第四話

 隼人達は、さっきの合わせの反省をしながら練習をして、護が帰ってくるのを待っていた。

 しばらくして、部室の扉を開ける音がした。

「おい、お前ら」

 そこに立っていたのは、目の奥が燃えている月島護だった。

「あっ、月島先輩!」

 奏介は楽器を置いて護のところへかけていった。

 護はニカッて笑った。

「待たせたな……練習するぞ!」

 大地は相変わらずの無表情で、護を見つめた。

「お前ならすぐ戻ると思ったよ」

「ありがとな、大地」

 護はそう言って大地に手を振った。

「というか、戻って来るのが速いな。一回バンドから離れるかと思ってた」

 大地が少しニヤつきながらそう言うと、護は不満そうな顔をした。

「ああ!? なんで初日からバンドを離れるって選択肢が生まれるんだよ! しかも入れてくれって言ったの俺だぞ!?」

「へぇ」

 大地のニヤつきは止まらない。

 まだ、護に答えてほしいことがありそうだ。

 それを察したのかどうかはわからないが、護は恥ずかしがりながら言葉を続けた。

「それに、俺は自分のベースが下手くそだから上手くなりたいだけだっつーの」

 大地は少し表情を緩めた。

「……なんだかお前らしいな」

 護は、自分のベースを用意した。

「そんなことより、早く練習するぞ。後輩待たせるのはダメな先輩がやることだ」

 そう言って、再びニカッて笑った。


 ある程度バンドの練習をして今日はもう解散というところで、護は隼人に声をかけた。

「隼人。リーダーである俺の話、聞いてもらえるか?」

 護の真剣な表情に、隼人も゙黙って答える。

「……なんすか?」

 護は、このバンド全員を笑いながら見渡した。

「このバンド、なかなかいいメンツしてるよな?」

 隼人は表情を変えず即答する。

「俺もそう思います」

 護は明るい顔で、隼人の目を見た。

「どんな音楽ができると思う?」

 隼人も護の目を見た。

「……イカれた音楽じゃないすか?」

 すると、護は軽く吹き出した。

 今まで自分の片付けをしながら二人を見守っていた奏介と大地も笑いだした。

「いいこと言うじゃねーか。じゃあ、俺達の目標は、イカれたクレイジーな曲を極める! それでいいな?」

 隼人は意味がわからないという顔をした。

「はっ?」

 そして、隼人の理解が追いつく前に奏介が嬉しそうに飛び跳ねだした。

「おお! クレイジーなバンドってカッコいいっすね! なんか、めちゃくちゃモテそう!」

 隼人は助けを求めようと大地を見たが、それを期待できそうにはなかった。

 大地は満足そうに小さく笑っていたからだ。

「はぁ……まあ、いいんじゃないか?」

 大地も奏介も賛成していることに満足した護は、再び隼人のほうを向いた。

「だろ? お前もいいな、隼人?」

 隼人は、自分の髪をモシャモシャし始めた。

「……ああ! クソッ! そういうことを言うのは自分の演奏が上手くなってからにしろ!」

隼人が護を睨むと、彼はニカッて笑った。

「おっしゃー! じゃあ帰る前にバンド名決めるぞ!」

 護がそう言うと、奏介がビシッと手をあげた。

「はい! 俺に決めさせてください!」

 なんだかろくなことにならない気がすると、隼人は思ったが……。

「おっし! いいぞ、奏介。何がいいんだ?」

護の言葉を合図に、奏介は息を吸った。


「俺達は、鳥だー!」


「良かったろくなことにならなかった」

 隼人は思わず呟いてしまった。

「ひどくないか!? その言葉!」

 奏介は隼人に驚いた表情をしてみせた。

「で、それがバンド名か?」

 大地は静かに奏介に問いかける。

「あっ、違うっす。俺がモテるために考えた最強のバンドの名前は……」

 奏介は、今度は静かに言った。


「We Are Bird」


 奏介の言葉を理解する時間が三秒。

 そして、他の三人は全員笑い出しはじめた。

「あっはっは! いいじゃねーか! なかなかクレイジーな名前だ」

 護はそう言って、奏介の肩を叩いた。

「大地も隼人も、これでいいだろう?」

「ああ」

 大地は短く一言。

「もうなんでもいいや」

 隼人はそう言って、ニカッて笑った。

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