女子会男子、雨海くんには彼女ができない
川崎俊介
第1話 魚・草・ゆるキャラ
屋上で食べるぼっち飯というのも悪くない。
教室の喧騒から離れられる。下らん下ネタで盛り上がる男子からも、人の悪口で盛り上がる女子からも離れられる。
陽キャのノリにはついていけないし、陰キャの卑屈さには辟易してしまうし、オタクの会話に混ざれるほど詳しくもない。
だがおかげで、無意味な競争、見栄の張り合い、縄張り争い、恋愛のこじれ。などなど、面倒ごとに巻き込まれずに済む。ま、この学校は曲がりなりにも有名大学の付属校なので、暴力沙汰などがないのがせめてもの救いだ。
弁当を完食し、午後の授業までもうひと眠りするかと思っていたときだった。
なんと、屋上で愛の告白が始まった。
俺は階段で上がった数段高い場所にいるので、向こうは俺の存在に気付いていないようだ。
男の方は男子からも人気の、成績優秀、スポーツ万能なイケメンだった。名前は忘れた。何やら熱のこもった前置きを長々と語っている。対する女子は若干ウザそうだ。
「どうするよ……これ」
当然今出ていくわけにはいかない。だがいずれにせよ出ていかなければ、授業に遅刻してしまう。
っていうか、女子の方は俺の知ってる奴だな。
「で? 結局何が言いたいの?」
ついに痺れを切らしたのか、いらだちを隠しきれなくなっている
奴は藍川千波。
成績は全国模試一位、運動神経抜群、さらにはピアノの腕もプロ級というとんでもないバケモノ美少女だ。小麦色の健康的な肌と、快活そうな笑顔、濡れたように光る黒髪で、多くの男子を虜にしてきた。
俺の数少ない知り合いでもある。
「つまりその、ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください!」
男子の方はようやく勇気を出して右手を差し出した。というのに、千波はあからさまに嫌そうだ。目を逸らし、上を見上げて考え込んでいる。すると、こっそり様子を眺めていた俺と目が合ってしまった。
「あ! 真一! こんなところにいた! もう! 一緒にご飯食べたかったのに!」
「へ?」
なに告白の途中で他人に話しかけてんだ。相手がかわいそうだろ。男子の方はなんかキョトンとしてるし。
俺は必死に黙るようサインを送るが、千波は無視してこちらに近づいてくる。
「あれ、もしかして藍川さん……」
「そ。こちら、私の彼氏の雨海真一くん。ごめんなさい。もう付き合ってる人いるから、あなたとは付き合えないわ。気持ちだけ受け取っておくわ」
「そ、そんな……」
おい。悔しげに俺の方を睨むな。色恋沙汰で恨まれるのはごめんだぞ。
とはいえ、千波が『話を合わせろ』とばかりにこちらを凝視してくるので、反論できない。
「ま、そういうことなんで……」
俺はそうとだけ絞り出すと、さっさと屋上から退散した。
放課後。
俺たちはいつものファミレスに集合していた。
「で、なんで俺に助けを求めてきた?」
「だって。面倒くさいんだもん。具体的に相手の嫌なところ列挙したって、『頑張って直すからさ!』とか言われたら断れないでしょ? それだからって、何も話を聞かずに無下にするわけにもいかないし……」
まぁそうだよな。家は金持ちらしいが、高飛車お嬢様キャラじゃないのが千波の良いところだ。
「だからって俺を彼氏扱いするのはどうなんだ? もう学校中の噂になってるぞ」
「別に。真一の彼女だと思われるだけだったら構わないし」
え。それはちょっと嬉し……
「真一、無害そうだし。他の女子からも嫉妬されないだろうから、ちょうどいいのよね」
全然嬉しい理由じゃなかった。
「ま、確かに。真一を彼氏にするなんて、相当な物好きのすることだしね」
と言ってきたのは宇田川玲奈。実に学内の5%の男子が玲奈の彼氏だったことがあるというとんでもないギャルだ。
っていうか、『物好きのすること』ってなんだよ。ひど過ぎないか?
「宇田川さん、それ、自分のこと言ってる?」
「ハァ? 陰キャ女子は黙っててくださーい」
「フッ、このビッチが」
毒を吐いているのは天堂あゆみ。俺の後輩の一年生だ。同性に対しては異様に攻撃的になる。
「でもまぁ確かに? 雨海くんは肉食キャラでも草食キャラでもないよね。誰とも付き合えなさそう」
自称ゆるふわ系女子の藤堂瑠香が、面白そうにそんなことを言ってきた。そんな残念なキャラなのか、俺は。
「じゃあ、何キャラだっていうんです?」
あゆみが問いかける。おいやめろ。これ以上この話題を広げるな。俺だってこれでも男子高校生なんだ。彼女が欲しくないわけがない。
「肉食獣でも草食獣でもない……となると、魚?」
「草食系女子にすら食われそう。だから、草?」
「人畜無害そうだから、ゆるキャラ?」
「まともなの一個もないな……」
なんだよ。魚とか草とかご当地キャラだとか……
要するに俺は男としての魅力がないってことか。これでは、彼女ができる日も遠そうだ。
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