第15話 解散
「なになに~、雨海くん、綾垣さんと仲良くなったの?」
今週の水曜会にて、瑠香は突然そう切り出した。
「あぁ、俺もいよいよぼっち卒業かもな」
俺は努めて冷静に振る舞う。なぜ瑠香がそんなことまで知っているのか、突っ込んではダメだ。
「な、な、な……雨海先輩に、女友達……?」
あゆみは口をパクパクさせている。今にも気絶しそうだ。
「私というものがありながら! そんな不貞を働いたんですか!」
あゆみは俺の肩を掴んで揺らしてくる。隣の席に座るんじゃなかった。
「いや、あゆみは俺の彼女じゃないだろ。水曜に集まるお茶飲み仲間だ。そんな不倫したみたいに言われても困る」
「まぁ確かに。別に私たちの承認がないと友達作っちゃいけないわけじゃないんだし? ここは受け入れるしかないでしょ」
そういう千波もカップを持つ手が震えている。そんなに俺に友達ができたことが衝撃か。
「一歩成長だね、真一」
玲奈はまともに褒めてくれた。
「ふぅん。でも、どんな人か気になるなぁ。私が面接してもいい? 雨海くんに悪い虫が付いたら大変だし」
瑠香は俺の保護者みたいなことを言い出した。
「いや、そこまでしなくていい。それに、やっと普通の人間関係が作れそうなんだ。ここは遠くから見守っていてくれないか? なんか困ったらアドバイス頼むよ」
「私たちとお茶するだけじゃ、まだ物足りないの?」
瑠香は悲しそうな表情で詰め寄ってくる。
「だったら、私が付き合ってあげるよ。うん。それがいい。私が雨海くんの彼女になってあげる」
「瑠香、何を言って……」
俺は困惑しかける。こっちの言葉が届いていないようだ。
ここは落ち着いて対処しなければ。
「自分を安売りするな。だいたい、お情けで彼女になってもらったところで、俺は嬉しくもなんともない」
「そうよ、瑠香。こんなことはやめなさい!」
千波が珍しく声を荒げる。
「真一に自分を差し出して事態の沈静化を図る……まるで人身御供ね」
玲香は怒りを滲ませ吐き捨てる。
いや、そうなんだけどさ。人身御供って、ひどくないか? 俺は荒ぶる疫病神かよ。
「瑠香、あんたは真一の尊厳を踏みにじった。謝りな」
玲奈はそう要求した。
「なんで? 私は雨海くんのためを思って言っているんだよ? なに? 玲奈こそ雨海くんを私に取られるのが嫌なの?」
「バカにしないで。真一を彼氏にしたいと思うほど、男には困ってないから」
さらっと酷いこと言うな。地味に傷ついたんだが。
「もういい、この会抜けるわ。私は仲間内で楽しくやってるわ」
「それがいいわね。友達とも言えない連中に囲まれて、一生お嬢様ごっこやってろ」
「フッ、」
瑠香は鼻で笑うと、紙幣をテーブルに叩きつけて帰っていった。
殺伐としてきたどころじゃない。完全にダメなやつだ、これ。
確実に水曜会は解散だろうな。
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