伝統
あの事件での僕たちの活躍について語るなら、その前に僕と彼女の中学校生活での活躍を語らなければなるまい。
時間は中学一年生の秋……具体的には九月まで遡る。あれは文化祭での出来事だった。
僕たち鳴鐘学園の文化祭は九月に行われる。一応、昔は鳴鐘大学との合同で行われてたみたいだけど、大抵はそっちに人が取られて鳴鐘学園の催し物にはあまり人が集まらなかったから別日程になったみたいだ。ちなみに大学の方では六月に行われるらしい。
ややこしい話だけど、その中学時代の活躍のひとつを語るのにまず僕たちの入った部活動の話をする必要がある。
僕と神無月さんは同じ『ミステリークラブ』に入部した。ちなみにこの学校には『ミステリー同好会』と『ミステリー研究会』も存在する。
ミステリークラブには他にも一人先輩が在籍しているが、活動にも一切顔を見せず部活動紹介にすら参加していないようだったので筋金入りの幽霊部員だと見た。
ミステリークラブは部員は3人のため正式には部活動と言うよりは同好会に分類されるのだけれど、ミステリー同好会と言う部活動と名称が被るためミステリークラブと言う名前のままなのである。
おそらく名称から推測するに、ミステリークラブの方が歴史は長いのだろうが栄枯衰退とはまさにこのことなのだろうか?もっとも、僕はこの部活が繁栄していたかどうかなど知らないが。
僕がどういう理由でこの部活(正確には同好会だけど!)に入ったかと言うと、至極単純な理由である。ミステリー同好会とミステリー研究会は推理小説について話し合ったり研究する同好会(正確には部活動の規模)と研究会だと配られた部活紹介の用紙には書かれていた。しかしミステリークラブの紹介にはただ一文だけ、「謎が好きな者よ、来たれ。」と書かれていた。
僕は身体を動かすのは苦手では無いが好きでは無いし、他の文化系の部活動の紹介もこの紹介文と比べるとどうしても劣って見えたため、この部活に入部することにした。
ちなみにこの紹介文、多分使い回しである。なぜなら幽霊部員の先輩も、ここ以外でももう一つ部活の顧問を担当している先生も、考えるわけがないからである。
あらためて考えると、
ちなみに神無月さんが入部した理由は
「桐ヶ谷くんの面白い推理を聞けそうだからね」
と言っていた。彼女に僕がどこに入部するとか会う話をした覚えはなかったけど。
とにかく僕と神無月さんは、こうして活動内容不明のミステリークラブに入部した。
時が経って九月になった。入部して一学期は過ごしたが我がミステリークラブだったが、活動内容不明のままである。
幽霊部員の先輩が部室に顔をみせに来る気配も微塵も無いし、顧問も部室にやはり全く来ない。
そのためこの部室は実質、気を置かないで済むプライベートルームとして使われている。
「神無月さん、知っての通り僕たちは今月の終わりぐらいに文化祭を控えてるんだ。」
文化祭は九月の終わりぐらいに行われる。
「そうだね、知ってるよ。でも桐ヶ谷くんは何か出すつもりなの?」
「知っての通り、文化祭は基本的に部活動・同好会展示だけ。そして僕たちミステリークラブも何かしらの演し物を行う権利があるわけだ」
神無月さんは頷いて先を促す。
「そりゃあ当然、出さないことだってできる。強制では無いからね。でも風の噂によると、ミステリークラブは毎年何かしらをやっていたそうじゃないか」
本当に噂として小耳に挟んだ程度なのだが、もし本当ならその伝統を僕が絶やしてしまうというのも実に忍びない。
それに、これこそがミステリークラブの解くべき謎じゃないか。
「そうなの? それは誰から聞いたの? 桐ヶ谷くん」
「ほら、今朝のホームルームの後に友人の
「多分だけど志布谷じゃなくて
「そうそう、鹿谷くん! とにかく、まずはそもそも展示をしていたのか、していたなら何をしていたのかを調べようじゃないか」
そういうわけで、どんな演し物をしてきてするべきなのかすら知らないけれど、僕は文化祭の部活動展示に参加することにした。
謎を解くにはまずは手がかりから。
伝統を継ぐのなら、まずはやはり先人から聞くことだろう。しかしこの部活には先輩は一応在籍しているが幽霊部員であるため当然一度も顔を合わせていない。
名簿からクラスと顔と名前は分かるだろうが、幽霊部員になっている人が活動内容を知っているとも考えられない。
では何を持ってすれば分かるだろうか?
