第26話 一本の映画のような漫画

 今回も漫画の紹介です。

 紹介するのは、ただ好きなだけではなく、ぼくの創作にもかなりの影響を与えていると思われる藤田和日郎先生の「邪眼は月輪がちりんに飛ぶ」です。


 もちろん、大ヒット作の「うしおととら」や「からくりサーカス」も大好きで、語りたいことはたくさんあるのですが、この二つは知っている人も多いと思うので、今回はこちらを紹介しようかなと。


 ちょっと、本題に入る前に寄り道をしますが、もう15年以上は前のこと。ひょんな縁でビッグコミック・スピリッツの編集の方とお近づきになって飲んだことがありまして、その時、藤田先生のファンなんですよーって話をしたらこの漫画の話になったんですよね。


 ビッグコミック・スピリッツで短期集中連載をして、ちょうど単行本一冊になるように作られた話なのですが、一本の映画を見たくらいのボリューム感で、小説の長編を書く人にも参考になると思うんですよね。


 初版は2007年5月だそうでして、ちょうど、「からくりサーカス」の連載が終わった後に描かれたみたいです。今が2024年なので、自分自身も思えば年を取ったものだなあとも思ったり(^^ゞ


 藤田先生の作劇の特徴というと、やはりキャラクターの立て方がとてつもなくうまいということかと。キャラクターの抱える葛藤とそれを克服し、変わっていく様をうまくストーリーに落とし込んでいるのですが、本作もまさにそんな感じです。


 あと、青年誌での短期集中連載ということもあってか、少年サンデーで連載された「うしおととら」や「からくりサーカス」と比較すると、主人公のやせ我慢の美学、プロとしての矜持といったハードボイルドなテイストが多く盛り込まれています。少し大人な雰囲気と言えばいいのでしょうか。


 主人公の鵜平うへいは、仙人と呼ばれる伝説的な狩りの名人です。ある日、突然現れた見たものを殺すフクロウ「ミネルヴァ」と鵜平の熾烈な戦いが繰り広げられる訳なのですが、このフクロウ、テレビ越しに目が合っても殺されてしまうんですよ。じゃあ、どうやってこいつと戦うんだ?というと、鵜平には対抗できる秘密があるんです。ここには書きませんが笑


 全編を通じ、ミネルヴァと鵜平との戦いを軸に、共に戦うCIAのケビンやデルタフォースのマイク、祈祷師である娘のりんがいい味を出していて、チームの織りなす人間模様もいいんですよ。ふとした時の掛け合いや表情が胸を打つし、自然にドラマを作っていくんですよねえ。そして、彼ら脇のキャラクターの持つバックストーリーがね、物語に深みを増すという。


 小説の長編を書く人にも参考になると思うと書きましたが、カクヨムで創作をしている人にはホント、おすすめです。機会があったら、ぜひぜひ読んでみてください!


※創作の参考と言えば、藤田先生には「読者ハ読ムナ(笑)」という本があって、先生の作劇のコツや手法が惜しげも無く公開されています。小説家を目指している人にも参考になるはずですし、ファンは特に必読かと。

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