじゃない?」

「なるほど……。笑顔劇場……スマイル……シアター……」

 千寿が考えるポーズを取りながら、ブツブツと言い出した。

 それを聞いていたちとせは、何か閃いたような顔をして、手を一回叩いた。

「スマイルシアターキングダム!」

 夏生は、驚いた顔をした。

「ちとせ、それめっちゃいい名前だな! 採用だ!」

 勝手に決められて不満な千寿は、反論しよたうとする。

「あっ、おい! 勝手に決めないでくれよ!」

 夏生はそれを一瞥したあと、全員の顔を見てまたニッと笑う。

「よし、早速俺達のショーの話をしようぜ! さっき昼飯食ったら、元気が湧いてきた!」


〜〜〜

 岩永は、悔しさを噛み締めながら帰路についていた。

 岩永が夏生に対して敗北感を味わったのは、これが二回目だ。

「あいつに……水神夏生に勝ちたい」

 岩永はそう思いながら、頭の中で策を練っていた。

「そうだ……。俺も、もっと自由なショーを作ろう……」

 家路を急ぐ岩永だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る