はじめましては檻の中(ミッドナイトランナー)
第一話
何かをはたくような大きな音が聞こえた。
音の源では、少女が頰をおさえて地面を弱く睨みつけている。
「ましろ、あんたこんな成績でいいと思ってるの!?」
少女の目の前では、鬼よりも怖い顔の綺麗な女性がいた。
彼女の目はどこか情熱的でどこか冷たい。
これが異世界にある魔王城とかだったら、皆がこの女性を美しいと讃えたかもしれない。
「中学受験にいくらお金をかけたと思ってるの?」
少女は無言でその女性の顔を見つめた。
その目は、どこか虚ろだった。
「ましろ、私はあなたに立派な大人になってほしいの。そのために、私は100万円単位であなたにお金をかけてきたの。わかるかしら?」
「……はい」
少女の肯定は、もはや表面上のものでしかなかった。
「わかってないよね?」
少女は再び黙り込んでしまう。
「ましろ、今すぐ勉強しなさい。あなたはこんなレベルの低い学校で満足するような人間じゃないのよ」
女性は、そう言って少女に笑いかけた。
少女の目は、更に虚ろに変わる。
「ちゃんと勉強すれば、ましろの好きなご飯を作ってあげる」
女性はそう言って、少女の頭を撫でた。
〜〜〜
「ましろー、おはよう!」
「おはよう」
「ましろ、今日提出の宿題写させて!」
一瞬、ましろは心の中で嫌だと思ってしまった。
しかし、それを押し殺して友達に笑顔を作った。
「うん、いいよ。はい、これ」
ましろは、この友達という存在が嫌いだった。
というよりも、この教室という空間がましろを息苦しくさせるもので溢れている。
少し窓の外を眺めながら何も考えないでいる。
「ありがとう、ましろ! やっぱりましろの字はきれいだね!」
「うん、ありがとう」
ましろの友達が去ったあとに、スマホを覗くとメッセージが届いていることに気がついた。
「……琴葉?」
ましろは、琴葉の顔を一度もみたことがない。
というより、ミッドナイトランナーの全員が互いの顔を知らないのである。
琴葉からのメッセージを開いてみた。
『今日の作業から私もシステムに入れるよ。何か頼みたいことがあればなんでも言ってね』
ましろは、無表情のままメッセージを閉じた。
その日のお昼休み、ましろは一人でお昼ご飯を食べるために、初めて屋上に上がった。
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