We Are Bird OPstory
俺は別に、音楽とかそういう文化的なやつに興味を持っていたわけではなかった。
どっちかって言うと、体を動かすことの方が好きで、学校から帰るとすぐに友達とどっか鬼ごっことかして遊んでいた。
あれは、小学四年生の時だった。
おじさんが、俺にライブのチケットをくれたのだ。
それも最前席のやつを。
おじさんは、有名で人気のバンドに所属していて、そこでボーカルをやっていた。
バンド、ボーカル、それらの言葉は当時の俺にとって何かのゲームの呪文のようだった。
実際に見て思った……いや、感じた。
あの熱狂、あの感動、あの空気を。
小学四年生のガキなんて、将来の目標を持ってないのは当たり前だ。
だって俺もそうだったのだから。
だけど、俺は知ってしまったのだ。
そのライブは、俺をバンド……音楽の道に進ませるのに、十分美しい景色だったことを。
〜〜〜
ある日、軽音楽部の部室の扉を爆発音のような大きな音を立てて開ける奴がいた。
奴は自分の足音を軽く、だけどしっかりと響かせている。
足音の行き先は、隼人の方を向いていた。
「お前が栗橋隼人だな?」
なんだこいつ。
隼人は奴のまとう雰囲気と行動を警戒した。
だって、いきなり部室のドアを開けて自信満々に自分の方に歩いてきたのだ。
怖くないというほうが嘘になってしまう。
「そうだが……見学者か?」
隼人は恐る恐る彼に聞いた。
「……フッ」
な……笑った……だと。
隼人は目の前の゙人の意味がわからない行動にうろたえて、変な感じで身構えた。
「俺は柿生奏介! 女子にモテるため、バンドをやろうと思う! 栗橋隼人、俺と一緒にバンドを組んでくれないか!?」
も、モテるためバンドを……?
何バカなこと言ってるんだコイツは。
しかし一度隼人は首を横に振った。
奏介は確かに馬鹿なのかもしれない。
しかし彼は自分の気持ちを初対面である隼人に素直に伝えた。
隼人は、それに応える必要があると感じたのだろう。
隼人はさっきの奏介のようにフッと笑った。
柿生奏介が自分に羨望の眼差しを向けているのを、栗橋隼人は感じた。
隼人は息を吸う。
そして、それを吐いた。
「やだ」
俺のその一言で、彼からの眼差しが止んだ。
どうやら柿生奏介の脳内コンピューターはフリーズしてしまったようだ。
この三秒間でずっと「な」だけを言い続けてる。
「な、なんでだよー!」
奏介の叫び声が部室中に響いた。
……いや、なんでも何もねぇだろ。
隼人は呆れてしまったようだ。
奏介が落ち着いたところで、隼人は言葉を続けた。
「俺は今忙しいんだ。バンドなら、そこら辺にいっぱいいる暇そうな奴らと組めばいいだろ」
隼人がぶっきらぼうに答えると、奏介は首を横に振り、隼人の顔を真剣な顔で見つめた。
なんだか目が座っているように見える。
さっきまで騒いでいたのに、変化が激しい。
「栗橋、お前に聞いて欲しいことがある」
隼人は何も反応しないで奏介の目を見た。
「俺は真剣にバンドをやりたい」
……何言ってんだ、こいつ。
隼人はそう思ったが、黙ることにした。
「真剣にバンドをやるためには、真面目な奴が必要だ」
それに関しては正しいのだろう。
隼人には一緒に真面目に練習してくれる仲間がいない。
だからこそ、度々彼もそれを思う時がある。
だが、こいつが真面目にバンドをやりたいというところが、隼人にとって意味がわからないのだ。
「そして、いろいろな情報を調べてわかったことがある」
「なんだよ、それ」
その言い方をされると、流石に隼人も気にならないわけにはいかなかった。
こんな腑抜けの掃き溜めみたいな場所に、何かあるというのだろうか?
