第12話 束の間の青春
翌日。
俺が教室に入るなり、皆一斉にこちらを向いた。
そして、石谷とかいう例のいじめっ子がこちらに向かってきた。
また見苦しい罵声でも浴びせてくる気か? ぼっちの俺にそんなことを言っても、暖簾に腕押しだがな。
「どうしたよ?」
「申し訳ない。今までの非礼を詫びさせてくれ」
意外なことに、謝罪の言葉だった。
何が狙いだ? 皆の前で謝罪して、裏で俺への中傷を続けるためのパフォーマンスなのか?
いや、あるいは、瑠香の差し金か。
瑠香ならこのくらいのこと、やりかねない。どんな手を使ったのかは知らないが。
「……まぁ気にしてないから大丈夫だ。頭を上げてくれ」
俺はひとまずそう告げて許した。『誰の差し金だ?』とか言って追及しても無駄だろうしな。
石谷はペコペコしながら席へと戻っていった。ふざけて演技をしているわけではないようだ。俺が見た限りでは、本心で謝罪しているようだった。
「雨海のやつ、意外とやる時はやるんだな」
「貝塚くんはちょっと暴走しかけてたけど、雨海くんは常に動じないって感じがいいよね」
あれ。
もしかして俺たち、褒められてないか?
これはこれでなんか嬉しい。
やはり、普段ぼっちを気取っていても、心の奥底では他人からの承認を求めていたというわけか。人というものは、完全に孤独では生きていけないようになっているらしい。
「雨海くん、よく見たらイケメンだし」
「穏やかだけど芯がしっかりしてて、大人な感じがカッコいいよね」
いいぞ。
その調子でもっと褒めてくれ。
俺は顔がにやけるのを必死に抑えつつ、悦に入っていた。
これはモテ期到来と考えていいだろう。俺の青春は、ついに今始まったというわけだな。
そんなこんなで授業の合間の10分休みに突入すると、千波が教室の外から手招きしているのが見えた。
「どうした千波?」
「まさかとは思うけど、真に受けて調子に乗ってないでしょうね?」
え。真に受けちゃいけなかったのか?
「どういうことだ?」
「あんなの、裏で瑠香が手を回したに決まってるでしょ。うちのクラスにも真一の信者みたいな連中が突然湧いて、気持ち悪いことになってるんだから」
「まさか俺、ご機嫌取りされてるってことか?」
「それに近いわね。真一の学校内での地位を上げて、二度といじめの標的に出来ないようにしたいんでしょ」
マジか。瑠香のやつ、やる時は徹底的にやるんだな。
「とにかく、グループチャットに緊急招集のメッセージ流したから。いつものメンツで食堂に集合ね!」
「は、はぁ」
俺の青春、短かったな。
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