第2話 一生に一人
「でも、男子の中で一番話しやすいのは確かね」
これまた喜んでいいのか分からないな。
「それってナメられてるってことだよなぁ……俺も身体鍛えて、威圧感バンバン出していったほうがいいのかな……」
「らしくないわね、真一。大体、ナメられたくないから威圧感出すなんて、発想が不良のそれよ。ナメられても毅然とした態度でいるのが、男らしい在り方というものよ」
千波の言うことも確かに一理ある。本当にプライドの高い人間は、いちいち他人の評価を気にしないしな。
「そうですよ! 私達という存在がありながら、これ以上何を求めるというんです! 男子たる者、こんな可愛い後輩とお茶できれば十分でしょう?」
あゆみが詰め寄ってくる。なんか男子高校生に対するすごい偏見が混じってる気がするんだが。
「確かに十分ではあるが……俺はもっと上を目指したいというか……」
「上? なんですそれ? まさか女子とお茶する以上の関係になりたいというんですか? それ以上の行為、要するにいやらしいことをしたいというんですか!」
あゆみは俺の肩を掴み、揺さぶってくる。妄想を展開しすぎだ。なんか面倒だな。
「いや、そうじゃなくて、人格を磨きたいということだよ。俺がぼっちなのも、要するに他人に興味が持てないからだ。それに、コミュニケーションの技術を磨いてくることもしてこなかった。俺の精神面に根本的な問題があるということだと思うんだ」
「でも、私達とは普通に話せてるじゃん?」
瑠香が指摘してくる。だが、そんな単純な問題ではない。
「いや、普通に喋れはしても、深いところで繋がれない気がするんだ。なんというか、価値観を共有できる盟友とか、心の底から愛し合える異性とかは、俺には一生できないんじゃないかって……」
一瞬、場を沈黙が支配した。しまった。俺としたことが、卑屈になりすぎたか?
だが、これは自虐でもなんでもなく本心だ。別に大げさなことを言ったつもりはない。
「そんな関係性の人、一生の間に一人できれば十分でしょ? そんなのめぐり合わせの問題なんだからさ、気にしない方がいいって」
玲奈がそう言ってくれた。確かに。そう簡単にできるものではない。そう考えると気が楽になったが、それでも一抹の寂しさは残る。
「ありがとう。なんだか気持ちが楽になったよ」
俺は努めて明るく感謝した。
「じゃあ今日は真一の奢りね」
千波はそんな図々しいことを言ってきた。
「いや、彼氏役させといてそれはないだろ」
「もちろん、冗談だって」
千波の冗談にもそろそろ慣れないとだな。
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