第二話
ましろは、屋上の扉を開けようとする。
だけど扉は少し重くて、ましろはなんだかそれが壁のように感じた。
「……くっ、はぁ」
ようやく扉が開いた。
屋上に一步足を踏み出したとき、強くて暖かい風が吹いてきた。
自分の腕で顔を風から守ったましろは、目の前でこちらを向いて立っている一人の人を見つける。
二人は目があったまま、数秒間立ち止まっていた。
「ま、し……ろ?」
目の前の知らない人は、何故かましろの名前を知っていた。
それに驚いたましろは、何故か、自分の目の前に立っている彼女を昔から知っていると思ってしまった。
「あっ、すいません。私が知っている人となんだか雰囲気が似ているなって思って……」
目の前の人は少し慌てる素振りを見せている。
ましろは、呆然としていた。
けれど、彼女の口はしっかりと相手を認識していた。
「こ、と……は?」
「……えっ?」
雪谷琴葉も北本ましろも驚いたような顔で互いを見つめ合っていた。
時の流れが一瞬だけ遅くなった。
「ましろは、いつも屋上に来ているの?」
購買で売られていた鮭おにぎりを齧りながら、琴葉はましろの方を向く。
ましろは小さく首を振った。
「……今日、初めてきた」
ましろは、お弁当の中に入っていた卵焼きを小さな口に放り込んだ。
「そっか……。私、ランプのメンバーに会ったのは初めて。同じチームのメンバーなのに一度も会ったことがないの。ましろが初めて。不思議だね?」
ましろは黙って頷いた。
それから琴葉は、自分のご飯を食べ終わると空を見上げて、自分からは何も喋らなくなった。
やがてましろも゙自分の弁当を食べ終わる。
「琴葉……」
「どうしたの? ましろ」
ましろの頭の中では、一瞬迷いが生じた。
「明日も一緒に、ここでお弁当食べてもいい?」
琴葉は、目を少し大きく見開いた。
そして、ましろに小さな笑顔を見せた。
「うん。もちろん」
琴葉は一度立ち上がった。
そして、ましろに手を差し伸べる。
「私は、雪谷琴葉。高校一年生。よろしくね?」
雪谷琴葉の笑顔は、とても静かな音色がした。
そのときましろは、初めて誰かの笑顔が美しいと思えたような気がした。
「私は、北本ましろ……。よろしく」
ましろは、小さな声だけどちゃんと名前を言った。
「よろしく、ましろ」
「うん」
屋上を出て琴葉との別れ際に手を振ったとき、ましろの心は少しだけ晴れていた。
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