第6話 女子って怖い

 俺が哲学の入門書と格闘しているうちに休日は終わり、あっという間に翌週の水曜がやって来た。


「なんか真一、元気ないわね」


 となりに座った千波が顔を覗き込んでくる。


「俺はいつもこんなだよ」


 ぼっちが溌剌としていてもなんかおかしいだろう。


「私と会える週一の楽しみの時間がやって来たというのに、嬉しくないんですか?」


 あゆみはいつになく恩着せがましいな。


 だがまぁ、楽しみであるのは事実だ。


「それより瑠香……大変だったわね」


 千波が瑠香を心配して声をかける。


「別にぃ? 皆が私を庇ってくれたから、なんともなかったよ?」


「本当に? 何か陰口を叩かれたんじゃないの?」


「全部私の『友達』の皆が掻き消してくれたから大丈夫だよ」


 瑠香の言う『友達』という言葉を信用してはならない。傍から見ていれば分かるが、彼女は『親友』と『友達』を明確に分けている。


「やっぱり、『人は城、人は石垣、人は壕』って名言は、真理だねぇ」


 訂正しよう。瑠香は、『人間』と『石垣』を明確に分けている。『石垣』、いや『盾』と言ってもいい。瑠香の取り巻きは彼女を守り、庇い、引き立たせ、時には身代わりともなる捨て駒でしかないのだ。


 ドン引きの実態だが、友情にも色々なかたちがあるし、そこはとやかく言うことではないだろう。


 にしても、俺はぼっちなので巻き込まれなかったが、喜んで利用されている連中の気が知れない。


「雨海くんこそ巻き込まれないでよ?」


「大丈夫だろ。俺に関心がある奴なんていないだろうし」


「でも、お昼ごはん中に見ず知らずの女の子から悪口言われたりとか、したんじゃないの?」


 こいつ、なんでその事を知っていやがる? 一瞬の出来事だったというのに。なんだかあの見ず知らずの女子が心配になってきたな。


「アハハ、大丈夫だって! 雨海くんのためとはいえ、その子をいじめたりはしないよ?」


「あ、あぁ。そうだよな」


 俺を口実にいじめを始めるなんて、冗談でもやめてくれ。


「あゆみが心配してたのよ。瑠香が告白を断ったせいで、男子同士のいじめが巻き起こるんじゃないかって」


 千波が事情を説明する。


「それに関しては、私には関係ないから大丈夫でしょ。だって私はただ、告白を断っただけだし」


「そうよね、でもね……」


「あーあ、そんな辛気臭い話つまんないなぁ。もっと楽しい話しようよ? 雨海くん、なんか面白い話して?」


「雑なフリだな。俺は芸人じゃないんだが」


「ハァ、そうやって茶化すんだ。ホント、瑠香のそういうとこ嫌いじゃないわ」


 沈黙を貫いていた玲奈が口を開く。


「そう、嫌いじゃないならよかった」


 皮肉をものともせず、瑠香は笑顔を崩さない。なんか今日の水曜会、殺伐としてるな。


 玲奈が言っていた通り、男子とて人のことは言えない。だが敢えて言おう。


 やっぱり女子って怖い。

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