第8話 無意味な陰口

 次の日。


 騒がしい教室を尻目に、俺は校舎に外付けされた非常階段に腰を下ろした。ぼっちを続ける以上、教室と屋上以外の昼食スポットも見つけねばならない。


 教室だとまた悪口だけ言って去っていく奴が現れそうだし、屋上ではやたらと告白シーンに遭遇するので、落ち着かない。それに、千波にあんな警告をされたばかりだしな。


 風が吹き、グラウンドの砂が舞う。こっちまで飛んできたので、白飯に少し砂がかかった。


「……このスポットはイマイチだな」


 新規開拓の道のりは険しそうだ。


「それでさ、なんか藍川さんたち、どっかの男子を連れ出して遊んでるらしいよ?」


「何それ。ハーレム状態ってこと?」


 なんかドア越しに女子の会話が聞こえてくる。千波の陰口か。


 聞きたくないのでどっか行こうかと思ったが、奴ら、肝心のドアに寄りかかりながら喋っているようだ。出るに出られない。


「いやいや、そんなわけないでしょ。C組の雨ナンタラとかいう地味な奴。陰キャをからかって遊んでるんだって!」


 話題に出すなら俺の苗字くらい認識しとけよ。


「うわ、趣味悪っ! でもあんな美少女にならいじめられてもご褒美ってことなのかね?」


「うわ、だとしたらキモい!」


 そんなことを話していた。


 全く。千波のことを悪く言うのはいい。あいつの名声は確固たるものだしな。


 だが俺の悪口を聞こえる場所で言うのは止めてくれ。地味に傷つく。ぼっちの陰キャを貶めても、これ以上地位の下がりようがないぞ。だが、確かに俺はスクールカースト最底辺というか、カースト外の人間だ。ピラミッドの底辺ぶち抜いて地の底に埋まれということなのか。


 ひとしきり喋ったあと、女子二人は去っていった。


「全く。どうやらこの学校に安全な場所はないようだな」


「そりゃ、先輩のようなぼっちのための設計にはなっていないですからね」


「うわ、あゆみ! 居たのか!」


「ちょっと胸くそ悪い声が聞こえたので、隠れてました」


「そ、そうか。まぁ、そんな気にするなよ? あんな戯言」


「気にしませんよ。私たちに対して悪い噂流したところで、なんの意味もないですし」


 やはり、四大美少女の地位はそれだけ堅固だということか。


「私たちにならいじめられてもご褒美だという点は、事実ですしね」


「なんかすごい誤解されてる気がするんだが。俺にそんな趣味はないぞ」


「え? 嬉しくないんですか? 私のような可愛い後輩と話せるだけでなく、いじめてもらえる……全男子の夢なのでは?」


「その歪んだ認知、どうにかした方がいいと思うぞ」


 あんなことを言われてもあゆみの高慢ぶりは健在のようなので、俺はひと安心した。

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