第二話

「なあ、俺達はここで劇団員として働かせてもらえるんだよな? どうして俺達なんだ?」

 昼ご飯を食べ終わって一段落ついた頃合いである。

 夏生は、ちとせの方を見てずっと聞きたかった話題を持ち出した。

 当然、明音と千寿もちとせの方を向く。

「え、えっと……」

 ……まあ、しょうがない。

 ちとせはお昼ご飯を食べる前の時のように、オロオロし始めてしまった。

 彼女に対して申し訳無さを覚えるけど、こうするしかなかったんだ。

 夏生はそう自分に言い聞かせた。

 だってしょうがないじゃないか。

 俺達がここに来た理由は、この笑顔劇場から演劇に関して依頼したいことがあるって、言われたからだ。

 詳しい依頼内容は伝えられておらず、しかもなんということであろうか、担任の先生から行って来いと言われたもんだから行かないわけにはいかなかったのだ。

 夏生としては、ちとせの口から真実を告げてほしかった。

「……ちとせ、ゆっくりでいいよ」

 ちとせの祖母であるみずえは、静かにちとせに声をかけた。

 ちとせは、ゆっくりと息を吸った。

 そして、吐いた……。

「……ここはね、笑顔劇場でしょ? 今は誰もいないけれど、ここには昔、いっぱい劇団員がいて、観客もいっぱいいて、みんな……みんな笑顔だったんだ」

 みんな、ちとせの話を黙って聞いていた。

「みんなをここに呼んだのは……みんなに……みんなにこの劇場を復活させてほしいから」

 ちとせは、泣いていなかった。

 それよりも、とても困ったような顔をしているように見える。

 千寿は無表情でちとせに尋ねた。

「それ、僕達が今ノーって言ってもいいわけでしょ? もしそうしたら、代わりを見つけてくるの?」

 千寿はもしかしたら、一様ここに来たけどやっぱり断ろうと思っていたのかもしれない。

「それは……」

 ちとせは黙って下を向いてしまった。

 その場に沈黙の時間が流れた。


「俺はやるぞ」


 だからこそ、夏生はここで自分の気持ちを言えたのだろう。

「正気なのか?」

 千寿の表情は無表情だ。

「正気じゃいけないかよ?」

 夏生は、笑ってみせた。

「……君の頭がおかしいのは最初からわかっていたよ」

 千寿はため息を吐いた。

「いいじゃねーか、レモン頭。俺は面白そうだからやる。『もしも』がどうであれ、俺がやるんだからそれでいいだろ?」

「……それ、無責任じゃない?」

 明音がポツリと呟いた。

「なんだって?」

 夏生は、顔をしかめて聞き返した。

「面白そうだからやるって言ったけど、そんなこと引き受けて、もし失敗したら責任取れるの? 私は無理」

 明音は厳しい顔をして、下を向いた。

 明音も千寿もできるわけない……そう思っていた。

「何言ってるんだ?」

 夏生は、意味がわからないという声をあげた。

 明音は夏生の顔を見た。

「俺がやるのに失敗なんてするわけがないだろ? むしろ一年後にはこの劇場は大繁盛してるかもな!」

 夏生はそう言って高らかに笑ってみせた。

 こいつ馬鹿だ。

 明音も千寿もそう思ったが、同時に面白い、楽しそう、そしてワクワクを感じた。

「夏生君……! 一緒にここでショーをしてくれるの……!?」

 ちとせは目をキラキラさせて、前にのりだした。

 夏生はそれに応える……はずだった。


「はっ! 馬鹿なやつが、出来もしないことをできるとかなんとかほざいてやがるぜ」


 みんなが声のしたほうが振り返った。

 そこにいたのはここに集められた四人でもお昼ご飯を作ってくれたちとせの祖母でもなかったからだ。

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