一ノ瀬陽菜@マジカル✩サンライズ(3)
(前回のあらすじ)
親友を盾に取られ、身代わりにその身を弄ばれそうになった一ノ瀬陽菜ことマジカル✩サンライズ。
しかし一転、魔法の力で男子生徒たちの悪巧みを粉砕すると形勢逆転!
さあ、ショー・タイムの始まりだ!
◆
「さて、貴方たちには今から罪を償ってもらうわけだけど、炎で焼かれるか、氷漬けにされるか、風で切り刻まれるか、岩で押し潰されるか、どれがいい? 私優しいから、好きなものを選ばせてあげる」
そう言って微笑むサンライズの笑顔は菩薩像のようなアルカイックスマイル。
しかし、聞かれた男子生徒たちにしてみれば、死神が笑っているようにしか見えない。
「ま、待て、待てよ。プリティ✩マジカルはジャアークから街のみんなを守る正義の味方なんだろ?」
「そ、そうだ! 俺たち善良な一般市民に危害を加えるなんて……」
「正義の味方? なにそれ、サンライズわかんなーい♪」
命乞いをしようと悪あがきする男子生徒たちが、もっともらしい理由で攻撃を止めようとしたが、サンライズのすっとぼけた声で全てがかき消される。
「たしかにぃ、私たちはぁ、ジャアークを倒すために戦ってるけどぉ」
「なら……」
「だけどぉ、私はおまわりさんでも自衛隊でもないからぁ、市民の安全を守るのは仕事のうちに入ってないのよねぇ」
「え……?」
プリティ✩マジカルはジャアークを倒すために戦う存在なのは間違いない。だが、それ以上でもそれ以下でもないのもまた事実。
ジャアークは街や市民を襲い、この世界を邪悪に染める存在だから、それを倒すことが結果的に街や市民を守ることにつながって正義の味方と思われているが、人命救助は優先事項ではなく、彼女たちの絶対の使命でもない。
「ジャアークってクッソ強いのぉ。建物を壊さないようにとかぁ、街の人に被害が出ないようにぃなんて考えて戦ってたら、勝てるものも勝てなくなっちゃうもん(テヘペロ)」
実際サンライズに限らず、これまでプリティ✩マジカルとジャアークが戦ってきた場所は少なからず建物被害や人的被害が出ている。
だが、こればかりはどうしようもない。そもそも怪物が現れた場所のすぐ側にプリティ✩マジカルがいつもいるわけじゃないから、彼女たちが到着するまで街は破壊され放題。
放っておけば100%破壊されるところを、彼女たちのおかげで20%や30%の損傷で済んでいるのだから御の字と言うべきだろう。
サンライズは茶化したような声で話しているが、内容は中々エグい。
「もちろん守れるものは守ってあげたいけど、全員守るのはムリ。死人が出るのは仕方ないのよ。そういうときに、どうやって優先順位をつけてるか分かる?」
元は普通の中学生なのだから、サンライズも鬼ではない。助けられる者は助けてあげたいと思っている。
だが、そこには確たる優先順位の付け方が存在しているのだ。
「その人が善良かそうでないか。それだけよ」
「なら俺たちだって!」
「そうだ! 俺たちだって善良な一般市民だ!」
「はあああああああ? 誰が善良な一般市民だって? 同級生をレイプするようなクズのどこが善良なのか400字以内で答えろや!」
ぐうの音も出ないど正論である。
彼らがやったことは明らかなる犯罪行為であり、どの口が善良と言えるのかと、サンライズでなくても言うであろう。
「というわけで、悪い子は消えてもらいまーす♡ ジャッジメントですの♪」
「いや待って! 俺たちジャアークじゃねえぞ。そりゃたしかに悪いことはしたけど……人間だぞ! プリティ✩マジカルの敵じゃないぞ!」
誰だって死にたくはない。それは彼らのようなクズ野郎であっても変わることはないから、どうにかして命乞い出来ないかと、ジャアークとは関係ない人間を殺すのかとサンライズの良心に訴えかけた。
「いや、敵だよ」
だが……そんな願いはあっさり一言で打ち消される。
「一応教えてあげるけど、ジャアークって人の邪な心を栄養にして怪物に育つのよ。アンタたちみたいな人間の悪い心がエサになるの」
「なら、これから心を入れ替えるから……」
「ムリ。口ではどうとでも言えるけど、人間の本性なんて変わらないわ。まして性犯罪って再犯率クッソ高いのよ。中学生の時点でそれに手を染めているような奴、更生の余地無しよ。後々ジャアークになられるとメンドいから、ここで消えて♪」
「や、やめろ……ここで俺たちが死んだら……俺たちの家族が……」
「大丈夫! 私魔法少女だよ!」
最後に一縷の望みをかけて、自分たちがいなくなったら家族が騒ぎ立てるぞとか、悲しむからといった理由で情けをかけてもらおうとしたが、腰に両手を当ててやや前屈み、体操のお姉さんかな? みたいな姿勢でサンライズが元気よくそれに答えた。
「私の素敵な魔法でみんなの記憶を改ざんして、貴方たちが元々この世界に存在しなかったことにしてあげるから大丈夫!」
アルカイックスマイルを崩さないサンライズがステッキを一振りすると、男子生徒たちの周りで数多の小さな星が煌めき出した。
「ああ、でも一応聞いておいてあげる。反省してる?」
「し、してる! してるから! 命だけは、命だけは……」
「よし! じゃあ君たちは生かしておいてあげる!」
「本当か!」
「うん! 次元の狭間で死ぬまでね♡」
「……え?」
「プリティ〜✩マジカル〜」
男子生徒たちの周りで煌めく星の光が、サンライズの呪文に呼応するようにその輝きを増すと共に、サンライズのドスの利いた声が響く。
「次元の狭間へ……堕ちろ」
刹那、星々が大きな輝きを放った後に消え去ると、教室に男たちの姿は無く、それどころか先程吹き飛ばしたはずの腕や血しぶきも含め、何事も無かったかのように元に戻っていた。
「恵美ちゃん、ごめんね」
そして、教室に残されたのはサンライズと、虚ろな目をして何の反応も見せない恵美の2人だけ。
全てが片付いたことを確認すると、彼女は恵美の身体をぎゅっと抱きしめた。
「こんなになるまで助けてあげられなくてゴメン。でも……おかげでジャアークの元を断ち切ることが出来たわ」
サンライズの呼びかけに、恵美は微かに口元をパクパクさせるだけ。理解しているのかどうかも分からない。
「心配しないで。貴女の心の傷も、身体の傷も、全部消し去ってあげる。忌わしい記憶と共にね」
こうして、また1つ悪の芽を断ち切ったマジカル✩サンライズ。
鬼畜か! 悪魔か! いえ、魔法少女よ!
次回、一ノ瀬陽菜編最終回!(つづく)
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