実は既に目星はついている。
「神無月さん。多分だけど、部室に何かしらの昔の文化祭のための資料が残ってるよ」
そう、何を隠そうこのミステリークラブには最大では無いにしろ、少なくとも最小ではないと分かるほどには大きめの部室がなぜか割り当てられている。
「……そうね、探しましょうか」
あっさりと神無月さんはあっさり承諾してくれたので、二人で部室の中を捜索することななった。
ミステリークラブの部室は驚くほどに捜索箇所は少なかった。そして、どの捜索箇所にもやはり資料は無かった。
「無いね、桐ヶ谷くん」
「そうだね、やっぱり無いね」
「……もしかして、無いのをわかってて探したの?」
「万が一にも可能性があるなら、潰しておくべきだと思ったんだよ。選択肢は絞れるだけ絞った方がいいんだ」
「……もしかして怒った? 神無月さん?」
少し間が空いた。怖いなあ。
「……別に。怒ってないよ」
本人が怒ってないと言うのなら、怒ってないのだろう。さて、次の目星を探すことにしよう。
「そういえば、神無月さん。去年の鳴鐘文化祭には行った?」
「私は親に受けとけって言われてここを受けたから行ってないよ。そこまで興味はなかったから」
「そうだよね。僕も行ってない」
あれ……? どうやらこれも外れたみたいだ。というか、たしかに以前に文化祭にきたことがあるなら元々何をしてたかくらい分かっててもおかしくないだろうし、むしろ当たった方がおかしいか。
「そういえば、神無月さんって友達いる?」
「そりゃあいるよ、クラスに何人か。というか桐ヶ谷くん、すごい失礼なこと言わなかった?」
確認は大事だから聞いたんだよ。
「気のせいだよ。気のせい。じゃあ友達に聞いておいて、去年の文化祭のパンフレット残ってないかって。僕の方も聞いておくから」
なぜか神無月さんから、友達居たんだ……。と言わんばかりの驚きの表情が見えたが、気にしない。
残念なことに、僕の友人は全員パンフレットを持っていないみたいだった。もしかしたら持ってたのかもしれないけど、僕が聞かれた側だったら多分だけど、持っててもめんどくさがって持ってないって答えると思う。
さて、神無月さんの友人は持ってたのかな? 足早にミステリークラブの部室に向かう。部室にはすでに神無月さんが小冊子を携えて待っていた。
「こんにちは、神無月さん。聞くまでもないかもしれないけど、パンフレットは見つかった?」
「うん。ほら、これが去年のやつだって」
パンフレットに目を落とす。パンフレットにミステリークラブの部活動展示の案内はやはり載って無かった。
「……これは謎だね」
「そうね、何か載ってると思ってたけど何も無いわね……」
しかし、このパンフレットは実に有益な情報を一つ残してくれた。
「どうするの? とりあえずこれじゃ、鹿谷くんが言ってたっていう毎年何かしらしていたという情報の信憑性が怪しいのだけれど」
「そうだね、怪しい。でもかなり信憑性があると言える根拠が実は見つかってるんだ」
そう、パンフレットは情報を残していた。
「……根拠ってどれ?」
「ほら、これ。文化祭実行委員の欄だよ。去年の委員長は……
「……うん?」
「つまりだよ、鹿谷くんは兄が居て、その兄が去年の文化祭実行委員長だったんだ。だから彼の発言にはかなりの信憑性がある」
「なるほど、確かにそれなら又聞きではあるけど一定の信憑性はあることになるね」
まとめるとこういう事になる。
「さて、ここまでの情報から推測するに、ミステリークラブは毎年文化祭で演し物が何かまでは分からないけど、何かしら行っている。そして、それはパンフレットに載せるような公式なものでは無い。ということになるね」
自分で言っておいてあれだが、結局は何をするのだろうか?
「振り出しとは言わないけど、余計わからなくなったね」
「……いや、わかったことがある」
「わかるの?まだ推理するにはあまりにも手がかりが足りてないと思うけど」
「いや、十分わかったよ。つまり、ミステリークラブの文化祭での行いは取るに足らないものってことだよ。ちゃんと受け継がせたいなら部室に資料でもヒントでも置いておけばいいじゃないか。」
これが僕の結論である。しかし、この謎の同好会は結局は何を行っていたのだったのだろうか。
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