第3話 スクールカースト外の男
週一回、水曜日にだけ集まるこの五人の会は、今のところ誰にも知られていない。学生にしては高めの価格帯のファミレスでやっているためでもある。だが全員、別にバレても問題ないというスタンスなので、隠す気もない。
千波の彼氏役の件も、すぐに別れたと千波が公言したため、俺に迷惑がかかることはなかった。
「これでいつも通り、だな」
俺は相変わらず屋上にでも行こうと思ったが、先客がいた。
瑠香ともう一人、男子生徒だった。確か3年の先輩だったか? 年上にまでモテるとは、瑠香のやつ、さすが水曜会(俺が勝手にそう呼んでいる)のメンバーなだけある。
一瞥してすぐ引き返したので、向こうには気づかれなかった。
俺は仕方なく自分のクラスに戻り、教室のど真ん中でぼっち飯をキメることとした。屋上が使えない以上、こうする他ない。
「んだよ、ぼっち飯なら便所でしろよ」
「コミュ障のくせに生意気だな」
「いい加減友達作ればいいのに」
そんな陰口が耳に入ってくる。
おい。
陰口ならいくらでも言っていいが、せめて俺に聞こえないように言ってくれ。地味にメンタルが傷つく。
大体、なんでぼっちは便所飯しないといけないんだよ。そんなマネをするくらいなら死んだほうがマシだ。
俺にだってそれくらいのプライドはある。
俺がそんな連中を無視して弁当を広げると、知らない女子生徒が俺の目の前にやってきた。俺は食事に集中したいのだが、気になるので目を合わせる。すると、
「フッ、キモ」
そんなセリフを吐いて、女子生徒は去っていった。
何だったんだ? 今の?
そんな戯言を言うためだけに俺の席を訪ねるとは、とんだ物好きもいたものだ。
だが思い返せば、本当に気持ち悪がっているというより、ただ見下すためだけに言っているようだった。その証拠に、不快そうな顔というより、得意げな表情をしていた。
まぁそんなことはどうでもいい。ぼっちになって手に入れた自由と引き換えに、悪口雑言の類を引き受けるのは避けられないことだ。気にしていては始まらない。
俺なんかを見下して優越感に浸ることができるなんて、おめでたいことだ。ぼっちながら今日も人の役に立ってしまったな。
母親お手製の弁当を完食し、弁当箱をナイロンのケースにしまう。高2にもなって毎朝弁当を作ってもらえるとは、ありがたい話だ。そんなありがたい代物を便所で食べるなんて、やっぱりありえない。作ってくれた人の恩に報いるためにも、最高の形で食したい。
まぁ、うちの母親は『友達と一緒に食べてほしいんだけど』と常々言っているので、肝心の作り手が望む最高の形では食べられていないのだが。
それは仕方がない。ぼっちにはぼっちなりのプライドがある。クラス内で固まってしまった友達グループに今さら割って入ることなど、恥ずかしくてできるわけがない。どうしようもない現実もあるのだ。
腹ごなしに校内を散策することに決めた俺は、男子学生がじゃれ合う吹き抜けスペースを通り抜け、校庭へ出た。バスケやサッカーに熱中する男子や、単に固まって駄弁っている女子らが目に入る。ぼっちには眩しい光景だな。
途中で瑠香や玲奈とも目があったが、すぐに目を逸らされた。それもそのはず。昼間の学校では無関係を装ってほしいと、俺からお願いしているからな。
だが、そんな人間観察に興じていると、誰かに袖を引っ張られた。
「ちょっと先輩、こっちへ」
「え、あゆみ? どうしたんだ?」
「いいから!」
後輩女子の天堂あゆみに、体育館裏に連れ込まれてしまった。
「なんか、嫌な感じしませんか?」
「なんのことだ?」
「先輩の学年全体のことですよ! なんだかギリバレない程度のいじめが起こりそうな気がします」
「そうだな。俺もさっき見ず知らずの女子に『キモッ』て言われたし」
「いや、そういうことじゃなくて。っていうか、ぼっちになったのは先輩の意志なんですから、それくらい受け入れてください?」
冷たいこと言うなぁ。とはいえ、受け入れてはいるのだが。
「先輩はご存知ないかもしれませんが、今日瑠香先輩が3年の男子を振ったんです。それで部活の後輩たちに八つ当たり。で、件の後輩はクラスのいじられ役相手に憂さ晴らし。いじめの火種ですよ、こんなの」
「で、俺になんとかしろと?」
確かに、スクールカーストのアウトサイダーたる俺なら、グループや階級に縛られず自由に動ける。毒を以て毒を制すをいうわけか。ならば仕方な……
「いや、そんなこと期待してませんよ。だいたい、私達としかまともに会話できない人が、そんな芸当できるわけないじゃないですか。巻き込まれないように注意してくださいってことですよ」
「……だよな」
水曜会の議題に上げてみるか。俺はともかくとして、水曜会のメンツは交友関係が広い。そういうの気にするだろうしな。
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