第14話 ハイブリッドぼっち

 結局、昼休みの終わりまで粘っても、千波たちは来なかった。


「緊急招集とか言っといて、誰一人来ないのかよ」


 あの四人は簡単に約束を破るような奴らではないんだがな。何かあったと考えるべきか?


「仕方ないでしょ、何か急な都合があったんだよ」


「四人同時にか?」


「ハァ、状況分かってないんだね。藤堂瑠香さんはこの学園の10%の生徒を自らの手駒にしている。食堂に来れないよう妨害されてるんだよ」


「そんなこと……ありえそうだな」


 信じたいところだったが、いかにも瑠香のやりそうなことだ。


「でしょ?」


 綾垣は不快そうに顔を歪めた。


「雨海くんの知り合いを悪く言いたくはないけど、『陰キャ育成計画』の実験台に使われているだけだと思うよ?」


「いや、あいつらに限ってそんなことは……」


「ありえるでしょ。ここまでして学校中を手玉に取ってくるんだよ? きっと、カースト中位以下の私たちのことなんか、おもちゃとしか思ってないのよ」


「そんな感じはしなかったんだけどなぁ」


 というか、綾垣は自分のことをカースト中位だと思っているのか。食堂でぼっち飯な時点で、俺と同類だと思うんだがな。


「……なに、その目は。私を疑ってるの?」


「いや、やっと同類に出会えたと思ってさ」


「すごく不名誉なことを言われてるのは分かった」


 午後の授業の予鈴が鳴り、俺たちはさっさと教室に戻ることにした。


「とりあえず、水曜の集まりには引き続き顔を出しなよ? 変な動きをすると却って怪しまれる」


「なんか、知り合いを裏切ってコソコソしてる感じが嫌なんだが」


「仕方ないでしょ。これも対等な人間関係を築けるようになるための一歩なんだから」


「そうだな」


 俺は当座のところは納得しておいた。まだ綾垣を信用したわけではないが、瑠香の脅威に対抗するには必要な仲間だ。


 そして、教室へ向かう道中で気づいた。


「綾垣さん、同じクラスだったのか……」


 ぼっちを極めすぎてて気付かなかったな。


「そうだよ。いくらなんでも、クラスメイトを認識していないのはどうかと思う」


 人間に無関心すぎるのも考えものだな。


「教室には一旦別れてから入ろうか。色々噂立てられても面倒だし」


「そうだな。って、あれ?」


 綾垣は、普通に女子グループの輪に入っていった。しかも、普通に友達と喋っている。全然ぼっちじゃないじゃん。


「瀬名、今日のお昼どこ行ってたの?」


「うん、ちょっと用事があってね」


 一人の時間も確保しつつ、自らのクラス内での地位も守っているのか。そういうハイブリッドなやり方もアリだな。

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