第11話 ペット扱い

「……ということがあった」


 翌週の水曜会で事の顛末を話すと、皆感心したように頷いた。


「立派な人ね。貝塚くん」


「フフッ、声が掠れたとか、真一ダッサ!」


「先輩も見習ってください」


「良い友達になりそうじゃん」


 付け加えると、例の「死んでくれよ」発言には触れていない。四大美少女に知られると面倒だろうしな。


「あれ? 藍川さんじゃん。こんなところにいたんだ。てか、」


 見ると、例のキョロ充グループのいじめっ子が近くの席にいた。


「なんでそんなネタコミュ障と一緒にいるの? まさか、陰キャをいじって遊ぶのが趣味?」


 面倒なことになったな。今度はファミレスじゃなく、高級料亭の個室でも予約するか?


「あんたらには関係ないでしょ」


 千波が冷たく答えると、相手はニタニタと笑いだした。


「さすがは四大美少女様だな。底辺庶民をおもちゃ扱いなんて贅沢な遊びだ。俺たちも混ぜてくれよ」


 玲奈は無表情のまま静観している。あゆみは今にもぶちギレそうだが、2年生男子が相手だからか、尻込みしているようだ。瑠香の方はスマホを弄っている。全く意に介していないらしい。


「うるさいな、ハウスハウス!」


 全く。とんだ邪魔が入ったものだ。


 俺はしっしっと手を振り、追い払う。あんまり物々しい雰囲気にならないよう、冗談めかしてみた。


「なんだそれ? 俺たちを犬扱いか? ペットにされてんのはお前の方だろ?」


 逆に怒らせてしまったようだ。失敗したな。やはりぼっちを続けているとこういう感覚が鈍ってくる。仕方ない。ここはもう少し強気に出るか。


「ハウスと言ったはずだ。二度も言わせるな」


 そう口にした瞬間、胸ぐらを掴まれた。ったく、ちょっとカッコつけすぎたな。


「ナメんのも大概にしろよ? お前みたいなネタコミュ障、誰も相手にしないからな。底辺は隅っこでおとなしくしてろ」


「なんだよ。貝塚や俺に言い返されたのがそんなに癪に障ったか?」


「てめぇいい加減に……」


「あ、石谷くんいた!」


 突如として女子の嬌声が聞こえてきた。


「一緒に帰ろうよ、あんな奴ほっといてさ」


「お、おう。船見から話しかけてくるなんて、珍しいな」


 なんだ。こいつこの船見とか言う女子が好きなのか? なんか赤面してソワソワしているし。まぁ確かに、水曜会のメンツほど華やかではないが、可愛い部類ではある。


「今日はこのくらいにしといてやる」


 そう言い残して石谷たちは帰っていった。しかしリアルでこんな台詞言う奴、初めて見たな。


「瑠香、何かしたでしょ?」


 玲奈が指摘する。


「船見さんは私の『友達』なの。だから助けてくれるよう『お願い』しただけ」


【盾】に【命令】したの間違いじゃないのか? とはいえ、助かった。あのままじゃ、暴力沙汰に発展していたかもしれないしな。


「すまない、助かったよ。瑠香」


「雨海くんの身の安全が第一だからねぇ」


「ありがとう。来週からは場所変えるか」


「なんで私たちの方が移動しなきゃならないの?」


 驚くほど冷たい声で瑠香が訊いてきた。


「え?」


「勝手に後をつけて乱入してきたのは向こうでしょ。私たちは今まで通りにしてればいい。私がそうできるようにしておくから」


「できるようにしておくって……瑠香、いったい何をする気で……」


「心配ないから」


 俺の言葉はぴしゃりと遮られた。


「私が全部なんとかするから。雨海くんはなにも心配しなくていいの」


 怖い。怖すぎる。


 一体どこまでやるつもりだ?


 その後、皆も何事もなかったかのように会話を続ける気にはさすがになれず、すぐにお開きとなった。


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