「それは……この部活で真面目に練習している奴は、お前だけということだ!」
その言葉に、隼人は少し胸が痛くなった。
この学校の軽音楽部では、基本的に幽霊部員か、部活に来ても遊んでいるやつしかいない。
そんな中で、一人コツコツと練習している奴がいた。
栗橋隼人だ。
そして、そんな奴は異端としてしか扱われない。
最初の頃は俺のことを馬鹿にする奴もたくさんいた。
だけど今は、馬鹿にするやつなんていないどころか、俺はこの部活にいないものとして扱われている。
隼人はもう一度、奏介の顔を見た。
「真面目にバンドをやろうとしているのに、そこら辺にいっぱいいる暇そうな奴らと組んだところで、意味がねぇ」
……そうか。
確かに隼人は、コイツがやばいやつだと思って真っ向から否定していた。
でも、確かに奏介に関してこう考えることもできる。
目の前で真剣な顔で話すコイツは、ただ馬鹿真面目なだけなんだなって。
「俺がモテるために必要なのは、お前みたいな馬鹿真面目なやつだからな!」
奏介は腰に手をあてケラケラと笑った。
バンドを組めるのはありがたい話だが。
「モテることを目的にバンドをやるやつと、俺は組みたくない」
それと、お前にだけは馬鹿真面目と言われたくない。
隼人は、心の中で叫んだ。
「なんでそんなこと言うんだ!」
柿生は膨れ面をした。
そんな時、またしてもこちらに近づいてくる足音が聞こえた。
「面白そうな話をしてるじゃねーか、隼人」
声のしたほうを向くことすらせず、隼人は小さくて深いため息を吐いた。
面倒くさいやつがやってきたからだ。
「む? お前ら誰だ?」
奏介とこの人だけは会わせたくなかった。
隼人はそう思ったが既に時は遅かった。
「俺達か?」
面倒くさいやつは、ポーズを取り始めた。
この面倒くさいやつは、自分のことをイケメンだと思っている節がある。
「俺は月島護。軽音楽部の副部長だ。で、こいつは稲毛大地」
月島先輩は、稲毛先輩を指さした。
「どうも」
稲毛先輩はいつも通り笑わずに、小さくお辞儀をした。
「そのバンド、俺と大地も入れてくれ」
隼人は驚いたと同時に、この状況に対して何も言うことができなかった。
てっきり、珍しい出来事に対して冷やかしに来たのかと思ったのだが。
というか、バンドに入れてくれ?
バンドをやるなんて、一言も言ってないぞ!
またしても、隼人は心の中で叫んだ。
「やった! これでバンドが結成できるぞ!」
その横で柿生が嬉しそうな顔をして、喜んでいる。
「ああ、俺がベース担当で大地がドラム。お前、確か柿生って言ったな。モテるためにバンドをやろうとするなんて、面白いやつだ。キーボードかギターはいけるか?」
「ああ、おれギターは弾いたことないけど、キーボードはいける! 実はこう見えて、俺はピアノが得意なんだぜ」
「おっし、決まりだな。栗橋の歌声はカッコいいし、大地のドラムは迫力がすごいからな。楽しみにしてろよ」
「望むところだ!」
バカ二人の喜びあう声が聞こえる。
隼人は考えることを諦めた。
「隼人」
呆然としていたところに声をかけられた。
「なんすか、稲毛先輩」
稲毛先輩は、小さなため息を吐いた。
「申し訳ない。だが、月島はバンドをちゃんとやりたかったんだ。あいつを許してやってほしい」
月島先輩がバンドをちゃんとやりたかった?
稲毛先輩は、まともな人かと思っていたがどうやら違うらしい。
いや、まともな人だったら、月島先輩とつるまないか……。
「隼人、正直言って俺もお前と似たような気持ちだ。一人でマイペースにやりたい。だけど」
稲毛先輩は、そこで言葉を区切り、バカ二人を見つめた。
「バンドは一人じゃできない。それはお前もわかってるだろ?」
先輩の顔は無表情だった。
隼人も彼らを見た。
「急にそんなこと言うなんて気持ち悪いですよ、稲毛先輩」
「そういうところだ」
こうして、新しい学年になって突如として、隼人達のバンドが始まった。
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